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92.プロローグ

 秋が深まってきてはいるが、ブリトン王国首都ローダンはまだまだ暖かい。

 ここローダンは大陸中央部。

 冬も雪が降ることがない、温暖な地域である。

 

 座学の時間も終わり、教室でボーっとしていると司祭であるアイリスが近づいてきた。


「お暇でしたら、ちょっと時間いいですか?」

「ん。なんだい」


 アイリスが一人で話しかけてくるのは珍しい。


「東方の村出身ということですが、それなら女神ブリジットを信奉しておいでですか?」


 アイリスは司祭である。

 宗教の勧誘みたいなものであろう。

 この世界には主に3つの宗教がある。

 

 世界の主神であるダグザを(あが)めるダグザ教団。

 正義と戦の神。荒々しい男神である。

 大陸西方の大国、アイランド王国が国教としている。


 女神ブリジットを(あが)めるブリジット教団。

 慈愛と豊穣の女神。東方地域で主に信仰されている。

 豊穣の神であるため農村部での人気が高い。


 そしてアンガス教団。

 生産と商業の神であるアンガスを信奉している。

 スコットヤード王国の国教である。


 ブリトンはその3神を平等に信仰しており、国教というものを定めてはいない。

 大陸の真ん中にある国ゆえ、国民の信仰もばらけていたのだ。


「いや。俺は特に信仰している宗教はないかな……」


 嫌な予感がしながらも正直に告げると、アイリスの眉間にしわがよる。


「そんな気はしていました。よければ教会に行きませんか?」


 ですよね。

 この世界は神を信仰していない者がいないとは言わないが、かなりの少数派である。

 司祭ともなれば信者集めは仕事の一つ。

 

 そういった人々は格好の的ある。


「あなたの女性問題、破廉恥な生き様はどの神も信仰していないのが原因の一つだと思われます」

「破廉恥な生き様……」


 ひどい言われようである。

 しかしアイリスはいたってまじめな顔であった。


「神に祈り、心を落ち着けることで得られるものもありますよ」


 一度行ってみるくらいはいいだろう。

 俺がしぶしぶ了承すると、アイリスは俺の手を握って転移した。


 ブリジット教団の教会。

 それなりに大きな建物で、教団本部も兼ねていた。

 アイリスは東方諸国の田舎出身である。

 環境のみならず性格的にも、ブリジット教を信仰しているのは当然であろう。

 

 俺とアイリスは女神像の前で祈りをささげる。

 正直俺が祈ってもいいのかなとは思う。

 まあ女神ブリジットは慈愛の神。

 邪神が祈っても寛容な精神できっと許してくれるさ。


 俺は隣で祈っている少女を見る。

 勇者パーティーのメンバーであるアイリス。

 控えめな性格なのであまり目立つことはない。


 祈っている最中のため、つぶらなブルーの瞳は見えない。

 むっちりとした体つきであり、大きな胸とお尻はゆったりとした神官衣でも隠せてはいない。


 その整った顔立ちと体は男を魅了する。

 アイリスが教会に入るや否や、男たちはざわついた。


 アイリスが祈ると、後方でそれにあわせるように祈る男たち。


 こいつら信徒になっても煩悩まみれじゃねーか。

 こういうのは神に祈っても解決しない証である。


「熱心ですね」


 後ろから声がかかる。

 50代の温厚そうな司祭であった。

 ただしきている服は金の刺繍(ししゅう)があったりと、高い地位にあることがわかる。


「アズライラ最高司祭」


 祈り終えたアイリスが頭を下げる。

 男たちも最高司祭を前に欲望丸出しというわけにもいかないのだろう。

 すごすごと遠くに離れていった。


「入団希望者ですかな」

「ああいや、彼は信じている神はいないというので」

「なるほど」


 アズライラはその一言で納得する。

 終始にこやかな表情で会話をし、程なく去っていった。

 最高司祭は当然忙しいのだろう。


 ブリジット教団の最高司祭が、なんでこの街にいるのかという疑問を持つものもいるだろう。

 ブリジット教徒が多い地域は東方諸国なわけだが、東方諸国は山間の小国が多い。

 当然大都市と呼べるものはないのだ。


 なので、本部を置くならローダンでよいのではないかということになる。

 さらに言えば、明確な国教を持たず多様な信者が混在するローダンは信者獲得競争の激戦地。

 そこに本部があり、最高司祭がいるというのは強みとなる。


 教団本部はローダンにおくのが合理的であるとわかってはいても、東方諸国からの本部移転を実行するのは容易ではない。

 宗教というのは昔ながらの決まりごとを変えようとすると、猛烈に反対されるものだ。

 

 その反対派を押し切って、ローダン移転を決めたのが現最高司祭アズライラである。

 その成果は間違いなくでている。

 僅差ではあるが、ローダンで最も信徒が多いのがブリジット教団となっていた。


 そんな説明を嬉々としてしているアイリスから受けた。

 いやまあ俺が何とはなしに尋ねたからなんだが。


「よろしければ入団をご検討ください」

「入団って入ると何かしないといけないのか?」

「ただの入信者にそういったものはありません。上を目指すなら色々とありますけど」

「興味ないな。アイリスはお偉いさんなのか?」

「一応高司祭の地位にあります」


 アイリスは自慢と取られないように、慎重に答える。


「それってかなり偉いんじゃ? 若くしてなれるもんなのか」

「魔法の才能や戦闘能力が高いと、それだけでなれることもあります。そうでない場合は時間がかかるでしょうね」


 神学という独自の学問の成績。

 信者獲得数。教団への貢献度。

 

 そういったものが判断要素である。

 

 司祭の魔法は回復魔法がメイン。

 怪我だけでなく、病気も治すことが出来る。

 難病奇病は除くが。 


 魔法能力が高い人材というのは貴重。

 ゆえに高待遇であるということだ。


 俺はそういった各種説明をさらっと聞き流していた。

 宗教になんてそれほど興味がないからな。

 しかし後日、俺は宗教紛争に巻き込まれることになるのであった。

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