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3 ダメ男のブルース -1-

 放課後。俺たちは学校を出て道場へ向かう。武術の先生の家は寮から歩いて二十分ほどだ。

 大学教授が本業である先生は講義があるためまだ帰宅していないが、道場のある離れの鍵は預かっている。


 中に入る。まずは掃除だ。軽く床を掃いて次には畳をからぶき……って、おい。何か邪魔なモノが寝っ転がってるんだが?

「おいツボタ! お前も手伝え!」

 ホウキを突きつけるとヤツは面倒くさそうにこっちを見た。

「何で僕が」

「弟子の義務だろうが! 自分たちの使うところは自分たちで掃除するんだよ」

「興味ない……」

 横を向いて文庫本を取り出す。コイツに本というのもおかしな取り合わせだ。

 

「何読んでるんだ?」

 と聞くと、

「女の子が無理やり貸してくれたんだけどさ……。何かよく分かんない。高原、僕の代わりに読んで説明してくれない?」

 押し付けられた。

 まあ、コイツの日本語力で読めるのは幼児向けの絵本くらいのものだろうが。



 ヤツの持っていた本は女子向けのライトノベルだった。美少年二人が超能力で悪と戦うストーリーらしい。なぜこれをコイツに貸した、その女。

「よく分からないんだけどさあ」

 ツボタは首を傾げた。

「どうして『千変万化』っていう漢字に、『トワイライトスープレックス』ってフリガナが振ってあるの? 初めて見たけど、そう読むの?」

 俺に聞くな。そんなことは作者に聞いてくれ。


「僕より高原向けだと思うな。この主人公、最初の一ページ目から正義、正義って言ってばっかりだし。僕、二ページ目で読む気なくなったけど」

「それはお前の日本語読解力に問題があるせいだ」

 内容も何というか読む人を選ぶようではあるが。



「話をそらすな。そんなことより掃除だ。ホウキの使い方も雑巾がけのやり方も教えたよな? 毎回、掃除を手伝えって言ってるよな?」

 実際に手伝うのは五回に一回くらいだというのが悲しい事実だが。そして毎回こんな不毛なやりとりを繰り返している俺の心労を察してもらいたい。


「えー……。面倒くさい……」

 本音が出やがった! 結局やりたくないだけなんだよ、コイツは。

「これも修行なんだよ。グダグダ言わないで手伝え!」

 怒鳴ると、いやいやという感じで起き上がって来た。まあ起き上がっただけ今日はマシである。気が乗らないとマジで寝転がったまま動かない。

「分かったよ……。もう、うるさいな高原は。面倒くさいって他人に言われない?」

 どの口がそういうことを言いやがりますか! てめえにだけは言われたくねえよ!



「何やればいいの?」

 聞かれて不機嫌だった俺は、

「自分で考えろ」

 と答えて背中を向けた。俺は決して短気な方ではないと思う。学校でも道場でも『落ち着いて思慮深い高原くん』といつも言われてきた。

 しかし腹を立てることなくコイツと付き合うのは無理だ。人の神経を逆立てることしか言わないしやらない相手に対して怒らないでいられるほど、俺も人間が出来てはいない。


 普通に考えれば、俺がホウキを持って畳の上を掃いているのだからヤツは雑巾を持って来てその後をからぶきすればいい。指示するまでもないだろう。

 ……と思った俺が甘かった。背中を向けた俺の後ろで、どんがらがっしゃんとすごい音が。

 ギョッとして振り向くと、壁に掛けてあった木刀だの竹刀だのその他物騒な模造武具が軒並み落っこちて散らばっていた。



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