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1 テロリストの放課後 -2-

 放送室の前には既に人だかりが出来ていた。

 無理もない。樫村が言ったとおりのことが起きたなら騒ぎにもなる。ならない方がオカシイ。

 ツボタが絡んでいるせいか廊下には女子生徒もいっぱいいた。ちなみにツボタは無駄に美形である。男の俺から見てもびっくりするほど綺麗な顔をしている。そのため編入してから日が浅いにもかかわらず、女子生徒から絶大な人気を集めている。


 群がる女子たちを押しのけ、俺は放送室のドアにたどり着いた。

「ああ、高原くん」

 生活指導担当の年配の女教師が、困り顔で俺を見る。

「いったいどうしたのかしら。何とか出来る?」

「何とかします」

 俺は苦い顔で言った。まったくあのヤロウ、面倒ばっかりかけやがる。

 そこへ樫村がやって来てマスターキーを渡してくれた。俺はキーを受け取り、鍵穴に差し込んでロックを外した。


 ドアを開けて、中に入り……入り……入れないな。入り口の内側には、室内にあったのだろう机や椅子が積み上げられてバリケードになっていた。くそ、バカのくせにこんなところだけは抜け目ない。余計にイラつく。

「これ壊れるかもしれませんが、いいですね?」

 俺は教師にたずねた。女教師は返答に困ったようだが、

「菅井先生の安全確保の方が急務です。突破します」

 そう言って強引に話を終わらせた。


 息を整え構えを取り、気合いと共に得意の蹴りをバリケードに向け叩きこむ。すごい音を立てて机や椅子が吹っ飛んだ。

 いやまあ、地道に少しずつ撤去するという方法があったのは承知しているが。

 この事態に俺も少なからずイラついているのである。これくらいのストレス発散は許してもらいたい。


 倒れた物をどけながら俺は内部に入りこんだ。放送室の中は静かだった。機械のスイッチは入っていない。

 ちなみに放送施設というのは、対テロ対策の重点が置かれる場所だそうだ。情報を遮断・操作することによって戦局の混乱を招くことが出来るらしい。

 しかし今回は我が校の放送の中枢を押さえたにも関わらず、ヤツにはそれを利用する気はないようだ。やっぱりバカだな! 猿だ猿。そういう高等な作戦を立案する頭脳はないんだろうな。



 ガラス張りのドアの向こうに、茶色がかったやわらかそうな髪に覆われた小さな頭が見えた。背中を向けてドアにもたれかかっている。

 その奥、マイクの置かれたテーブルの傍に菅井先生が怯えた表情で座っていた。俺は同情した。生徒に監禁されては菅井先生でなくても怯える。


 先生が俺に気付いて何か言った。口が動く。防音されているので何も聞こえないが、茶色の頭がゆっくりとこちらを向いた。

 色白の顔。ほっそりした卵型の輪郭。整った顔の中から茶色っぽい大きな瞳がじっと俺を見る。

 あー。文句なしの美少女なんだけどな、女でさえあれば。

 現実は男で、しかもバカと来ているから世の中というのはままならない。


 こっちに向けて何か口をパクパクさせてるが。聞こえねえよ、防音なんだから。

 ドアノブをガチャガチャやってみたが、案の定鍵がかかっていた。この部屋は中からしか施錠も開錠も出来ないんだよな。


 俺としては、学校の施設に壊滅的な打撃を加えることは避けたい。

 なので放送機器を操作してマイクをONにする。全校に流れないようにしてと……この辺りは、一年の頃から放送室に出入りしていたから慣れたものである。


 金魚みたいに口をパクパクさせているヤツに向けてマイクを指さす。気付かねえ。カンの悪いヤツだな。幸い菅井先生の方が気がついて、ヤツの様子をうかがいながらマイクのスイッチを入れてくれた。

「……ってば。高原、聞いてるの?!」

 ツボタの声がスピーカーから響く。ああもう。いつもながらバカだな。



「あのな」

 俺は頭痛を押さえながら、手元のマイクに向かって言う。

「お前に三つ、言いたいことがある。一つ、鍵を開けて菅井先生を開放しろ。二つ、お前の古典の成績はどうやっても零点だから諦めろ。三つ、その部屋は防音だ。話がしたいなら部屋から出て来い」


 ヤツの白い頬がサッと紅くなった。

「零点じゃないよ! 僕の答案見せただろう、七点取れてた!」

 どっちにしても赤点だよ。

「そんな悲しい主張してないでさっさと出て来い。これ以上やると今度こそかばい切れないからな。退学になったら、先生が怒るぞ」

 この場合の『先生』とは学校の教師ではなく、俺たちの武術の師匠である山城真理子先生のことを指す。その名を聞いてツボタはあからさまにイヤな顔をした。



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