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18 きれいにしよう


ドレイクは唖然としたまま、建物とリンとトーマを見比べ何度も首を左右に動かした。

しばらくは首振り人形の様になっていたドレイクだか、唐突にビタリとリンとトーマに視線を固定するとそのまま大股で二人に近付いて来た。

ドレイクのその様子にトーマがそわそわ始出す。


「姉ちゃん、ドクの顔がめっちゃ真剣や。」


トーマのその言葉にリンは諦め混じりの苦笑いを浮かべた。

トーマの顔が面白い遊びをする前の期待に溢れた顔になってしまっている。


「あんな真剣な顔で近付いて来られたら、

逃げるしかないやん?」


そう言い切ってしまう前にドレイクとは反対方向に猛ダッシュで走り出すトーマ。


「あっ?!トーマ?!」


それにつられる様にしてドレイクも走り出す。

今起きた出来事についてならリンに聞くという選択肢もある筈なのに、ドレイクはリンの横を通りすぎてトーマを必死で追いかけて始めてしまった。


「あー、そこで追いかけたらトーマが喜ぶだけなのに。」


リンは小さく呟いて嘆息した。

トーマが走り出した事に意味などない。元々、緊迫した空気に耐えられない性格である事、加えてドレイクがトーマの中で遊び相手と認定されてしまっている事でこの状況で鬼ごっこが始まってしまっただけである。

小型犬が大型犬に構って欲しくてじゃれあっているだけに見えるリンは、とりあえずトーマとドレイクは放って、街の人達に謝りに行こうと魔法を行使してしまった建物の方へと足を向けた。

建物の周りにいる人達はきれいになった建物を不思議そうに触ったり、建物に出たり入ったりしている。

リンは建物の前で人が集まっている所で声をかけた。


「あの、すみません。

魔法がかかってしまったお家に住んでいる方でどなたかいらっしゃいますか?」


リンの言葉に、人だかりの中から数人が側にきた。その中から恰幅の良いエプロン姿の女性がリンに声をかけてきた。


「あの真ん中の家は私の家だよ。他はその人らの家だ。」


その女性は一緒にリンの側にきた人達の方に視線をちらりと向ける。


「あの、すみません。

魔法を使うつもりではなかったんです。たまたまなってしまった、っていうか。

多分、元には戻せないと思います。あの、思い入れのある傷とか、身長の記録とか、全部消えてしまったりとか。

あの、すみません。」


リンは早口に言い切ると頭を下げた。

持ち主の許可もなく、勝手に魔法を行使してしまった。申し訳ない気持ちがいっぱいだった。


「嬢ちゃんがしたのかい?はぁー、すごいねぇ。怒っちゃいないよ。むしろありがたい。」


その女性はリンの頭を撫でながら軽快に笑った。

リンはそっと顔をあげた。


「あの、でも、」


「ははっ。ここらの建物は古いし、汚いだろう?建物を建て替えようと言う話にはなってるんだけどねぇ。密集して建ててあるから各々で建て替えるのは難しいし、かと言って皆で一緒に建て替えるにも、皆それぞれ都合があるしねぇ。

どうしたものかと話し合っても良い案が出なくてねぇ。さっきも皆とドレイク坊っちゃんとでその話をしていたんだけど・・・」


その女性はそこまで言うと、閃いたと言わんばかりにパンッと両手を合わせた。


「お嬢ちゃん、他の建物もできるかい?」


にっこりと笑って身を乗り出すようにリンの両手を握ってきた彼女の言葉と勢いにリンは思わず頷いてしまう。


「皆、聞いたかい?嬢ちゃんが建物をきれいにしてくれるって!!」


彼女の大きな声が辺りに響くと、周りにいた人達がなんだなんだと集まってきた。


「嬢ちゃんがしたのかい?すごいな!魔法が使えるって事はドレイク坊っちゃんと同じお貴族様かい?」


「へー小さいのにすごいなぁ。魔法が使えるのかい?。」


「うちもお願いしたいね。古くはないが汚くてねぇ。」


「あんたんちは掃除したら良いだろう。」


「お姉ちゃん、すごいねぇ」


集まってきた人達に一斉に話しかけられてリンはわたわたと動揺する。

女性の勢いにのまれて思わず頷いてしまったがさっきと同じ様にできるかどうかの自信はない。いや、多分できるとは思うが、安全なのか、他に影響がでたりしないのかとか、不安がよぎる。


「あの、弟と二人でやったので弟にも相談してみます。」


リンはそういうと、輪の中から出てトーマを探した。

二人はすぐ側で走り疲れて座りこんでいた。トーマの服の端をドレイクが握っているところを見ると、どうやらトーマが捕まって終了した様だ。


「トーマ、街の人達が他の建物もきれいにして欲しいって。

できると思う?

