表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/100

27:山寺と夏休み (3)

 このお寺は山奥にあってかなり大きい。

 だから部屋も学年ごとの男女別に用意されていた。

 いとこという事になっている蒼も同室だ。

 一部屋は大きくないけれど二年生の女子は私とイズミの二人だけ、蒼が加わって三人でも十分な広さだ。

 むしろお寺で一人部屋なんてことにならなくて良かった。

 イズミは和室が嬉しいらしく、かく言う私も寮とは違う畳敷きの部屋に懐かしさを感じていた。

 

「ミズホ。お風呂の時間終わってしまいマスよ」

 

「うん、ちょっと待って」

 

 浴場は一つしかないため男女交代で時間が決まっている。

 落ち着く暇もなく慌てて準備をする。

 

「蒼くんも一緒にお風呂入りマショう」

 

 イズミが平気で着替えだすので部屋の隅で壁を見つめていた蒼がピクりと反応した。

 

「ぼく後で入るからいい」

 

「そうだよ、蒼くん男の子なんだから男子の使用時間に…」

 

「ミズホなに恥ずかしがってるんデスカ、相手は子供デスよ。ほら蒼くん、おねえさんが頭洗ってあげマスよ」

 

 蒼が見た目通りに子供ではないことを言えたならどんなにか楽だろう。

 でもイズミにだけは口が裂けても言うまい。

 

「ぼくちっちゃな子供じゃないからそれくらい一人でできるよぉ」

 

 すねてみせる蒼に、イズミは最近の子はませているとか何とか文句を言ったがそれ以上は誘わなかった。

 

 

 

 

 お寺の朝は早い。

 まだ夜が明けて間もない頃から掃除が始まる。

 そして朝のおつとめ。

 静謐な空気の中朗々とお経が響き渡る。

 静かに隣に座っている蒼と反対側には慣れない正座に苦心しているイズミ。

 昨夜二人は遅くまでトランプをしていた。

 途中まで付き合った私は眠気をこらえるのに必死なのに二人はしっかり元気だ。

 蒼は人間ではないのだから納得がいっても、イズミの底なしの体力は不思議だった。

 実はイズミも人間ではないんじゃないかという気すらしてくる。

 午後からはこの合宿のメインイベント滝行が待っていた。

 

 

 

 

「蒼くんもやるの?」

 

 私は崖から落ちてくる水の勢いに気圧されていた。

 

「ぼくはねぇ、応援してる。頑張ってね」

 

 その笑顔が今日ばかりはうらめしい。

 

「これぞ修行ってカンジですネ」

 

 私とは逆にものすごくワクワクしているイズミだった。

 夏とはいえ滝の水は冷たい。

 先に滝に向かったのはイズミだった。

 降り注ぐ水の下で合掌のポーズで目を閉じる。

 

「ギャっ!」

 

 いくらも経たないうちにイズミが突然悲鳴のような声を上げた。

 頭に何かが降ってきたのだ。

 水ではない何かが。

 そうとわかったのはイズミが水しぶきを上げて倒れ込んでからだった。

 イズミの横には緑色の物体が浮かんでいる。

 それには頭と手足と思われる部分があった。

 

「イズミちゃん!」

 

 とりあえず今は緑の物体は無視して駆け寄った私の指先がイズミに触れるより早く体が水の中に吸い込まれる。

 息を吸う隙もない。

 このまま溺れてしまうんだろうか。

 不思議と冷静に考える自分がいた。

 そして一瞬水の中で無数の目を見たような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