表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/146

99.ローダンの地下

 ローダンの街に熱病が広まる数日前のこと。 


 俺は暗黒神殿に戻り、しばし考え事をしていた。

 今回の対抗策をいくつか考える。

 いい手段は一つ思いついた。


 問題は実行するには場所が必要なことだ。


「なあ。ローダン中心部の地下に、実は秘密の施設があって入れるとかないよな」


 あるわけないよなとは思いつつ、そばにいたアドリゴリに尋ねる。


「はい」

「だよな」

「あります」

「ファッ!?」


 俺は驚いてアドリゴリを二度見した。


「そういえば言ってませんでしたな。もうすぐエウリアス様も戻られますから、その後いってみましょう」


 爺やとジェコが戻った後、4人で再度ローダンに飛んだ。

 中心から南東方向に少し行った、とある一軒屋である。


「この変哲もない家がなんだというんだ?」


 俺が首をかしげると、爺やはおかしそうに笑う。


「まあ見ればわかることです」


 そう言って家の鍵を開け、中に入っていく。

 奥に進み、その一室に案内された。

 その壁にあった隠しスイッチを押すと、壁が一部横に移動していった。


 そこに見えたのは地下への階段。


「こんなものを作っていたのか……」


 俺は感嘆の声を上げながら地下へ降りていく。


 そのまま100メートルほど地下に進んだところで階段が終わる。

 その先は迷路のように入り組んだ通路。

 そして大小様々な部屋があった。


「こんなでかい施設を作って……。もはや迷宮ではないか」

「ここまで大規模なものを作る予定はなかったのですが、工事担当者が張り切りすぎました」


 爺やは苦笑している。


「工事担当というと……」

「工事大好き第十一軍団長イスティム殿ですな」


 ジェコがさらりと言うが、イスティムは別に工事好きというわけでもなかったがな。

 いつも工事を任されるようになったというだけで。

 やってるうちに楽しくなったというのはあるかもしれないが。


 最奥は巨大なホールになっていた。

 教会のようなつくりで、大きな像もある。

 シートで覆われているので、何の像かはわからない。


「ようこそおいでくださいました」


 工事の現場監督をしていたイスティムがこちらに気付いて近づいてくる。


「あとは内装工事を終わらせるのみです」

「お、おう……いつの間にか違う工事をしていたんだな」

「はい、暗黒神殿の庭復旧工事がしばらく前に終わりまして。次にエウリアス様よりこの地下神殿の建立を命じられました」

「ここで何をするつもりなんだ?」


 俺は爺やを見る。


「新しい教団を作り、それの布教をしようかと」

「おいそれまさか邪神教という名前で広める気じゃないだろうな?」

「まさか。それは間違いなくルール違反です。そこは一つひねる必要があります」


 爺やが笑っているのでまあお遊びのようなものなのだろう。

 俺は気にしないことにした。


「それはともかく、ここはローダンの中心のちょうど真下だな」

「はい、最初にお話になった通りの場所です」


 アドリゴリが生真面目に答える。


「ではここでやらせてもらうか」

「何を――」


 アドリゴリが話しかけた途端、俺は邪気を解放する。

 2枚の漆黒の翼も姿を現す。


 軍団長たちも、内装作業をしていた部下たちも俺から一目散に逃げていく。


「せっかく作った地下神殿壊すんですか!?」


 イスティムが悲痛な叫び声をあげた。


「違うわっ。お前たちには影響がないことだから黙ってみてろ」


 このくらいの距離があれば地上にいる人間が邪気に気付くこともないだろう。

 この地下施設そのものにも、ありとあらゆる付与魔術(エンチャント)は為されているようだ。

 強度アップ、防音効果、気配遮断といったものである。


 多重魔法陣起動。


 無数の魔法陣が次々と重なっていき、一つの立体映像を形作る。

 黒き瘴気を放つ髑髏(どくろ)であった。


邪熱病(イビルフィーバー)


