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44:桐組と誕生日 (2)

叶斗宅で暮らすのだという事実に打ちのめされ疲れていたはずの私は部屋に案内されて驚きのあまりすっかり疲れを忘れてしまっていた。

 そこは以前泊めてもらった部屋だった。

 ホテルのように落ち着いた室内は高校生の部屋にしてはシックではあったけれど、十分に素敵だったはずだ。

 それが今は淡い色合いのカーペットやカーテン、そして壁紙までが張り替えられすっかり模様替えされている。

 木の風合いを残した真っ白な家具達が揃う可愛らしい部屋はモデルルームのようにおしゃれだ。

 

「水穂。どう?気に入った?」

 

 廊下から声をかけたのはつなぎ姿に頭にはタオルとまるで可愛らしい引っ越し屋さんスタイルの蒼だった。

 

「洋服とか入り切らなくて別の部屋にも置いてきたんだ」

 

「洋服?」

 

「あーでもね、僕一人で片付けたんじゃなくてキヨちゃんに手伝ってもらったんだよ」

 

 何故か慌てる蒼。

 クローゼットを開けてみればそこにはすでにたくさんの洋服が掛かっていた。

 それこそ持ってきたカバンの中の服よりもたくさんある。

 引き出しには下着まで。

 蒼が慌てる理由がわかった。

 窓際に置かれたドレッサーにはアクセサリーと少しの化粧品。

 

「これ、理事長先生が?」

 

「うん。孫が増えたみたいで喜んでるんだよ」

 

 朔良もそんな風に言っていた。

 

「しかも子供も孫も男ばかりで初めての女の子だからねぇ」

 

「へ…へぇ……そうなんだ…」

 

 そうだとしてもこんなに色々な物を私のために用意してくれるなんてなんだか申し訳ない。

 

「それと、これは僕とかなちゃんから水穂にプレゼント」

 

「えっ!?何?」

 

 予想外に手渡されたプレゼントは手の中でキラキラと輝いた。

 銀のチェーンに水色の石をちりばめたブレスレットだ。

 

「誕生日でしょ?おめでと、水穂。それには身を護る(まじな)いをかけてあるんだよ。ね!かなちゃん!」

 

 廊下の壁には叶斗がもたれかかっていた。

 

「ありがとう。榊河くんも…」

 

「浮かれている場合じゃないぞ。これからは気を抜いている隙はないからな」

 

 廊下の、少し離れた位置からそれだけ言って叶斗は去っていった。

 前に覚悟しておくように言われたのだった。

 はやりこれからは四六時中修行のような日々を覚悟しなければならないようだ。

 それでも、少しホッとした。

 こうして誕生日を祝ってくれる人がここにもいる。

 歓迎してくれる人達がいる。

 自分の居場所がここにもちゃんとある。

 

「急に決まったから大変だったでしょ?」

 

「うん、ちょっとびっくりしたけど。でも…こうなったのも私が術をちゃんと使えなかったからで、今まで通りじゃダメってことだよね」

 

「違うよ。一緒にいた方が水穂を護りやすいからなんだ。かなちゃんのは照れ隠しだから気にしなくていいよ」

 

 いつも通りの口調だから一瞬意味をはかり損ねた。

 私の身に危険が及ぶという意味を。

 私が狙われるかもしれないなんて考えてもみなかった。

 けれど、蒼の主人たる私はどう贔屓目に見ても部外者でありえないのだ。

 やはり今までと同じではダメなんだと思う。

 護られるばかりは嫌だから。

 蒼の主人だからここにいるっていうんじゃなくて、私だから――私が必要だからここにいていいんだって思えるようになりたい。

 いつか、きっと。

 先の見えない戦いに、手の中でキラキラと光を放つブレスレットがわずかに希望を映しているような気がした。


読んでいただいてありがとうございます!

今回は転章といった感じで、短めのお話になりました。


ちなみに、水穂の桐組編入を決めたのは理事長です。

八重さんは叶斗のおばあ様なだけあってけっこう強引な性格なのです。


それでは。

また、次のお話もよろしくお願いします。

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