1.団長
「いいか、おまえは大きくなったら女の子らしくなって……」
亡き父の言葉は、途中までしか覚えていない。
自分がまだ幼かった頃に父上はとてもとても私のことを可愛がってくれた。
大きな手の平で私の頭を撫でてよく褒めてくれたものだ。
私が王立騎士団の試験に合格した時も、国中の猛者を集めて競う剣の大会で優勝した時も、決まって父上は応援に駆けつけてくれた。結果を伝えると、一番喜んでくれたのも父上だった。母上は隣で、泣いていたけれど……。
「女の子らしく……か」
昔からおてんばでがさつな自分には似合わない言葉。
「父上らしい最期でしたね」
懐中時計の中で変わらず微笑む父上。
写真は色褪せたけれど、こうしていれば傍で守っていてくれる気がする。
私の――宝物だ。
「あれー?どうしたんですか、副団長」
「あ……アレクシス団長!」
「珍しく副団長が笑っているもので、思わず立ち止まってしまいましたよ」
騎士というより王族といったような出で立ちの団長。
それこそ、騎士団のかっちりとした制服を身に着けてなければどこぞの貴族のお坊ちゃんに見えるのでは……?
団長は程よく伸ばした金色の髪を片手で弄りながら、海色の瞳をすぅっと細めて私のことを見据える。
私は、この人が苦手だ。
何を考えているのか分からない表情。
飄々としてるのに、自分よりも格上だという事実も。
それになにより……
「とぼけるんですか?まぁ、そんなところも可愛いんですけれどね」
ところ構わず、女性を口説くところが――本当に苦手だ!