83.情報収集
オーレッタがさらわれた。
その情報は俺もフィオナも驚くほかない。
戦闘など継続している場合ではなかった。
俺はクラウ・ソラスをフィオナに投げて返す。
「いいの?」
「今はそれどころではないでしょう」
フィオナは戦闘を打ち切ることには不満げではあったが、武器をしまう。
「何があったか説明しなさい」
フィオナに命じられ、男は事情を話す。
事情と言ってもたいしたことはわからない。
フィオナは念のためオーレッタに護衛をつけていた。
しかし常時そばで見張るわけではない。
それはそれで周りに奇異に映る。
行き帰りは厳重にガードしたが、冒険者ギルド内では少し離れたところで見守っていた。
オーレッタは遅めの昼食を取るために、ギルドの奥に入っていく。
警護の者もまさかギルド内で誘拐されるとは思っていはいなかった。
時間になっても戻らないので、探してみたがどこにもいない。
上司のデスクには書き置きがあり、体調が悪いので早退するとあった。
だが、誰にも告げずにそんなことをするような人物ではない。
「気配を消して一人になる瞬間を待って、眠らせて転移したといったところかな」
俺は感想を述べる。
「ただの施設ではない。冒険者ギルドよ。誰にも気付かれずにそんなことできるのかしら」
フィオナが疑問を呈する。
「ギルドなんてほとんどが大して使えない奴。施設も広いので人がいない場所も結構あります。行動パターンを調べられていればどうにでもなりますね」
「そう言えばオーレッタは食事はいつも1人で取ると言ってたわね……。人がいるところだと男が絡んできてめんどくさいって」
「その情報を持っていたのでしょう」
「奥のほうで潜んでいればいいってわけね」
俺はそこで話を変える。
「問題は、どこの誰が連れ去ったかです」
「当然ブリトン王国じゃないわよ。自国民を誘拐するわけがないわ」
フィオナが先んじて自分たちへの疑惑を否定する。
俺もさすがにそこは疑っていない。
「逆に、ブリトン王国の人間をこれほどあからさまに誘拐する国なんて限られますよね」
「スコットヤード王国か、アイランド王国くらいでしょうね」
「その2国に限定したとしても、正直どこに連れ去ったかなんて分かりません」
世界は広い。
俺の邪眼はこの世界のどこでも見通せるが、それはあくまでカメラを動かして見るような行為に過ぎない。
あてもなく適当に探しても、そう簡単に見つけられるものではない。
「正式な外交ルートを通じて抗議を……しても無駄よね」
「誘拐、暗殺といったスパイ活動を認めるわけがないですね。証拠があってもでっちあげだと突っぱねるでしょう」
俺は首を左右に振った。
「それに、そんなことをしている時間はない。リミットまであと何時間あるか。そういう状況です」
「……? 誘拐して話を聞きだそうとしているのよ。そんなすぐ殺すわけがないわ」
「通常であればそうです。まず尋問から入ります」
置手紙があったのは、終わったあと帰す可能性を考慮してるからである。
話してくれればすぐに開放すると。
そしてまた日常に戻れるように配慮しているのだ。
「尋問を経て、拷問を開始する。自白したとしてもまだまだ知ってることがあるかもしれない。なのですぐに殺されたりはしないわ」
「だけどオーレッタの場合、自白してしまったら――」
「あっ」
フィオナの顔色が変わる。
オーレッタは彼らが欲している情報を話したら死ぬのだ。
「い、今すぐ解除しなさい。 早く!」
フィオナが俺の胸ぐらを掴んでガンガンと揺する。
「そんなこと言われても解除は目の前じゃないと無理ですよ」
「ど、どうすんのよ。世界中のどこにいるかわからない1人の人間を数時間で探すなんて絶対無理よ」
「なんとかする」
俺が答えると、フィオナがこちらをじっと見つめる。
「何よ、心当たりがあるならいいなさい」
「最初に言ったでしょう。こんな大それたことをするのはアイランドかスコットヤードだと」
「だとしてもその両国のどこにいるかなんてすぐは分からないわ」
「それを調べます。力ずくでもね」
俺の言葉にフィオナは眉をひそめた。
「国家相手に正面からそんなことをしたら正真正銘のお尋ねものになるわよ」
