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4 星明りの道 -4-

 先生に挨拶をして辞去する。寮までは三十分足らずの道だが、二人になると気まずい。

 夜になると空気が冷えてきて吐く息が白かった。

 坂道を下りる途中で、ツボタが足を止めた。


「どうした?」

 振り返るとヤツは星空を見上げていた。

「……別に。ここで見てもどこで見ても、似たような星空だなって思ったから」

 俺もつられて空を見る。冬の空気は澄んで、満天の星が青白く輝いていた。


「そうか。……あれ、お前がいた熱帯雨林の戦場って南半球じゃなかったか?」

 そうすると見える星も変わるんじゃなかろうか。

「バカじゃないの?」

 ツボタは蔑んだ目で俺を見た。顔が綺麗な分、こういう表情をされると攻撃力がデカい。


「ジャングルじゃ空なんか見えないよ。木しかない。あそこには空なんかなかった」

 言い捨ててまた歩き出す。俺を追い抜いてとっとと進んでいく。

 コイツはよお! お前が足を止めたから待っててやったんじゃねえかよ!


「トモは空を見るのが好きだった」

 ぽつりと呟くような言葉が聞こえてきた。

 コイツの弟。不幸な事件で突然に死んだ弟。

 とても大切な存在だったらしいその弟のことをツボタは折に触れて口にするけれど。

 俺はソイツの顔も知らない。どんなにコイツが弟を悼んでも同じ気持ちを持つことはできない。


 それどころかとても理不尽だとは思うけれど、ツボタが弟の名前を口にするたび俺は何だか腹立たしくなる。

 ここにいない、いやこの世のどこにももういない弟の存在にすがってコイツが他の全てを拒否しているように見えるから。



「……俺には関係ない」

 速足にツボタを追い抜き、俺は低く言う。

「知らないヤツだ。お前の弟なんか」

 背中から沈黙が押し寄せてくる。

 だってそうなんだ。お前には大切な家族だったかもしれないけれど、俺には会ったことのない関係のない相手だ。


 死んだ弟のことばかり思い続けていないで、今、自分の周りにいるヤツのことをもっと考えてほしいんだ。

 とりあえずクラスや寮の人間の顔と名前くらい覚えろ。そう思うのは別に冷たいことではないはずで。

 

 それでも酷なことを言っていると俺は自覚していた。

 だから振り返ることが出来ないまま、後ろからついて来るヤツと二人で黙って寮までの道を歩いた。



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