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18:カラオケBOXと初仕事 (3)

(ねえ)さん最高っスー!」

 

「次、渚の番だからねぇー」

 

 カラオケボックスには楓太、渚、あやめも顔を揃えていた。

 伊緒里の言う「ええ考え」とは一つ目の妖怪のために昔のように宴をひらいてやろうというものだった。

 人数は多い方がいいと呼び出されたのが楓太達で、楓太が伊緒里の誘いを断るはずもなく、お供え物だと大きな袋を抱えてやって来た。

 テーブルいっぱいに並べられた袋の中身は朔良が作ったサンドイッチにおにぎり、スナック菓子の袋やジュースのペットボトルなど。

 そこに缶入りのカクテルや日本酒の瓶まであるのは伊緒里の指示に違いない。

 一気に賑やかになった部屋は今や飲めや歌えの大騒ぎだ。

 

「あいつは自分が歌って騒ぎたかっただけじゃないのか」

 

 叶斗がもっともな意見を述べた。

 

「いいんじゃない?だってほら」

 

 蒼の視線の先の一つ目妖怪はけらけらと笑いおおいに楽しんでいるようだ。

 スナック菓子にかじりつき、ペットボトルのフタで日本酒を飲んでいる。

 

「かなちゃんももっと飲みなよ」

 

 叶斗に手渡した紙コップの中身はもちろんジュースだったが蒼自身はといえば日本酒の入ったコップを嬉しそうに口に運んでいた。

 すでに二杯は空けているはずなのに全く酔っ払ったそぶりはない。

 

「みんな楽しんでるかー!?」

 

 一方こちらはすでにほろ酔いの伊緒里だった。

 

「ん?なんや叶斗。盛り上がりに欠けるなぁ。あかん、次は叶斗の番や!」

 

「僕は歌わないぞ」

 

「何言ってんだよ。(ねえ)さんがああおっしゃってるんだ歌わなくてどうする」

 

 嫌がる叶斗に楓太が無理やり肩を組んでマイクを突きつける。

 ジュースしか飲んでいないはずなのに伊緒里に負けず劣らずハイテンションだ。勝手に男性二人組の歌手の曲をチョイスする。

 叶斗はやめろとか離れろとか言っているばかりだったがお構いなしに一曲歌いきった。

 ようやく楓太を引っ剥がして座り直した叶斗は声を荒げたせいで喉が渇いたのか紙コップを手にした。

 

「かなちゃんそれお酒!」

 

 蒼が止めるもすでに遅い。

 コップの中身は伊緒里の飲みかけのカクテルで、叶斗が飲んだのは一口どころではなかった。

 彼の顔色は見る見る真っ赤になり、ゆらゆら揺れ始めたかと思うとその場にばったり倒れ込んで動かなくなってしまった。

 

「なんや?そんなくらいの酒でダウンかいな。男なら蒼ちゃん見習って強くならなあかん!」

 

 高校生に無茶を言うものである。

 確かに今や蒼の手元の一升瓶の中身は半分ほどになっていた。

 一つ目妖怪にお酒を注いでやりながらも大半を飲んだのは蒼自身だ。

 それでも全くいつもと変わらない。

 そういうふうになれと言われても到底無理な話だ。

 酔っ払いが酔っ払いに絡んでいる最中も渚が人気アイドル歌手のヒット曲をかわいい振り付きで歌っていた。

 一つ目妖怪は伊緒里と叶斗を見て笑い転げ、歌に拍手を送って喜んでいる。

 

「水穂さんは歌わないの?」

 

 場の空気にのまれがちだった私にあやめが声をかけた。

 

「あ、火渡さんこそ」

 

「あやめでいいわよ。私は流行りの歌とかよく分からないから」

 

「私も…です」

 

 できれば歌いたくないのはあやめも同じのようだった。

 

「じゃあ私達はコレね」

 

 苦笑混じりであやめが差し出したのは球体から棒が突き出たような形の派手な色の物体。

 振るとシャカシャカと音が鳴った。

 マラカスだ。

 

「とりあえず盛り上げておけば歌わされないわ」

 

 あやめは手にしたタンバリンでリズムを刻む。

 その作戦は効を奏し、私達は難を逃れたのだった。

 

 

 

 

 宴会がお開きとなったのは夜中といってもいい時刻だった。

 

