13 ドレイクと仲良くなれました?
リンとトーマは急いで朝食を済ませた。「トイレ」と言ったトーマをおいて、リンが一足先に歓談室へと足早に移動する。
廊下の角を曲がった先で、前のめりに歩いていたリンの顔面が、無いはずの壁に勢いよくぶつかった。
「いっ!」
リンはぶつけた顔を手で押さえ、ぶつかった物に視線を沿わせながら上の方を向いた。
リンの視界にいたその人物はキョロキョロと周りを見回して首を傾げ、はたと気付いて視線を下げた先にいたリンと目が合うと「あっ」と小さく呟いた。
リンは目の前の人物のその反応をみて若干の苛立ちを見せる。(あって言った?小さくて見えんかったって言いたいって事?)
リンは真っ直ぐに上げた顔を斜に傾けて口角だけを上げた。
「ドレイクさん、大きいですね。」
リンの強めの語尾に、若干の皮肉を感じたドレイクが焦って口にした言葉はまずかった。
「リンさんは小さいですね。」
悪気のない、つい釣られて同じ言葉を口にしてしまったドレイクのセリフに、リンのこめかみがピクリと動いた。
「視界に入らない位、私が小さい、と言いたいんですかね?前見てなかった私も悪いですよ?悪いです、けど、も!視界に入らない程小さくはないつもりですけど?」
リンの口元だけの笑みと口調から、リンの苛立ちを感じたドレイクが慌てる。
「いや、違います。そういう意味ではなくて」
「ドレイクさん?身長が高いのは誉め言葉になっても、小さいという言葉はあまり誉め言葉にはなりませんよ?少なくとも、私にとっては。」
「いや、ちが、」
大きなドレイクのあわあわと慌てて弁解しようとしている姿は、いたずらが見つかって慌てている大型犬を彷彿とさせる。
大して腹を立てていた訳でもなかったのもあって、リンの苛立ちは消えた。
リンの雰囲気が柔らかくなった事に気付いて、わたわたとしていたドレイクの動きが止まる。
見るからにシュンとしたその姿に、リンは犬の耳と丸まった尻尾が見える気がした。
リンはふと思い至ってドレイクに笑顔を向ける。先ほどとは違う苛立ちのない笑顔ではあるが、その笑顔には優しさがない。
「ドレイクさん?・・・ドクさんと呼んでも良いですか?」
唐突なリンの申し出にドレイクが戸惑いながら頷いた。
「大丈夫です。」
「あっ、私の事はリンと呼び捨てで。」
「じゃあ、自分もさんは要りません。ドク?で大丈夫です。」
二人が話していると後ろから追い付いてきたトーマが声をかけてきた。その声にリンが振り向いてトーマを見る。
「姉ちゃん?何しようと?
・・・おはようございます。ドレイクさん。」
トーマが後ろにいたドレイクに視線を移して小さく会釈した。
「おはようございます、トーマさん。」
ドレイクも会釈で返す。その横には目が笑っていない口だけ笑顔のリン。
「トーマ、ドレイクさんがね、ドクと呼び捨てにしても良いって。」
「ドク?ですか?」
リンの言葉にトーマがドレイクの顔を伺うとドレイクは首をたてに振った。
「ドクよ、トーマ。ドッグじゃないけんね。」
(はぁ?ドッグ?犬?)
トーマはリンのその言葉にこの数分間で何かがあった事、リンがそれに対して腹を立てた事を察した。
がしかしそこはトーマ。今の空気が悪くないので良しとして何も気付かなかった事にした。