「すでに色々かぎまわられている。半分お尋ね者のようなもんですよ」
「だとしても……」
フィオナが忠告しようとするのを遮って、俺は言葉を続ける。
「それにオーレッタは今は俺の眷属、家来。それに手を出したらどうなるか。それは知らしめねばならない」
俺の言葉に不気味さを感じたのか、フィオナが少し怯えた。
それを横目で見つつ、転移で飛んだ。
場所は高級住宅街。
転移は行ったことがあり、きちんとイメージできる場所にしかいけない。
俺はその家には行ったことがない。少し離れたところからその場所――ヴィンゼントの邸宅に向った。
もっとも今は主はいないだろうが。
その家の玄関をノックもせずに開ける。
「なんだぁてめえは?」
慌ててやってきた警護らしき男を殴り飛ばし、気絶させる。
目的の男はイビルアイサイトですでに捕捉済み。
階段を上り、正面の扉を開けた。
「な、何者だ!」
初老に入ったくらいのタキシードを着た男性。
この屋敷の執事長という肩書きだが、実際はそれ以外の様々なことにかかわっている。
さらにやってきた護衛数名が次々と倒されたのを見て、執事長は腰を抜かした。
その首根っこを掴み、壁に押し付けて話しかける。
「先ほど1人のブリトン人女性が誘拐された。心当たりはあるな?」
「し、知りません。何のことだ――ぎゃああああああっ」
俺は左手の小指の骨をへし折る。
「くだらない駆け引きをするほど暇じゃない。お前がスコットヤードの重要人物なのは分かっている」
「それでも知らないものは知らないっ」
「犯人は鮮やかな手際で、誰にも見られることなく誘拐していった。転移魔法の使い手でもある。どこかの国の一流のスパイだ」
執事長は黙ったままだ。
「答えないようならもう1本いっておくか?」
「待ってください。本当に、本当に知らないんです!」
執事長のその必死な形相は、とても嘘をついているようには見えなかった。
「この町のスパイは再編途中で、そんな活動ができる状態じゃありません」
「俺が誰かわかっているな?」
そう言われて執事長はやっと俺に気付いたようだ。
「あなたは……」
「お前が俺を尾行するように命じたんだろう。元気に活動しているじゃないか」
「そ、それは私たちではないっ」
その言葉に俺は目を細める。
執事長は失言に気付いて慌てた。
「ほう。では誰の仕業かな」
「ち、違うっ。がああああああああ」
俺は左手の薬指をへし折る。
脂汗を流しながらも、執事長は口を割らない。
なかなかしぶとい。
「お前が把握しているこの街のスパイ以外にも、この町で諜報活動をしている組織があるということか?」
答えがないので、3つ目の指を折ろうと、ゆっくり手を伸ばす。
「そ、そうだ。我々は関係ない。だから許してくれ」
「きちんと話せばこれ以上何もしない」
「スコットヤード王国第三騎士団が動いている」
その答えに俺は驚く。
直接的ではないとはいえ、騎士団が動いているとはかなりの大事である。
「騎士団だと? どういうことだ」
「そんなこと私に分かるわけがない。ただ極秘で動いているから誰にも教えるなと言われている」
「もしそいつらが人をさらったとして、どこに連れて行く?」
この質問にはさすがに答えがたいようで、執事長はしばらく黙っていた。
バキィッという音と共に、執事長の左腕はおかしな方向へと曲がった。
「ぎいいぃやあああぁぁぁっ」
執事長の悲鳴が屋敷内に響き渡る。
執事長以外にも屋敷に人はいるが、外から様子を伺うのみである。
「次は右腕をへし折る」
「わかりました! 言います、言いますからもう止めて下さい!」
俺が冷酷な声でそう宣言すると、執事長は観念した。
「彼らが今拠点としているのはハミルトン要塞です。当然王都にも第三騎士団用の建物がありますが、極秘で活動するなら要塞でしょう」
その答えを聞くと、俺は手を放した。
「邪魔したな」
「まさか要塞に乗り込むつもりか。あそこは人類最強の防御拠点。正気の沙汰じゃない」
「逆だろう。正気の沙汰じゃないのはお前らの行動のほうだ」
それを理解させねばならない。
俺はハミルトン要塞に転移した。




