17 街に行ってみよう
従者の「そろそろ街に出発されませんと」という言葉に我に返った三人は慌てて支度をし、街へ向かう。
といっても門から出てしまえばそこはもう街である。但し領主邸から門までがかなり遠い為、門までを馬車で移動する、という不思議な道程だった。
街に出て、リンとトーマが最初に驚いたのは、街の人達が気軽にドレイクに話かけて来る事だった。
大人達は仕事片手に声をかけてきたり、手を止めて話をする者もいて、子供達も警戒なく近くに寄ってきている。
異世界貴族あるあるを想像し、遠巻きに見られたりするのかなと思っていたトーマとリンは、その様子を見て少し気持ちが弾む。
「ドクは街の人達と仲良しやね。領主と領民?って仲良しなんやね。」
リンが感じた事をそのまま口にするとドレイクは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「モルディエラは特別だな。他の領地はそんな事はない。領民から領主やその一族に声をかける事はまずないし、仮にあったとしても無礼だ何だと罰せられる場合もある。」
「特別?っていうのは?」
「モルディエラは魔物域と隣合っているからな。滅多にないけど、街まで魔物が来ることもある。皆で助け合ってモルディエラの領地を守っている意識が強いんだ。」
誇らしげに話すドレイクにリンも嬉しそうに笑った。領主邸の中で働いている人達も、街の人達も、もちろんドレイク達領主一族も、皆暖かくて優しい。それが嬉しかった。
「初めて来た時にも思ったんだけど、」
いつの間にか子供達と遊んでいたトーマがリンの側に戻ってきながら声をかける。
ドレイクは二人から少し離れた所で街の人達と話をしていて側にはいない。
「建物、古いよね?壊れそうやけど大丈夫かね?」
小さな声で言ったトーマの言葉に、“確かに”とリンは周りを見渡した。
街並みは汚くはない。汚くはないが、綺麗とも言いがたい。ゴミとかが落ちているわけではないが、建物が全体的に古い感じで、所々崩れそうな建物もそのままにしてあるの為か、不安な気持ちになる。
街には人が溢れ、様々な市場やお店もあり、行き交う人々は活気に満ちている。しかし、皆楽しそうにしているが、やたらと体臭?や香水が強く、気分が悪くなりそうだ。
リンはトーマに視線を戻して小さく頷いた。
街は領主の館の前方に扇状に広がっている。領主の館に近ければ近い程、古い建物が多く、今にも崩れそうな状態のものも少なくない。
あまりにも密集しすぎていて、建て直しも難しいのだろう。
それでも領主邸に一番近いその場所が1番賑わっているのは、ドグと領民の関係からも伺える様に、領主と領民の中が良好である為だろう。
「あれ、ならんのかな?」
「あれ?」
「なんかさ、こう、異世界あるあるとかの・・・クリーン!とか?
こう、汚れだけふわぁっと光に包まれて消えたりとか?」
トーマが右手を前に向け、左から右へ水平に手を動かしながら言った。
リンがトーマの真似をしながら言う。
「あぁ、ねっ。リペア!とか?古くなった建物の時間が巻き戻るみたっっっ・・・・?!?!?!」
リンのセリフは途中で途切れた。
二人が手を動かした範囲の前方の建物が光の粒に包まれ始めたからだ。光の粒は建物や下に敷き詰められたレンガを覆うように集まった後、次第にゆっくりと薄らいでいった。
トーマが手を動かした範囲の建物は薄らと汚れ年季が入っていた感じが無くなり、埃1つ感じない清潔な建物に。リンが手を動かした範囲の建物は崩れかけた壁や屋根は元ある形を取り戻している。
二人の手が重なった部分の建物に関しては新品同様だ。
建物の中にいたのだろう人達が扉からはじける様に外に出てきた。あわてふためく住人達。
ドグとその周りにいた街の人達もおしゃべりを止め口を開けたまま固まっている。
はっと我に帰った二人は顔を見合わせた。
「・・・・・・やらかし?」
「・・・・・・やらかしやね・・・」