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67:北の異界と白い天狗 (5)

 清森学園の門が目の前に見える。

 考えてみれば四神になぞらえた地に囲まれたこの辺り一帯は霊的な力の強い土地に違いない。

 妖怪を封じるにはうってつけと言えるのかもしれない。

 しかしこの学園のどこに茜が封じられているというのか。

 時刻はまだ昼下がりだが学園内に生徒達の姿はなかった。

 まさかみんな白銀に…。

 嫌な想像が頭をよぎった。

 いつも見慣れている校庭は緊張感のせいか今は違った景色に見える。

 

「水穂、あれは…」

 

 私は金色の瞳が見つめる先を目で追った。

 

「イズミちゃん…?」

 

 そのブロンドの髪は見間違うはずもない。

 イズミはカメラを片手に何やらキョロキョロと辺りを伺いながら校庭を歩いていた。

 出来ればそっとしておきたいところだが放っておくわけにもいかない。

 

「イズミちゃん!!」

 

 駆け寄って声をかけた。

 

「ミズホ!それに、蒼クンのお兄サンも!?何してるのデスカ?」

 

 それはこっちの台詞だ。

 

「イズミちゃんこそ!」

 

 私は質問には答えず聞き返した。

 

「急に臨時休校になったノハ何かあるのデハと思い調べに来たノデス」

 

 イズミの言葉から察するに生徒達は捕らわれたわけではなく休校のため校内に誰もいなかったのだ。

 もしもの事態を見越して暁史や理事長が先手を打っていたということだろう。

 

「良かった」

 

「何がデスカ?」

 

 思わず口に出した私にイズミは不思議そうな表情を浮かべる。

 

「そ、それで何か見つけだの?」

 

「まだ捜査中デス。デモ見てくだサイ、ブキミな雲!何かが起こりそうと思いまセンカ!?」

 

 イズミは瞳の奥に好奇心の炎を燃えたぎらせていた。

 イズミの言う通り低く暗い空は不気味で不安を掻き立てる。

 北の空に時おり稲妻が閃いた。

 胸を躍らせているイズミをなんとか学園から遠ざけないといけない。

 でも素直に帰るとは思えないし、学園で妖怪がらみの事件が起きているなんて言ったら絶対に逆効果だし。

 

「今一人にするのは危険だ」

 

 私の苦悩を読みとったのか蒼が告げた。

 

「えっ?」

 

 その言葉が意味するところはさすがに私にもわかった。

 空気に混じる違和感。

 あの不気味な細い手足の妖怪やら別の妖怪やらがぞくぞくと姿を現した。

 寒いわけではないのに空気は冷たく冷え切って、こんなにも明確な殺意というものを私は初めて感じた。

 

「ミズホ!コ…コレって!!」

 

 声はわずかに震えている。

 イズミの前だが仕方がない。

 

「臨、兵、闘、者、皆、陣、裂、在、前!」

 

 刀印を結び九字を切る。

 私は恐怖に負けそうな心を叱咤して精神を統一させた。

 

「ナウマク、サマンダ、ボダナン、ドボウシャナン、アビユダランジ、サトバダトン、ソワカ!」

 

 唱えて一気に力を解き放つと妖怪はあっけなく塵になった。

 実際に妖怪を調伏したのはこれが初めてだ。

 あまり気持ちのいいものではない。

 それは彼らを本来在るべき場所へと帰す作業なのだけど、命を絶っている感覚に陥る。

 それでも今立ち止まることは許されない。

 

「Oh!!…何をしたのデスカ!?今のハ妖怪ですヨネ!そうに違いありまセン!ミズホは実は退魔師だったのデスカ!?悪い妖怪をやっつけたのデスカ!!?」

 

 予想以上の食いつきぶりだ。

 まさかさっきの声の震えは恐怖でも悪寒でもなく興奮のせいだったのだろうか。

 

「イズミちゃん。今、学校内はすごく危険なの。後でちゃんと説明するから、私達から絶対に離れないで」

 

「妖怪退治が先ということデスネ。わかりマシタ。私も力になりマス!妖怪のコトには自信がありマス!」

 

 イズミはやる気満々だった。

 連れて行くのも不安だが一人にするよりは一緒の方が安全に違いない。

 そういえば以前イズミは髪切り事件のことを後日すっかり忘れしまっていた。

 そういう術があるのなら後で今日の事も忘れさせてもらおう。

 後で忘れてくれると思えば気が楽だ。

 私はまた現れた妖怪に向かって真言を放った。


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