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88.動揺する人々②

 フィオナは一報を聞いた瞬間、恐ろしいほどの寒気に襲われた。


 誰がやったかなどフィオナには明白であった。

 人の姿をしているが、次元の違う存在。


 竜族、魔族といった人よりはるかに強い種族は存在する。

 それらより1ランク強い新種族のようなもの。

 少なくともアシュタールという少年には弱点があり、対抗することは可能。


 そういったものではないかと思っていた。


「まずい……。私は彼に敵対行動を取ってしまった」


 うかつであった。

 このローダンの街もハミルトン要塞と同じように消滅するのではないか。


 一瞬そう考えたが、彼らのこれまでの行動原理からするとそれはありえないと推定される。

 少なくとも自分の知り合いごと吹き飛ばすような考えの持ち主ではない。


 だが自分にとっても、ブリトン王国にとっても危うい状況であるのは間違いないであろう。

 フィオナは国王であるリチャード二世と話をするために、ウォーリック城の廊下を早足で歩いていった。


 リチャード二世は会議室で家臣たちと話し合いをしている。

 喧々諤々(けんけんがくがく)とした会議で、フィオナにはあまり有益とは思えなかった。


 フィオナが会議室に入っても、しばらく誰も気付かないほどの喧騒であった。


「ハミルトン要塞が消滅したのは、ざまあ見ろってことでいいんじゃないですか」

「確かに溜飲(りゅういん)が下がったが、次はどこが吹き飛ばされるんだ?」

「怖い話は止めて下さい」

「けど調査しようにも他国ですし。消滅したから調べようがないらしいですよ」

「スコットヤード王国の動きは?」

「ありませんね。スコットヤードも分かってないんじゃないですか」


 家臣たちが益体のない会話をしている。


 フィオナは少し待ってリチャード二世に近づいていく。

 フィオナに気がついたリチャード二世は、情報収集を続けるように命じフィオナと別室へと向う。


「この件に関してはおぬしが一番詳しかろう」

「はい、いくつか報告させていただきます」


 フィオナは隠し立てすることなく、ありのままを告げた。

 アシュタールは自分達に手を出したらどうなるかを教えてやると言って、転移していった。

 その結果がこれである。


「もはやあの者で確定ということか」

「はい。他のものがやったにせよ、命令できる立場にあるのは間違いないでしょう」

「ということは50年前も、先日の魔元帥フメレスもあの者らが倒したということじゃな」

「あれほどの力があれば造作もないかと」


 フィオナは確信をもって同意する。


「であれば人類の敵でないと考えていいのか?」

「何しろさっぱり話をしてくれませんので。イマイチ掴みどころがないですが、魔族のように明白な敵対者ではないと思われます」

「しかし怒らせれば、こういうこともあるということじゃな」


 フィオナはそれを聞いて震えていた。


「私も彼と敵対しています」

「そうであったな。しかしお主は無事生きていて、あちらは要塞ごと消し飛んだ。超えてはいけないラインがあるのだろう。直接危害を加えないとか」

「フレアで丸焦げにしました」

「んん?」

「あとクラウ・ソラスで思いっきり切り裂きました……って陛下?」


 リチャード二世は後ずさりしている。


「超えちゃいけないライン超えてるような……」

「私もそんな気がしています」


 フィオナが額から汗を滴らせる。


「そ、それはまあ置いておくとしてだ」


 リチャード二世は咳払いをして話を変える。


「しかし困ったな。そのような存在がこの世界におるなどということ。これをどう扱えばいいか、皆目見当もつかん」

「過去の歴史を紐解けば、よく分からない現象、事象はいくつかあります。歴史に少なからず介入してきているのは間違いありません」

「それらは彼らの仕業であったと」

「おそらくは」


 過去人類は6度、滅亡の危機を迎えたと歴史には(つづ)られている。

 それらすべてで大逆転してきたなどというのは、確かに不自然であった。

 何者かが手を貸したというのであれば、むしろ納得がいく。


「スコットヤードと同じ目にあっては笑いものだ。彼らのルール、特性といったものを知りたいところじゃな」

「しかし隠れての調査は無駄です。また、直接聞いてもルールで言えないとのこと」

「ほう。彼らもルールには縛られておるのじゃな」


 リチャード二世は目を細めた。


「そのルールが分かれば妥協点も見えてこようが……」

「残念ながら、それは言えないのですよ」


 そのとき、窓の外から声が聞こえてくる。

 男性の声であった。


「何奴っ」


 フィオナが剣に手をかける。

 その男は窓をあっさりと壊す。

 城の窓は当然ながら魔法で強化されたもの。

 それを易々と壊したことにリチャード二世が慌てる。


 中に入ってきたのはエウリアスとセリーナであった。


「セリーナ様!?」


 フィオナが素っ頓狂な声を上げた。

 しかし、次の瞬間には再度警戒する。

 この人物はもはや人類の味方とは限らないのだ。


「あらあら。私は人類側とは認識されなくなってしまったのですね」


 セリーナは怪しい笑みを浮かべる。


「数奇な人生を歩ませてしまって申し訳ありません」


 エウリアスが謝罪する。


「いえ、私は楽しんでますから大丈夫ですわ。それに、こうならなければ私は――いえ人類は滅んでいたのですし」

「我々にもわかるように話してほしいものじゃな」


 リチャード二世が会話に割り込む。


「残念ですが、我々のことは説明できないのでね」

「あの少年と同じ答えか。それでは交渉にもならんな」

「いえ、これは交渉ですよ。我々も今困っています」


 邪神族のことは知られるわけにはいかない。


 エウリアスの主であるアシュタールは、人間の世界での生活を望んでいる。

 しかしこのままではアシュタールのことが広まってしまうであろう。


 そうなったらアシュタールは人間世界で暮らすことができなくなる。

 また暗黒神殿に引きこもって数百年待てば、人間はそのことなどすっかり忘れるであろう。

 しかしそんな長い期間、再度引きこもることは本意ではない。


「ゆえに、われわれは交渉の用意があります。あなた方が欲しいのは情報ではないはず。安全だという確証でしょう」

「ほう。人類に二度と危害を加えないと確約できるのかな?」

「その交渉をするにあたって、一つやってもらいたいことがあります。対魔族会議を開いてほしいのです」


  リチャード二世はエウリアスの真意を測りかね、問い返す。


「対魔族会議じゃと。魔王も発生していないのにか」

「それしか各国の人を集める方法がないですからね」

「まあ、規定外の使われ方をしたことは過去にも例はあるな」

「私の名で召集してもらってかまいません。私が話をつけますので」


 セリーナがそう告げると、リチャード二世は奇異の念を抱く。

 セリーナはこれまで頑なに関わろうとしなかったのだから。


 この問題はブリトンだけで解決できる話でもない。

 リチャード二世は頷き、対魔族会議の開催を各国に通達した。

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