31:海と夏休み (2)
海の家は現在かき入れ時で、海水浴客がひっきりなしにやって来る。
「いらっしゃいませ☆」
たまに朔良の店も手伝っている蒼は営業スマイルも板に付いていた。
家業を手伝う良くできた子供とか人々の目には映っているんだろうか。
なかなかに人気者だった。
「アイスコーヒー二つに、トロピカルフラッペ一丁や!」
こちらも男性客に人気の伊緒里が景気良くオーダーを読み上げる、が厨房から反応はない。
「叶斗?アイスコーヒー二つとトロピカルフラッペ」
「うるさいな。聞こえている!」
時雨を手伝う叶斗は不機嫌さ全開ながらも仕方なく手を動かしている。
時折叶斗を見つけた女性客が黄色い声を上げてぞき込むのだが彼自身は厨房から出て来ようとはしなかった。
私はといえばテーブルを片付けまくり、皿を洗いまくっているだけなのだが。
これはこれでけっこうな重労働だった。
「本当に来ていただけるとは思っておらんかった。ありがたいことじゃ」
例年ならば妖怪達に手伝いを頼んでいるが、今年は連絡が付かず人手が足りていないのだと時雨は言う。
さっきまで手伝っていた双子の少女も私達と入れ替わりに何やら慌てて帰っていってしまった。
「かなちゃんの予想は大はずれだったねぇ」
ようやく店内が落ち着いてきた頃、皿洗いを手伝ってくれていた蒼がわざとらしいため息とともにそう吐き出した。
「お前も同じ考えだったからおとなしく付いてきたんだろ」
「ま、そうなんだけどね」
またいつものように賑やかなやり取りが始まるのかと思いきや、意外とあっさりと終わってしまった。
「予想って何や?」
代わりに伊緒里が会話を続ける。
「この海の祠に封じられてる妖がいるでしょ?その事で呼ばれたのかと思ったんだけど」
ああ、と伊緒里は頷く。
けれどそういえばそういうのがいた程度の認識しか持っていないようで、案の定私達を呼び出した事とは全く関係がないようだった。
ウチここに来たんプライベートやしなーなどと呟く。
「こんなつまらない事で呼び付けられたとは思わなかった」
叶斗がボソりと発した言葉を伊緒里は聞き逃さなかった。
「何やて?この店ほんまに困ってたんやで。つまらんことあらへん」
「今、各地の封じが壊されているんだ。こちらが大変なのはわかっているだろう!?」
「大変さならこっちも負けてへんわ!どうせ調査は他人に任せてで暇しとったくせに!!」
さっきは何事もなくてほっと肩をなで下ろしたのに今回はやり取りがヒートアップしてきた。
「あ、あの、二人とも落ち着いてください。お客さんに聞こえちゃいますから」
止めようとしてみても無駄だ。
「暇だと?お前こそ仕事もせずこんな所で何してたんだ!」
「ウチはバカンスに来たんですー。たまの休みをどう過ごそうが勝手やろ!!」
蒼はといえばいつものことだと放ったらかしだし。
どうするべきかとオロオロしていたその時だった。
海の様子がおかしい。
そう言って一人の男が店に飛び込んできた。
「どういう事じゃ?」
時雨が奥から駆けつける。
どうやら知り合いのような雰囲気だ。
「穏やかだった海が急に荒れ狂いだしたんです!まるで150年前のあの時のように!」
その人は相当にあわてた様子でそう叫んだ。