「おーい。叶斗ー?帰るぜー起きろー」

 

 さっきから楓太が揺らしてみたり叩いてみたりつねってみたりしているのだが叶斗が起きる気配は全くない。

 

「起きへんなぁ。よし、ウチが担いで帰ったるわ」

 

 言ったものの伊緒里は千鳥足で危なっかしい。

 

「ぼくが連れて帰るよ」

 

 蒼が仕方ないといった風に立ち上がった。

 結局一升瓶を空っぽにしてしまったのだが見た目にはそうとは思えない。

 少年が淡々と飲み続ける姿はむしろ怖かった。

 

「どうやって…って、そっかもう大きなれるんやったな」

 

 蒼は大人の姿に変じていた。

 自分よりも小柄な叶斗をひょいと背負う。

 みんながまだ慣れない蒼の姿に見とれている中出口へと向かった。

 カラオケボックスを出れば通りは閑散としていて、もうバスは運行を終えてしまっていた。

 歩いて帰れない距離ではない。

 それに夜風が程よく気持ちよかった。

 

「オイラこんなに楽しかったのは何十年ぶりだろう。ありがとよ」

 

 楓太の肩の上で一つ目の妖怪はみんなを見渡した。

 

「仲間達は西の山に行くって言ってたからそっちへ向かってみるよ」

 

 妖怪がそう言った時、暗闇で何かが動いた。

 バサバサと羽音を立てて近付いてくるのはカラスだった。

 

「きゃぁっ」

 

 夜中のカラスは不気味で、あまりに近くを飛ぶので驚いているとそのカラスは蒼の差し出した指先に器用に止まった。

 何度か鳴いまた飛び上がる。

 

「東の山に住んでいた者達の居場所を知っているそうだ。乗せて行ってもらうといい」

 

 蒼の言葉に妖怪は一つしかない目を潤ませて泣きそうになった。

 楓太がカラスに恐々近付いて一つ目妖怪を乗せてやる。

 

「オイラ、なんて礼を言っていいかわかんねぇよ」

 

 そうして何度も頭を下げた。

 カラスが舞い上がるかと思われた直前、妖怪が「思い出した!」と声を上げた。

 

「蒼って名前、聞き覚えがある気がしてずっと考えてたんだ。杉の木のじいさんに聞いた昔話だ。空の一族の(おさ)だったのに人間に仕える身になった妖の名だよ。空の一族っていやぁ妖怪達の王様みたいなもんだからそりゃあえらい騒ぎになったんだってじいさん言ってた。もしかしてあんたのことかい?」

 

 蒼は否定も肯定もしなかったが妖怪はかまわずに続ける。

 

「そうに違いねえ。たいそう綺麗な人だって話だった。人間の子供とばかり思ってたからなかなか気づかなかったけど。オイラすげえ人にお酌してもらったって仲間に自慢するよ!!」

 

 カラスが大きく翼をはばたかせて夜空に舞い上がった。

 

「達者で暮らしやー!」

 

「また遊びに来いよー!」

 

 カラスと妖怪を見送って私達は歩き出した。

 風が冷たかったのか蒼に負われている叶斗がギュッと首にしがみついた。

 

「なんや叶斗小さい時とちっともかわっとらんやないか」

 

 伊緒里がくすくすと笑う。

 

「そうだな」

 

 蒼の口元に薄く笑みが浮かんだ。

 柔らかな笑みに、こんな顔もするんだとつい見とれてしまう。

 それは私だけではなかったようで。

 

「渚もおんぶしてほしいなぁ。お姫様だっこでもいい」

 

「なんだ疲れたのか?しかたねえなあ。ほれ」

 

 背を貸そうとした楓太を渚は冷たく睨みつけた。

  

「うっさい!あんたに言ってない!」

 

 そんなやり取りをしながら三十分もあるいただろうか。

 分かれ道に差し掛かる。

 

「うちが水穂送っていくわ」

 

 そうしてみんなと別れた。

 私は彼女の得意の鍵開けのおかげで門限のとっくに過ぎた寮の部屋に無事帰り着くことが出来たのだった。


読んでいただきありがとうございます!

今回のお話はドタバタコメディな感じを目指したつもりなのですが…

どうでしたでしょうか?

詰め込み気味になりドタバタした気配はありますが(汗)

すみません。

では、また。

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