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エピローグ -3-

「高原くんに頭を下げさせられた時、坪田くんは赤くなってた。そして小さい声で、叱られた子供みたいに『ゴメンナサイ』って言ったよね。あの時、僕は思ったんだ。坪田くんも不安なんじゃないかって。あやまっても僕が許さなかったらと恐れているんじゃないかって。だから虚勢を張って、そんなこと何でもないってフリをしてるんじゃないかって……」


 そう言ってから、また笑う。

「もちろん、全部僕の勝手な思い込みかもしれないんだけど」

 いや、それは。多分……。


「それで思ったんだ。あんなに遠いと思ってた坪田くんだけど、もしかしたら僕と似ているのかもしれないって。僕は皆に嫌われるのが怖くていつも人の顔色をうかがって、そのくせ自分からは相手に踏み込まず距離を置いていた。坪田くんがいつも一人でいるのも、もしかしたら同じなのかもしれない。だったら僕たちは友達になれるかもしれないってそう思った」


 いや、それは。

 分析結果はともかく、結論はどうだろう……。



 それが顔に出ていたのか樫村はまた笑った。よく笑うようになったな、本当に。

「二人は僕に迷惑をかけたって言ったけど、同中のアイツらの言いなりになって関係を断ち切れなかった僕だって、二人に迷惑をかけたんだ。ごめんなさい」

 樫村は頭を下げる。

「いや、それは筋が違う。そもそもアイツがメチャクチャをするからあんな騒ぎになったのであって」


「高原くんは優しいね」

 樫村は困ったように言った。うーん、今のはほめられたのか、それとも諦められたのか?

「でも、僕は自分で決めた。あのままの僕じゃダメだ。変わりたいって思ったんだ」

 午後の日が眩しいのか、少し目を細める。

「そして、いつか君たち二人と並んで立ちたいって……そう思った」


 俺は首をかしげる。

「いつかって。今、並んで立ってるだろ」

「……そうだね。高原くんはいい人だよね」

 何だろう、このそこはかとない落とされた感は。


「必ず追いついて見せるから。どんな時でも胸を張って君たちの傍に立てる僕になる。だからよろしくね!」

 じゃあ、と言って樫村は軽快に階段を下りて行った。おーい、階段は走るな。危ないぞ。



「バカみたい。バカじゃない。何言ってるのアイツ」

 後ろから声がしてギョッとした。ドアが細く開いてそこから坪田がのぞいていた。ホラー映画か!

 そんなところにいないで、話が気になったんなら堂々と出て来い。

 他人と堂々と並ぶための訓練をしなくてはならないのは、間違いなくコイツの方だと思う。


「僕と友達とか。バカじゃないの。何で、あんなヤツばっかりなんだろう」

「お前なあ。名前で呼べよ。アイツは……」

「知ってる」

 背中を向けながら、ツボタは言った。

「樫村だろ」



 で、その後。

 俺たちは樫村の指示通り中庭に行き。

 樫村と俺は泥だらけになって働き、ツボタはやっぱりウダウダしているだけで大して役に立たなくて。

 毒性のある球根をかじって腹痛を起こしたりとか、ろくでもないことしかしなかったけれど。


 あの冷たい秋の雨の日とは確かに違うところに俺たちは一緒に立って、そして笑っているんだって。

 そんな風に思えたのだった。



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