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 研究所から引き剥がされる様にして戻ってきたトーマを待っていたのは、部屋のソファーでぐったりとしていたリンだった。リンはトーマを見るとゆらりと立ち上がり、左右にゆらりゆらりと身体を揺らしながらトーマに近づいてきた。リンの背後から溢れる負のオーラが鬼の形相を写し出している様に見えたトーマがたじろいだ。


「えっ?なに?なに?はっ?ちょっ?恐い、恐い!まじ恐い!」


トーマの浮かれ気分が一気に落ちる。恐怖の時間の到来だった。

 あの場に置いていかれたリンの怒りと疲れ、その全てが八つ当たりという形でトーマに向けられた。

そもそも男の子の中で男の子と同様に育ってきた彼女は、女子力はもちろん女子としての思考も欠片ほどしか持ち合わせていない。唯一、競技ダンスをしている時にだけ女子としての彼女が顔を出していた。ふわふわのお姫様の様な衣装をきて踊るスタンダードやピチッとした短いスカート丈のカッコいい衣装を着て踊るラテン。伸ばした髪はカチカチに固めて結い上げられ、キラキラとした飾りが付けられる。同一人物とは思えない程の化粧にバサバサと音が聞こえてきそうな付け睫毛。幼い頃からイベント等がある度にそれらを身に付けていた彼女は、その反動か日常では全くと言って良い程に髪型にも服装にも気を配らなかった。おしゃれやアーティストやドラマ等の会話に花を咲かせる事もなく、男の子に混じってゲーム機片手に「狩りにいこうぜっ」と言っていたのが彼女の日常であった。

その彼女がまさに女子力を必要とする女子の会話の中に何時間も拘束されていたのだ。勧められたデザイン画を見て「こんなもこもこ着てたら何もできない」と意見を延べたが故に話が長引いてしまったのには彼女にも責任があったかもしれない。だが彼女にとって、この時間を遠い目でやり過ごしていた同士のはずのトーマが、いつのまにかいなくなっていたのはとても許される事ではなかった。

言うまでもなく、戻ってきたトーマはリンから小一時間程責められる事になったのは必然であった。






 トーマが初めて研究所に行った翌日、リンがジト目でトーマを見る。


「まじ、本当に無しやけんね?」


通常よりも低い声でトーマに念を押すリン。


「わかっとるって。

って言っても、どうにもならん時は俺のせいじゃないけんね?」


小さくため息をつきながらトーマは返事をした。


「・・・そーいえば、今日は自分で着替えさせてもらえたね。」


納得いかないといった顔をしていたリンがふと気になった事を口にした。

途端、トーマの顔がどや顔になる。


「やろ?姉ちゃん、俺に感謝して良いよ。」


リンはどや顔のトーマをハイハイと軽くいなした。


「で?何?ガウスさんに言ってくれたと?」


「うん、昨日ね。

・・・あー。俺たちね、どうもちいさい子と間違われて着替えを手伝われとったらしい。」


「ちいさい子?ってはぁ?!1人で着替えられんと思われとったって事?」


リンが困惑の顔でトーマを見た。トーマは遠い目をしながら乾いた笑いで頷いた。

リンが振り替えってマリアに視線を移すとマリアがすぐに側に来る。


「あの、マリアさん。私達を何歳と思っていたんですか?」


「・・・12、3歳位かと思っておりました。」


リンの質問に答え難そうに答えると申し訳なさげに頭を下げた。


「あっ。大丈夫です。怒ったりしてません。12、3歳・・・?

12、3歳は自分で着替えれる歳と思いますけど?」


自分で着替えられない年齢を予測していたリンは予想以上に高かった年齢に首をひねった。12、3歳は着替えに手伝いがいる年齢ではない。首をひねったリンにマリアが答える。


「リン様はコルセットも装飾もいらないとおっしゃるのでかなり手の要らない服装になっておりますが、通常、お嬢様方のお召しになる服は装飾も多く、お1人で着るには少々大変な為、私共の様な者でお手伝いをさせて頂いております。年齢に限らず、領主様のお嬢様であればお一人で着替える事はほとんどございません。

・・・トーマ様は・・・何故でしょうか?男性はお一人で着替えるのが通常ですが・・・」


「・・・子供と思われていたのは俺だけ?いやいやいや、ないわぁ。」


「・・・最初にお召しになっていた物が見たことがない物でしたので、お手伝いをさせて頂いたのではないでしょうか。」


「そ、それは言ってもらえれば・・・」


マリアがふふと小さく笑う。当たり障りのない答えをしてくるアリアの心使いに、リンとトーマも小さく笑って答えた。


「リン様、トーマ様、先程ドレイク様より言伝てが届いております。朝食が終わったら歓談室でお待ちしておりますとの事です。お食事が終わったらお伝えする様に申しつかっておりましたが、いつもよりお食事に時間を要しておりますので先にお伝え致します。」


「ドレイクさんが?わかりました。ありがとうございます。」


マリアの言葉にリンとトーマが首を傾げながらお礼を言った。二人は顔を見合わせると急いで食事を済ませる事にした。





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