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6 価値 -3-

 それだけ言うと先生はヤツの傍を離れ、俺の横を通り抜ける時に肩を叩いて部屋を出て行った。俺とヤツだけが残される。


 俺はコイツにかばわれて悔しかった。情けなかった。

 そして意味が分からなかった。何でコイツが俺なんかをかばったのか。

 だけど俺がコイツを守らなきゃと思ったその時に、同じことをコイツも思ったのなら。

 俺が思っていたよりもコイツは俺の近くにいたんだろうか。


 誰かのために戦いたいなら、と先生は言った。

 俺が気付いていなかっただけで。コイツはずっと、自分のためじゃなく他の誰かのために戦いたいとそんな風に思っていたと言うのだろうか。



「ツボタ」

 俺には先生のような年長者ゆえの落ち着きも女性ゆえの優しさもないから、ただぶっきらぼうにヤツの名を呼ぶ。ツボタは面倒くさそうに頭を上げた。

 その顔の前に俺は花を突き出した。前庭を離れる時、折れてしまったものを樫村が拾って俺の胸ポケットに挿してくれたうちの一輪だ。


「……何コレ」

 予想通りの反応。俺は有無を言わせずヤツの胸ポケットにそれを飾った。戸惑う俺に樫村がやったのと同じように。

「樫村がくれたんだ」

 説明をする。

「俺一人ではあの花壇は守れなかった。だから、お前と俺で一輪ずつだ」

 ツボタは怪訝そうに、俺の胸ポケットの黄色い花と自分の胸に飾られた紫の花を見比べた。



「後で樫村に謝れよ」

 俺が言うともっと怪訝そうな顔をした。

「なんで僕が」

 嘘だろ。まさかコイツ、気付かないでケンカしてたのか。


「アホか。騒ぎの原因はお前だぞ。お前、アイツらの仲間にどこかでちょっかい出してきただろう。そのお礼参りだ、今日のは」

「何言ってるか意味が分からない」

 ツボタはウザそうに言った。それで俺は、コイツの日本語力が最低にお粗末だということを思い出した。


「だからな。お前がアイツらの仲間にケンカを吹っ掛け……ケンカを仕掛けて、それで」

「僕から手を出したりしないよ」

 ツボタは不満そうに反論した。他人の話は最後まで聞け。


「じゃあお前、俺の見てないところでケンカしてないと誓えるのか?」

 俺もむっとして言うと、ヤツはますます口をへの字に曲げた。

「……向こうから絡んできたヤツはいたけど」

「それをどうした」

「……思い知らせてやったけど」

「それだよ! 自覚しろよ、お前が元凶なんだよ!!」


 指を突き付けるとツボタは厭そうにそれを払いのけた。

「知らない。そんなの僕のせいじゃないし」

「お前のせいじゃなくてもお前が元凶なんだ。暴力沙汰にしないで収めることを覚えろ、お前は」

「高原に言われたくない」

 とても反抗的な目でヤツは俺を見た。むう、それは今日のふるまいを思い出すと確かに俺も言い訳がし難いところではあるが。



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