 魔法が完成すると、その髑髏(どくろ)を教会の祭壇に置く。

 まあ触ってもすり抜ける立体映像でしかないが。

 

 部下たちは警戒して距離を取ったままである。


「それまさか大爆発するんですか?」

「しないから落ち着け」


 部下たちは恐る恐るこちらに近づいてくる。


「これは一体……?」


 ジェコが首をかしげる。


「いちおう、お前たちにも影響を与える効果はでているはずだぞ。余裕でレジストしているんだろうが」

「アシュタール様の立体魔法陣は我らの理解の外。見てもどんな効果がわかりません」


 アドリゴリが答える。


「範囲は王都ローダンを覆う程度。効果は風邪を引く。正確に言うと熱病になる。レジスト可。まあ人間にはなかなか抵抗できないだろうが」


 邪熱病(イビルフィーバー)の効果範囲内にいると、徐々に病気は悪化する。

 

 一日目はちょっと熱っぽいかなといった程度。

 二日目は熱が上がってだるくなる。

 三日目は熱でダウン。無理をすれば可能だろうが、仕事は休むレベル。

 四日目は熱病のひどさに食事も困難になる。

 五日目でもう起き上がれない。

 六日目で昏睡状態。

 七日目もさらに悪化していき、人間ならそろそろ死んでもおかしくない状態になる。

 それ以降もどんどん症状は進行する。


 こういう効果を及ぼす魔法である。


「なるほど、ローダンの人間をそうやって皆殺しにするのですな」


 ジェコが楽しそうにしている。

 しかし、直後には深刻そうな表情になった。


「カンタブリッジ学園の生徒たちは逃がしてもよろしいですかな? いや、別に心配してるとかそういうのではないんですが」


 めッちゃ心配してるじゃねーか。


「皆殺しにするわけじゃないから落ち着け。今回は効果はレベル5までで止めてある」


 俺がそういうと、ジェコはホッとした。

 まあ熱病に長い期間かかったままだと、体力が落ちて死ぬこともあるが。

 その前に治療するであろう。


「人々を病気にしてどうするんです?」

「治させる」

「それはまあ治すでしょうが」


 ジェコに言っても仕方がないが、他の者もいるので説明をする。


 現在ローダンでは3大宗教が信者獲得競争を行っている。

 それで何歩もリードしているのがアンガス教団である。

 『実質0ポンド』で医療サービスを提供すると約束し、大量の信者を獲得した。


 だが、これには一つ弱点がある。

 そもそもサービスというのは有限である。

 特に回復魔法を受けるサービスというのはお高いものだ。


 なんで高いかといえばそれだけ人手が足りないからだ。

 すべての司祭が回復魔法を使うことだけに専念するならともかく、各自それ以外の活動もある。

 

 自分を鍛えることも必要だ。

 治療に専念してたから弱いです。

 魔王が出た? 知らんがな、では困るわけで。


 そして回復魔法というのは基本貯めておくことができない。

 普通に売っている商品であれば、予想より売れても在庫、備蓄というものがある。

 治療はそういったことができない。


 いきなり客が殺到したらお手上げとなる。

 大量に信者を獲得したアンガス教団は、この問題には到底対処できないであろう。


「なるほど。奴らのプランには弱点があったのですね。それを一瞬で見抜くとはさすがですな」 


 アドリゴリが賞賛する。


「今、人々はサービスの値段で信仰を決めている者が多い。この熱病が流行れば、それを治せる人が多いところに人は集まるさ」

「そのキャパシティはブリジット教団がダントツで高いですね」

「本部がある上、ティライザとユーフィリアが協力してるからな。アズライラという最高司祭も優秀なヒーラーの1人だ」

「ふむ、あとはどう収拾をつけるかですが」


 爺やが口を開く。


「あの魔法を解除すれば終わりだ」

「いえ、できればこちらの活動に利用したく存じます」

「ふむ?」


 こんな地下神殿を作っていたりと、何やら活動的に動いているようだ。

 各自の活動を逐一チェックなどしていられないし、好きにさせておくことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