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87.動揺する人々

 カタストロフィーはあまりの規模の大きさゆえ、遠方からでも見ることができた。

 

 もちろん見えない地域も多い。

 しかしそれを見たものから即座に情報が伝達され、世界中はパニックとなった。


「なんだあの光は。巨大な雲は!?」


 スコットヤード王国国王ジョージ三世の執務室から、その姿ははっきりと捕らえられていた。

 王国首都グラーゴからハミルトン要塞までの距離は100キロメートル強。

 今日は快晴であり、視界もよかったため見ることができたのだ。


 第六魔災後の生まれであるジョージ三世には、なにが起きたのかはわからない。

 50年前を知る、年老いた女中の話を聞いて理解する。


 老婆が言うには、あの光は50年前に人類を救いし救世の光であるとのことだ。

 だがジョージ三世には嫌な予感しか感じられなかった。

 つまるところ、50年前のあの恐るべき魔法が再度使われたということだ。


「仮に救世の光だとしても、平和な今の世にそんなものは必要ない」


 いったいなにが起きたのか。

 発生源はスコットヤード王国首都グラーゴから南方の方角である。


 ジョージ三世は家臣達に調査を命ずる。

 その結果は驚くべきことであった。


 人類最高の要塞が消滅。

 次の魔災において、人類の希望となるはずだった難攻不落の要塞。

 スコットヤードが資金と技術を惜しみなくつぎ込んだ要塞が、対魔族戦争で使用することもなく無くなったのだ。


「なぜこのようなことになった……」


 誰の仕業なのかも不明である。

 要塞の兵士は逃げる時間があり、かなり者が生き残ったそうだ。

 だが団長を含め第三騎士団の中核にいた者が皆死んだため、何が起きたのか説明できるものはいなかった。


 50年前と同じというのであれば、有力な犯人は一人思い浮かぶ。

 第六魔災の英雄、大魔道士セリーナ。


 だがなぜこのようなことをする必要があったのか。

 雌伏の時を終え、世界を征服するつもりなのだろうか。


 ジョージ三世が考え事をしていると、息子であるヴィンゼントが大慌てで部屋にやってくる。


「何の用だ? 今はお前と談笑している暇はないぞ」


 ジョージ三世も余裕がなく、息子に対していささかぶっきらぼうであった。

 ヴィンゼントもそれを感じ、一瞬たじろぐ。

 しかし気を取り直すと、父に訴えるように話す。

 

「父上。これは一大事ですぞ!」

「貴様に言われんでもわかっておるわ」

「それより、早く防御を固めないと。ここに攻めてくるかもしれないのです」

「その可能性は確かにある」


 ジョージ三世は眉間にしわを寄せる。

 そうなったらもう打つ手はない。

 防御を固めればどうにかなるという次元を越えている。


 もっとも、あんな力を無尽蔵に使えるというわけでもないだろう。

 そのような力の持ち主であれば、もはや世界を滅ぼすことすら容易い。

 そんな者がいて、この世界が今まで残っているわけがない。


 せめてあの計画が間に合っていれば……。

 そう思いながらヴィンゼントを見ると、必要以上に怯えているようだ。


「落ち着け。敵がすぐ来ると決まったわけでもないのだぞ」


 今は誰にも見られてはいないが、人の上に立つ者は動揺を見せてはいけない。

 何事にも平然としているべきである。


「いいや、あの男はきっと来ます!」

「うん……?」


 ジョージ三世はヴィンゼントとの認識の違いが気になった。

 セリーナとその周辺にいる不思議な者たち。

 彼女らの仕業ではあろうが、なぜ男と断定できるのか。

 なぜ高確率でやってくると判断したのか。


「あの者はきっとここに来ます。はやく守りを固めなくてはっ」


 どうやらヴィンゼントは少々錯乱しているらしい。

 それを悟ったジョージ三世はヴィンゼントをなだめつつ、事情を話させた。


 その説明を聞いてジョージ三世は愕然とする。

 しどろもどろであり、ヴィンゼントに非がある部分は幾つか隠しているであろう。

 ただ、彼らを怒らせてしまったことは間違いない。

 それで彼らが力による報復を始めた可能性が高いと。


 確認のためにローダンに使者を送ると、ヴィンゼントの屋敷が襲撃されたとの報告を受けた。

 アシュタールという人物の仕業で間違いないようだ。


 いや、人物という表現は正しくない。

 間違いなく人ではないのだから。


 大体の話は繋がった。

 しかし、現状対抗策などあるはずが無かった。


 そんなことをしていると、外務省の役人が部屋にやってくる。


「あの……ローダンより使者が来ております」

「用件は?」

「対魔族会議を開くとのことです。最優先で、今すぐ来るようにと」


 ジョージ三世は説明を聞いて、考え込む。

 このタイミングで魔王が発生したなどということがあるわけがない。

 ならば、この召集はハミルトン要塞消滅の件であろう。


 完全な別件ではあるが、各国が一堂に会する会議など他にはない。

 そういった使われ方は、たまにではあるが前例があった。


 もっとも、その点を突いて召集を拒絶することもできる。


「すぐに来いとはずいぶん偉そうだな。こちらはそれどころではない」


 ヴィンゼントがはき捨てる。


「そもそもこれは罠ではないのか。我々をおびき寄せて亡き者とするつもりでは」

「奴らがブリトンを動かした? そんなわけあるまい」


 ジョージ三世はヴィンゼントに否定的な意見を述べた。


「いえ、あの……」


 報告の役人が控えめに話そうとする。


「会議の発案者は大魔道士セリーナ様です」

「なんだと? 彼女に対魔族会議を招集する権限があったとは初耳だな」


 ヴィンゼントが皮肉のつもりで言う。


「いや……。ある」


 ジョージ三世はそれを否定した。


「なんですと?」

「彼女にも召集権限と参加権限はあった。これまで一度たりとも使ったことはなかったがな」


 彼女らは何のためにこの会議を招集するのか。


「いくしかあるまい。我々を害するだけなら、別にこんな手段を使う必要もない」


 どちらにせよ、わざわざ会議という力を使わない土俵に上がってくれるのだ。

 スコットヤードとしては乗るほかあるまい。


 あちらにも弱みはある。

 彼らは自分たちの存在を隠そうとしていること。

 その力でもって人類をどうにかしようとはしていないこと。


 それをうまく突くことができれば、形勢逆転もありうる。


 ジョージ三世は会議の流れを主導する作戦を練りながら、ローダンに向うのであった。

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