4 星明りの道 -3-
冷戦状態はしばらく続いた。
言い争いもしなかったし、まして殴り合ったりもしなかったけれど。
同じ部屋で寝起きし同じ食堂で飯を食い同じ教室で勉強していても、俺とツボタはまるっきり別々の生活を送っていた。
そんなこと他のヤツには分かりはしない。だが先生には一発でバレた。
休日に珍しく三人で長時間の稽古をした後、疲れ果てて道場の隅で引っくり返っているヤツを無視して先生は俺だけを傍に呼んだ。俺だってさんざん投げ飛ばされたり締められたり関節を決められたり蹴りを食らわされたりしてボロボロだったが、師匠に呼ばれて行かないわけにもいかない。
ちなみにこの日の先生の装束は裾にヒラヒラのフリルがついた派手なブルーのワンピースだった。この恰好でどうして俺とアイツ、体力の余っている盛りの男二人をボロボロにのしてしまえるのか謎すぎる。
「康介。私が言い付けたことが出来ていないようだな」
ジロリと睨まれる。何を言われているのかは俺にも分かるから、神妙にうなだれるしか出来ない。
先生はため息をついた。
「私も簡単なことを言っているつもりではないが、失望させてはくれるなよ」
後は片付けておけとだけ言って先生は母屋に去った。
片付けは主に俺がひとりでした。
その後、母屋で三人でカレーを食べた。カレーも俺が作った。先生が一回、坪田が二回おかわりをする。
「何だ、今日はやけに食べるな」
いつも鳥がつついたくらいしか食べないから、コイツが食べる分は分量に入れていなかったのだが。俺の分のお代わりの命運が乏しくなる……。
「何。何か悪いの?」
ツボタは不機嫌に言う。
「運動したからおなかすいたんだ。僕が食べたら何か悪いの?」
悪いかと言われれば悪くはない。どちらかといえば目算を間違え材料の買い出しをケチった俺のミスだ。だから俺は甘んじて取り分が減ることを受け容れた。
ツボタは遠慮なくカレーを食べた。本当に珍しいな、コイツがこんなにものを食うの。くそ、もっと作るべきだった。
仕方ないので俺は付け合わせに使ったレタスの残りを食べて空腹を満たした。どうせ残しておいても先生が食べる確率は半分程度だ。五十パーセントの確率で生ゴミになる運命ならば、あらかじめ俺が食い尽くす。
食べ終わってひとりで洗い物をする。どうでもいいが何でいつも俺ひとりなんだ。誰か手伝えよ。
洗い物を終えリビングに戻ると、ツボタはだらしなくソファーで寝ていた。起こすのに時間がかかる。この時、下手に起こすと絡まれるから注意である。
眠りが浅い時は高確度で死んだ弟の夢を見ているらしく、
『せっかくいい夢見てたのに』
『高原は血も涙もないよね』
『トモ愛してる』
とか罵られて絡まれる。知るか、どう考えても俺は悪くないし最後の言葉に至っては罵倒ですらねえ。ただ面倒くさいだけである。
最後は先生がスリッパをつかみ、Gで始まる名前の虫を叩き潰す要領で頭をはたいて何とか起こした。