ドク?広い範囲で魔法って使っても大丈夫と?何か困った事にならん?」


息が整わず、ゼイゼイと言っている二人にリンが訊ねた。


「っと、待ってくれ、その前に、何で、トーマは、逃げ、たんだ?」


息を切らしながら訊ねるドレイクにトーマも息を切らしながら答える。


「ドレイクが、怖い顔して追い、かけてきたけん。」


「俺が、追いかける前に、走って逃げ、ただろう?」


「ドク、トーマはドクの顔見て走っていっただけで、意味はないよ。トーマに好かれたとよ。残念やけど、好かれたら、ちょいちょい空気も読まずにじゃれてくるけん。あきらめて。」


トーマの一番の“じゃれあう被害”にあうリンが嘆息しながら言った。

ドレイクは呆けた。隣でトーマが笑いをこらえながらやれやれといった風にドレイクの肩にポンと手を置いた。


「で、それはどーでも良いから、どうなん?二人とも。

魔法を広い範囲で使うことに問題は?ドク?」


無駄に走らされたお礼といわんばかりにトーマの首を腕で固定して髪をわしわしとかき混ぜていたドレイクがリンの言葉に真面目な顔をしてトーマの首からてを離した。トーマも笑うのをやめてリンを見る。


「そうだな。魔法を使う範囲によって何か問題が起こる事はないと思う。使う魔法にもよるけど。ただ、使える範囲については魔法を使う術者の力量も関係してくるだろうな。

固有魔法なら術者の保持している魔法量が関係してくるし、指南魔法は魔力を集めれる量とか出力の量とか・・・

そうだ!さっき使った魔法言語?!俺も始めて聞いたんだけど?!二人はどうして知っていたんだ?!」


「魔法言語?」


急に姿勢が良くなったドレイクに二人が困惑ぎみにドレイクの言った言葉を繰り返す。魔法言語と言われても意味がわからない。


「えっ?魔法言語。さっき口にしていただろう?」


さっき?とトーマは首を更に傾げたが、はっとして


「リペアとかクリーンとか?」


と口にした。

ドレイクの目が大きく見開いた。ただでさえ大きな目が更に大きくなる。

(目、でっかい!)リンは自分の細い目を思い出し、何だかモヤっとして、両手でドレイクの頬を掴むと左右に引っ張った。


「痛っ!えっ!なに?なに?」


「何も?」


笑顔で答えるリンにドレイクは困惑顔だった。リンは両手を外しながら、自分のとった行動に自分もドクに気を許しているのだと自覚した。


「魔法言語?・・・姉ちゃん、あれじゃない?言語理解。ステータスの。」


考え込んでいたトーマが顔を挙げてリンを見た。トーマの言葉にステータスにあった“言語理解”の単語を思い出し、ああっとリンも頷いた。


「ここの言葉みたいに魔法言語も勝手に翻訳してくれるって事?」


「多分、ね。

仕組みはどうなっとうかわからんけど、魔法を使おうと思ったりしたら魔法言語に翻訳されるって事やない?意識してないけん、魔法言語かどうかわからんけど、ドレイクには魔法言語に聞こえるって事と思う。」


リンがドレイクに視線を向けた。ドレイクは二人の話がみえない。頬を擦りながらハテナマークを頭に浮かべている。


「うーん。ガウスさんはどこまで何を話しとうとかなぁ。ドクは私達の事どう聞いた?」


「リンとトーマ?違う場所からきた父の大切なお客様。みたいな話だったか?」


「あー。わかった。了解。

私達のいた場所とこの場所は言葉が違うみたいなんやけど、私達の、多分固有魔法になると思うけど、その魔法に“言語理解”っていうのがあって、それでこの場所の人とも話ができてると思うんやけど。

多分、魔法言語もその“言語理解”が翻訳してくれてるんだと思う。

私達にはこの場所の言葉もドクの言った魔法言語も普通の言葉に聞こえとうけん。」


リンの言葉に、ドレイクが首をひねりながら考え込み始めた。

リンは後ろから感じる視線に、街の人達の言葉を思い出した。


「じゃ、なくて。トーマ。ドク。

街の人が建物を直してって。

ドク問題ないならできる範囲でやってみて良い?

トーマ、どうする?とりあえずやってみる?」


リンの言葉にトーマが立ち上がって背伸びをする。


「んーーー。わかった。やってみますかね。」









 街の人達と話し合いの末、あまりに広範囲な為に一度ではできないのではという結論に至った。

とりあえずは一番古くて危険そうな所だけを今日、残りはガウスにも相談した上でできれば早々に複数日中に分割して整備していく方向で話はまとまった。



希望していた昼食もお店巡りも出来なかったが、帰り際に街の人達からもらったお土産を抱えつつ、中々に充実した1日を過ごした三人は大満足で帰路についた。










 街の人達と話し合いの末、あまりに広範囲な為に一度ではできないのではという結論に至った。

とりあえずは一番古くて危険そうな所だけを今日、残りはガウスにも相談した上でできれば早々に複数日中に分割して整備していく方向で話はまとまった。



希望していた昼食もお店巡りも出来なかったが、帰り際に街の人達からもらったお土産を抱えつつ、中々に充実した1日を過ごした三人は大満足で帰路についた。

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