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12:榊河家と式神 (3)

 いつの間にか雲行きが怪しくなっていたらしく、すっかり暗くなった空に雷鳴が轟く。

 雷を背に現れたその人は店内をぐるりと見渡した。

 年は二十歳(はたち)前くらいに見える。

 濃いめのメイク。赤い髪を真っ直ぐ切りそろえたおかっぱ頭で、黒を基調としたファッションはまるでテレビで見る女性ロック歌手のようだ。

 勝ち気な瞳が紫色の光を放っていた。

 店内は静まりかえっている。

 たぶん視線が注がれているのは彼女の出で立ちよりも荷物だ。

 肩からかかった洋服店のものと思わしき紙袋多数、もう片方の腕には子供がだらりと提げられている。

 軽々と小脇に抱えられたその子は帽子で顔が見えないのだがおそらく…

 

伊緒里(いおり)…降ろして…」

 

 連れ去られた時とは服装が違っているけれどやはり蒼だ。

 足をばたつかせる。

 フリルの付いた真っ白なスカートがヒラヒラと揺れた。

 伊緒里というらしいその人は荷物と蒼をどさりとその場に降ろし私の方に近付いて来る。

 

「蒼ちゃんの主人になったんはあんたか!?」

 

 関西弁ですごまれれば頷くのが精一杯だった。

 

「ええか!もし蒼ちゃんにヒドいことしたら許さへんで!!」

 

「し、しません!」

 

 反射的に答えた声はややうわずる。

 

「そうか。ならええ」

 

 伊緒里はパッと笑顔を作り満足げに頷いた。

 

「蒼を連れてったのって(ねえ)さんだったんスか!」

 

 蒼を連れ去った張本人は彼女で間違いなさそうだが。

 いったい何者なのか。

 叫んだ楓太も、他の人々も彼女を知っているようだった。

 

「どうせそんなことだろうと思った。それで?どういうつもりだ?」

 

「いややなぁ叶斗。今日来るって言ってあったやろ?」

 

 伊緒里は意外というような表情を浮かべた。

 

「叔父上と一緒に来るはずじゃなかったか」

 

「それがな、アキは明日にしか来れへんようになってしもて、そのこと伝えよう思てウチだけ先に来たんや」

 

「ほう、ではあいつの格好は何だ!肝心の用は果たさずにどこへ行っていた!?」

 

 叶斗の指摘も最もで、今の蒼の格好はまるっきり女の子そのものだった。

 レースとフリルの付いた白いシャツ、短い丈の黒のジャケット、白いフリフリのスカート、足元はウェスタン風のブーツで、仕上げに灰色の帽子をかぶっている。

 大人顔負けの子供服のおしゃれ度の高さに驚くべきかそんな格好がしっくりくる蒼に感心するべきか。

 しかし蒼本人はおおいに不本意そうな表情を浮かべていた。

 

「それはやなぁ…。最近この辺にショッピングモールが出来たて聞いたんや。珍しい海外ブランドの子供服もあってな。これは絶対行かなあかん思てたら蒼ちゃんが歩いとるのを見つけてやなぁ。ちょっとだけ買い物してから来たっちゅうわけやな」

 

 床に散らばっている紙袋はちょっとだけという量ではなかった。

 

「人を待たせてまで片付けなければならない事とは思えないが」

 

 叶斗の声には徐々に怒りがにじみはじめている。

 

「だからこないして急いで帰ってきたやんか」

 

 一方の伊緒里には悪びれた風もなく。

 

「何故先に連絡を入れるなりしないんだ…」

 

「細かいコト気にしとったらあかん。細かい男はモテへんで」

 

 伊緒里は平気で火に油を注ぐ。

 そしてさらに

 

 ピロリーン

 

 緊張感のないその音は携帯電話のカメラのシャッター音だ。

 

「かっわいー。みんなに見せよっと」

 

 渚は明らかにおもしろがっている。

 

「うわ…消して!頼むからっ」

 

 本気で嫌そうな蒼。

 

「あ、消したらあかん!それ後でウチに送って」

 

 伊緒里までがそちらに混ざる。

 

「任せてください姐さん!」

 

 蒼はなんとか携帯を奪おうとするが手が届く寸前で楓太に捕まってしまう。

 蒼を抱え上げて楓太は得意げな笑みを浮かべた。

 

「なんでそないに嫌がるんやぁ。よう似合ってるのに」

 

「そうだぜ。姐さんの言うことに間違いはねえ」

 

「似合いすぎだと渚は思うー」

 

「私にはいつもの格好とあんまり変わらないように見えるけれど」

 

 その場を見守っていたあやめは困ったように頬に手を当てる。

 

「スカートは嫌だ…」

 

「変なとここだわるんやから。男かて似合っとったらスカートくらいはいたってええやんか、なぁ」

 

「うるさいっ!!」

 

 ついに叶斗の怒りは爆発した。

 

「勝手にやっていろ!」

 

 その場を一括で静まりかえらせ彼はさっさとマンション内に繋がっていると思われるドアから出て行ってしまった。

 

「あーあ、怒らしてしもたな」

 

 と言いつつも伊緒里に反省の色は薄い。

 

「あの…いいんでしょうか?」

 

「そうですよねぇ。もうすぐ晩御飯の時間ですけど叶斗さんは召し上がらないつもりでしょうか」

 

 そういうつもりで聞いたわけではなかったのに、のんびり響いた声の主朔良の答えは少々ずれていた。


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