85.救出
俺はハミルトン要塞のはるか上空から、下を見下ろしていた。
転移は行ったことがない場所にはいけない。
俺が自由に動けるようになってからまだそれほど経っていない。
なので俺が転移で移動できるのは基本上空である。
外に出れるようになってから、上空を飛行の魔法で自由に飛びまわったのだ。
ものすごい速度で飛んだために、世界中で謎の怪奇現象として観測され話題になったらしいが。
俺はイビルアイサイトでハミルトン要塞の中を見ていく。
おそらくは人目がつかない場所。地下だろう。
あっさりとオーレッタが拷問を受けている現場を見つける。
即座に呪いの魔法を解除する。
ふう。これでオーレッタの命の危機は回避された。
だが、オーレッタの拷問は続いている。
こいつを許すほど俺は甘くはない。
俺は怒りに任せて突入しかけるが、その前に思いとどまる。
突入してオーレッタを救出するのは容易い。
しかしその後どうするか。
スコットヤード王国自体をどうにかしないと、この問題は解決しそうにない。
すでに俺は目を付けられてしまっているのだ。
しかし、そこまでやるのもどうかなー。
こちらは別に世界征服したいわけでもなし。
そう考えていると、俺のそばに爺やとセリーナが転移してきた。
「なんだそれは」
俺は二人を呆れながら見る。
セリーナは爺やにお姫様抱っこをされていた。
「アシュタール様が上空にいるのはわかってましたので」
爺やはそう言いながら、セリーナを下ろす。
もちろんセリーナも浮遊の魔法を使い、上空に浮かぶ。
「我々も今回の件を聞きつけまして。慌ててやってきた次第でございます」
「今まさに拷問されているな」
オーレッタは拷問に耐えかねて、話し始めている。
「見れるのですか? ハミルトン要塞は最高の防御付与魔法がかけられています。当然そういった探知系魔法も妨害しているはずですが……」
「我々の魔法はこの程度で阻害することはできませんな」
セリーナの質問に爺やがさらりと答えた。
「それはともかく。このままですと問題が大きくなりすぎてしまいます」
「ああ。それで悩んでいたところだ」
「早急に対策を練る必要があります」
「しかしそれを話している時間はないな。行ってくる」
あの状態のオーレッタをこのまま放置しておくわけにはいかない。
そう考え、俺は魔法を使った。
オーレッタへの防御結界魔法である。
オーレッタは呪いが発動したと思っているようだがそうではない。
普段は魔法陣などすぐ消えてなくなるものだが、今回は見えるようにした。
防御魔法がかかったということを実感させるためである。
そして俺は浮遊を解き、下へと落下していった。
ハミルトン要塞は普通の城や城塞都市とは違う。
ふつうの構造では空を飛んでくる相手に防壁の効果が薄い。
空から簡単に中に侵入されるようでは、篭城しても意味がない。
ゆえに、上に対しても全面硬材で覆っている。
もちろん真四角ではない。
様々な出っ張りなどがあり、一部は開閉式となっている。
今は戦時中ではないため開かれているところもあるようだ。
俺は南西の屋上に着地する。
見張りはいない。
「ご明察」
拷問吏が慌てていったことに俺は応えた。
当然声を飛ばす魔法を使ってだ。
オーレッタはこの真下にある地下室にいる。
この要塞の壁や床は最高の強化魔法がかけてあるらしいが、俺には関係がない。
俺は邪気を足に込めて床を踏みつける。
ビキビキビキッと床がひび割れていく。
思ったより硬いじゃないか。
俺は飛び上がってさらに力を込めて床を蹴る。
屋上ごと、そのまま下にあった建物をぶち抜く。
そして目の前にあった階段を下り、地下にたどり着いた。
「アシュタール様!」
オーレッタが俺を見て驚く。
部屋に入って近くにいた拷問吏の1人を殴り飛ばした。
その男は動かなくなる。
「て、てめえがアシュタールか」
もう1人の拷問吏はオーレッタを人質にしようとしたのだろう。
オーレッタに近寄ろうとして、結界にはじき飛ばされる。
「げええええええ」
拷問吏は図らずも俺の目の前に倒れこんできた。
俺はその部屋にあった大きな金属の針で拷問吏の手を刺した。
「ぎぇやあああぁぁぁ」
拷問吏の腰にあった鍵を奪い取り、オーレッタの手錠をはずした。
拷問によって消耗していたオーレッタは、俺に倒れかかってくる。
俺はそのまま抱きかかえた。
「ああ。こんなに早く来てくれるとは思ってもみませんでした」
「すまなかった。遅くなったな」
「いえ、あなた様の秘密を話してしまいました。申し訳ありません」
「その情報はすでにたいした価値じゃなくなっている。問題ない」
オーレッタは話したのに呪いが発動しなかったことを不思議に思っているであろう。
俺はその理由を説明してやった。
直前に魔法を解除したと。
そこに爺やとセリーナがやってくる。
治療はセリーナに任せ、俺は拷問吏を見下ろす。
「ゆ、許してくれ。俺は命令されただけなんだ!」
俺は金属の針を抜き、拷問吏を掴んで壁に押し付ける。
「命令したのは誰だ?」
「この要塞にいるカーティス団長だ。だから……」
「ほう、そうか。お前は命令を受けただけなんだな」
俺は目を細める。
「そうだ」
「それならお前の責任じゃあないな」
その言葉に、拷問吏はうれしそうな顔を見せた。
「じゃあ見逃してくれる――うぎゃああああああっ」
俺は右腕を吹き飛ばす。
「な、なんで!」
「だが許さない」
「俺の責任じゃないのにっ」
「ああ。責任者が悪いな。あとから地獄に送るから、文句を言う準備をして待ってろ」
それは死刑宣告であった。
俺は拷問の道具の中に面白いものを見つける。
蓋に多数の針がついたお棺のようなものだ。
俺は拷問吏をその中に入れ、蓋をしようとする
「お前にはこの中がふさわしい」
「ちょっと待って、その蓋をしたら本当に死にます!」
「じゃあ何でこんなものがここにあるんだ?」
「蓋をするぞと脅すためのものです。本当に蓋をするんじゃありませんっ」
「じゃあ俺が正しい使い方を教えてやるよ」
「いやだあああああ」
俺はそのまま蓋をして、力を込める。
拷問吏の断末魔の悲鳴と共に、お棺から血が溢れてきた。
「もっと苦しめるべきだったか」
オーレッタを見ると、彼女は首を振った。
「アシュタール様がこのようなものに時間をかける必要はございません」
爺やを見ると、何か言いたげであった。
「言いたいことがあるなら言ったらどうだ」
「いくつか対策を考えたのですが、ここでこのまま暴れるようであれば使えません」
俺はオーレッタを見る。
傷ついたその姿を。
「そんな選択肢はない」
このようなことをした奴らには目に物を見せる必要がある。
「別の手を考えろ」
「イエス。マイゴッド」
爺やは苦笑しながらもそう答え、オーレッタを連れて転移した。
俺は地上を目指し、階段を上っていった。




