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98.邪熱病

 3大宗教による信者獲得競争は今ローダンで一番ホットな話題である。

 3つの宗教施設がある通りはいつもより賑わっていた。


 ブリジット教団は女神であり女性信徒が多い。

 もちろんその職員も女性が多めである。

 若い職員に少しばかりセクシーな服を着てもらい、信者の勧誘を行っていた。


 その効果は多少なりもとあったようで、信者は少しずつ戻ってきている。

 もっとも、到底逆転できるようなものではないが。


 その手法では男性信徒は獲得できても、女性は望み薄である。

 さらに言えば、所属している女性信者から苦情が出ていた。

 そういう勧誘活動はよろしくないと考えるものも少なくないのだ。 


 男のほうも何かすべきだという意見もあった。

 しかし、こちらは実行する前に先を越されてしまう。


 俺はこの宗教通りを眺めている。

 ガタイのいい男たちが上半身裸で勧誘をしていた。

 ダグザ教団の戦略がこれである。

 

 ダグザ教団が男、ブリジット教団が女、アンガス教団は金。

 各自仕える神の教義に影響を受けた作戦を取ったということだ。

 ただ全部が教義の解釈を間違えてるような気がしないでもない。


 ダグザ教団の勧誘者はどう見ても女が好む男たちではない。

 イカニモな方々が好む男であった。

 たぶんそれに釣られる人はかなり少ないと思いますよ。

 俺は心の中でツッコんでブリジット教団本部に入っていった。


「あっ」


 俺が中に入ったことに気付いたアイリスは恥ずかしそうに体を隠した。

 休憩中だったのか、いつもの4人が椅子に座ってジュースを飲んでいる。


「そこまで気にするほどまずい衣装ではないですけどね」


 そのように言うティライザは修道服は着ていない。


「じゃあティルも着ようぜ」


 それをジェミーに茶化される。


「他人に見せれるような体じゃありませんので」


 ティライザは体型がコンプレックスなのである。

 普段はゆったりとした服を着ていて、体つきがわからないようにしてる。


「それにしても、今日はなんかこの近辺に人が多くないか?」


 ジェミーが辺りを見渡す。


「なんか風邪が流行っているそうよ」


 ユーフィリアが答えた。


「はい、もしかしたら診療所のほうを手伝いに行く必要があるかもしれません」


 アイリスはむしろそちらに行きたいのかもしれない。

 しかしブリジット教団はここが本部であり、魔法を使えるものも多い。

 問題なく対処できていた。 

 だが、その日はまだ予兆に過ぎなかった。






 数日が経つと、町は騒然となっていた。

 流行していた病は謎の熱病であった。

 たったの数日でローダン内で大流行したのである。


 魔法で治せること、死者は今のところ出ていないこと。

 これらは政府関係者を安堵させた。

 致死率の高い病であればこの程度の騒ぎではすまなかったであろう。


 魔法で治せるとわかっている以上、人々は3つの教団施設に殺到した。

 もはや信徒勧誘どころではない。

 アイリスだけでなく、回復魔法が使えるユーフィリアもティライザも治療を手伝っていた。


 軽い症状であればキュアーという初級魔法で治せる。

 それより上にはリフレシュ。

 最上級にはハイ・リフレシュという魔法がある。


 症状に応じてそれらを使い分けていた。


「結構忙しいけどなんとかなりそうね」


 ユーフィリアは疲れてはいるのだろうが、気丈に話す。


「しかしなぜこんなことになったんでしょう」


 ティライザが首をかしげた。


「一応国で調査中だけど、全く手がかりはないらしいわ」

「回復魔法が使える人材はもう病の治療に駆りだされていますしね」


 ブリジット教団はまだ余裕があった。信徒が減っていたためである。

 では最近大量に獲得したアンガス教団はどうなったか。


 俺はブリジット教団本部の外に出て、アンガス教団のほうを見る。

 大混乱であった。


 イビルアイサイトを飛ばし、ニコラスの様子を伺う。


「なぜこうなったのでふか!」


 ニコラスは怒鳴り散らしていた。

 信者を増やす以上、回復魔法を使える人も増やす必要がある。

 本国より助っ人は呼んでおいた。


 それで問題なく(さば)けるはずであった。 


「原因不明の熱病が大流行しているそうです」


 ダリップがうんざりしながら答えた。

 このやり取りはここ数日幾度も繰り返されていることなのだろう。


「原因不明では困るのでふよ。これは政府の責任でふ」


 ニコラスはそういうが、信者にとってはどうでもよいこと。

 まず治療してほしい。それだけである。


 この熱病は健康を保つには毎日キュアーの魔法をかける必要があった。

 治しても翌日には再度病にかかっているのである。

 だからといって放置した場合、数日で重症化するのだ。


 信者であっても格安で回復魔法を受けれる回数には制限がある。

 最初は軽い熱がでる程度。

 だから、我慢する者が多かった。


 それが数日たって、容態が悪化してから慌てて教団に担ぎ込まれる。

 そのときには高位の治療魔法が必要になっているというわけだ。


「とても手が回りません、信者が増えたことが仇となったようです」


 ダリップも全身から汗を流し、疲労困憊(こんぱい)であった。

 外の雰囲気は最悪の状態となっていた。


「話が違うじゃないか! 格安で回復魔法が受けれるんじゃなかったのかよ!」

「責任者を出せ!」


 その声に応じて外に出たニコラスが、群衆をなだめようとする。


「皆さん落ち着いてほしいでふ。ヒーラーの数も魔力も無限ではないのでふ」

「数が増えても対応できるだけのヒーラーがいるって言ってたじゃないか!」

「こんな謎の病気の大流行には対応できないでふよ。政府に文句を言ってほしいでふ」

「ふざけんな!」


 大声を上げているのはまだ元気なものたちである。

 そうでないものも多く、皆苦しそうにしていた。


「頼む! 娘だけでも魔法をかけてくれ! すごい熱なんだ」


 その娘はグッタリとしていた。

 謎の病気である以上、いつ死んでもおかしくはない。

 まあ死ぬことはないんだけど、父親が一刻も早い治療を懇願するのは当然であった。


「そ、その子くらい重症になると、治ふには高位魔法ハイ・リフレシュが必要でふ。でもここにはその魔法の使い手は1人しかいないでふ。その人はすでにぶっ倒れたでふ。申し訳ないけどまた明日来てほしいでふ」

「明日なら必ず治療してもらえるのか!」

「その約束はできないでふ」


 ニコラスは群衆に詰め寄られてタジタジになっていた。


 俺はその光景を遠巻きに眺めていた。

 これでアンガス教団の信用は地に落ちるであろう。

 いくら安くてもこれでは意味がない。

 肝心なときに利用できないのではな。


 勧誘しておいてサービスが悪いというのはむしろ嫌われてしまうものだ。

 どちらにせよ優秀なヒーラーが多く、まだ余裕があるブリジット教団に人々は向う。

 そう思っていた。

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