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26:山寺と夏休み (2)

 やっとの思いでお寺に戻ってみるとそこには意外な人物が待っていた。

 ジャージ姿が可愛らしい少年が石段に腰掛けている。

 

「水穂おねえちゃん!」

 

 少年はぱっと立ち上がる。

 

「蒼くん!?」

 

 どうして蒼がここにいるのかということにもびっくりしたが、『おねえちゃん』にも驚いた。

 

「ん?ミズホの知っている子ですか?」

 

 イズミが不思議そうに私を振り返った。

 

「え、えっと…」

 

「ぼく、水穂おねえちゃんのいとこの蒼っていいます」

 

「君、男の子デスカ?てっきり女の子と思いマシタ!」

 

 イズミは『ぼく』というところにまず驚いたらしい。

 

「ミズホのイトコがなぜこんなとこにいるんデスカ?」

 

「そ、それは…」

 

「ぼく、夏休みに遊びに行くっておねえちゃんと約束してたんだ。突然行って驚かせようと思ったら水穂おねえちゃんってば合宿に行っちゃったって。場所も寮の人が教えてくれたから、合宿場所に行ったらもっと驚くと思って来たの」

 

「おぉ、それで一人でこんなトコロまで!ナイスガッツですネ!」

 

 電車とバスを乗り継いで、さらに山道を少々歩かないと来れない場所である。

 イズミは小さな子が一人でたどり着いた事を怪しむよりも感心しているようだった。

 

「それでね、住職さんに聞いたらね、お手伝いするなら一緒に泊まっていいって!」

 

 蒼は思い切り子供らしい無邪気な笑みを作った。

 住職は照玄の父親で、しかも学園に合宿場所を提供しているくらいだから榊河の裏の顔や蒼のことを知っていてもおかしくない。

 それでもなお蒼が来た理由は妖怪がらみでないことを祈りたい。

 

「じゃあ山菜を運ぶのを手伝ってもらおうかな。残りのみんなは薪割りだ!」

 

 蒼とはもちろん顔見知りの照玄は他の生徒を遠ざけてくれたようだった。

 

「蒼くん、どうしてここに?」

 

 念のため声をひそめる。

 

「うん、実はね、ここら辺の事で不穏な噂を耳にしたんだ。まだ人間に被害はおよんでないけどかなちゃんが念のために行って調べてこいって」

 

 急にイタズラっぽい笑みが浮かぶ。

 

「そんなこと言ってかなちゃん実は水穂のこと心配なんだよ」

 

「榊河くんが?」

 

 それは何かの間違いだと思う。

 

「水穂を巻き込んだこと一番後悔してるのはかなちゃんかもね。できれば危険な目には遭わせたくないって思ってるんじゃないかな。でもかなちゃんが来ると目立つからぼくだけ来たんだ。水穂を護るのがぼくの役目だからね」

 

 言い換えれば主人を護るのが式神の役目だということなのだろう。

 不穏な噂の内容は聞いてみたいようなみたくないような。

 何事もなく合宿が終わってくれるのを祈るばかりだ。

 

「親父からきいたよ。妖怪達の動きが妙だって?」

 

 一旦その場を離れていた照玄が戻ってきた。

 

「そ。だからね、照玄も気をつけるんだよ。さてと、薪割り手伝いに行こっと」

 

 本気で手伝いはするつもりらしい。

 山菜を土間に運び入れると他の生徒達が薪割りをしているお寺の裏手へと向かった。

 

 

 

 

 住職の指導の元薪割りは行われていた。

 薪を割るのは見た目より難しいらしく、男子達さえ苦労していた。

 

「ミズホ〜!アオイく〜ん!こっちデス!!」

 

 イズミがナタを振り回しながら呼んでいる。

 すでに相当な量の薪が積み上がっていた。

 

「マキワリおもしろいですヨ。ミズホもやってみるといいデス」

 

 ナタを私に譲り渡して薪を台となる切り株に乗せる。私はへっぴり腰でナタを振り下ろした。

 何度か繰り返してやっと割れたが、想像以上に硬く手がジンジンする。

 

「イズミちゃん一人でこんなに割ったなんて、すごいよ」

 

 心底そう思った。

 イズミは得意気に笑う。

 

「コツをつかめばダイジョウブ。やってみマスカ?」

 

 今度は蒼に。

 薪を束ねるのを手伝っていた蒼が首を振るのもおかまいなしにイズミは無理やりナタを握らせて割り方をレクチャーしだした。

 彼が普通の子供だったら危ないからと止めるところだが。

 蒼はしぶしぶナタを構える。

 

「えいっ」

 

 わざとらしいかけ声だったが、薪は一発で真っ二つに割れていた。

 いや、割れたというより斬れたといった方が正しいほどの見事な断面だ。

 蒼は一瞬しまったという表情を浮かべた。

 

「素晴らしいデス!最初から教えた通りにできるなんて才能アリマスよ」

 

 イズミはさらに得意気になった。

 彼女が余り深く考えない性格でこういう時は助かる。

 

「よし!束ねた薪はこちらに持ってきてくれ!」

 

 よく通る住職の声が響いた。

 住職は息子の照玄と違い、いかにも山寺の僧侶といった野性味あふれる人物だ。

 怖そうだけど愛嬌もある。

 熊みたいな人だと私は思った。

 束ねられ、積み上げられた薪は夕食作りに、そして風呂焚きにとここでは欠かせない。

 夕食ももちろん自炊。

 用意された部屋に帰る頃にはもうヘトヘトだった。


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