82.邪神VSフィオナ
座学が終わり少しボーっとしていると、意外な人物が教室に現れた。
フィオナ・スペンサー。
ユーフィリアの先輩勇者である。
前回はちょっとやらかしてしまって、それ以来ろくに会話はしていない。
あちらもなんとなく避けているようだったので、こちらから話しかけることはなかった。
「ちょっと時間いいかしら」
またユーフィリア達に用があるんだろう。
そう考えて頬杖をついて油断していたら、俺に話しかけてきた。
「えっ」
驚いてフィオナを見る。
フィオナの目は真剣そのもの。
これはただ事ではなさそうだ。
俺が了承すると、フィオナは俺の手を取り転移しようとする。
この方角は……城か。
転移した先は城の野外訓練場。
周りには誰もいない。
「大事な話があるわ」
フィオナは険しい目つきでこちらを見る。
「なんですかね」
「あなたの正体を教えて頂戴」
すごいドストレートな要求である。
「尾行してるのにも飽きましたか」
「そんな頻繁に尾行してるわけじゃないし。あなたは今いろんな組織に注目されているの」
「まあ、仕方ないですね。少々目立ちすぎた」
「それはこの国のためよね」
それは正確には違う。ユーフィリアのためだ。
だがそれを言うのもなんか気恥ずかしいので黙っていることにした。
「だから、わが国は話次第であなたを手助けすることもできるわ」
「へえ」
俺は目を細める。
確かにこの国を助けたようなものではあるから、俺に好意的でもおかしくはない。
しかし――
「この国に他の国を止めることはできるんですか?」
「うっ」
俺の問いにフィオナは言葉につまる。
ブリトン王国に、3大国であるアイランド王国とスコットヤード王国を止める力はない。
そもそも、スパイ活動は素知らぬ顔をしてやるもの。
スパイ活動を止めろと言っても、やってませんと言われて終わりであろう。
「期待できそうにもないですね」
「そもそも、あなたたちはなぜ正体を知られることを嫌うの?」
それはルールみたいなもの。
あちらが調べる分には勝手にやってくれてもいいのだが、こちらは情報を簡単に与えるわけにはいかない。
正規のルート以外では。
「それすら答えないんじゃ、交渉の余地もなさそうね」
「どっちにしろ、俺たちは答えることができないんですよ」
「できない?」
フィオナは俺の言葉が気になったようだ。
「なるほど。あなたたちはルールか何かに縛られているのね」
「ご明察」
俺はフィオナの洞察力を褒める。
「では、なぜオーレッタが知っているの?」
フィオナはオーレッタと知り合いだったか。
では今回の行動はオーレッタから、何かしら察した上での行動ということだろうか。
「彼女が知ったのは俺たちの一部表層にすぎない。彼女に話を聞けたとしてもほぼ無価値だ」
最初はここまで目立つつもりはなかった。
だからオーレッタに情報を漏らさないように制約をかけたのだ。
しかし、その後色々と動きすぎた。
もはやオーレッタがもっている情報の重要度は、それほど高くない。
それよりも俺が気になったことが一つ。
「彼女は無事なのか」
「どういうこと?」
「彼女は俺らに関する情報を他者に話したら死ぬ」
「何ですって……」
フィオナは俺の言葉を聞いて怒りの表情となった。
「もしかして、魔法か何かで縛っているの?」
彼女は邪属性魔法の存在を知らない。
しかし簡単に推測できることではある。
「許せない……。話し合おうと思ったのが間違いのようね」
フィオナは剣を構える。
神剣クラウ・ソラス。
俺も身構える。
邪気なしではややめんどくさい相手である。
俺の生命力を考えれば何度切り付けられようが問題はないのだが。
「余裕そうね。だがあなたの弱点は分かってるのよ!」
いきなり俺に切りかかってくるが、万能結界が防ぐ。
コンディションがよく、問題なくはじくことができた。
「ふっ。弱点をそのまま放置しておくと思われたのなら心外だな」
以前の俺は女性と相対するだけで大混乱し、戦闘能力がガタ落ちとなっていた。
だが俺は厳しい修行を経て成長しているのだ。
以前と同じだと思わないことだ。
「ちぃ。ユフィたちも余計なことをしてくれるわね」
フィオナは舌打ちする。
「仕方ない。切り札を出すしかないわ」
ふうっと息を吐くと、そのまま俺の近くに歩いてくる。
剣が届く距離まで来ても、攻撃しようとする気配がない。
何を考えている……?
俺は訝しみつつも相手の出方を待つ。
そしてフィオナの左手がするすると動く。
自分のスカートを掴み、それをたくし上げた。
「ちょ、何やってんの!」
フィオナのすらっとした美しい太ももがあらわになる。
「あれっ。私の太ももに耐えるですって?」
フィオナがショックを受けている。
どうやら俺が混乱しなかったことが気に入らないらしい。
「そ、その程度の誘惑が俺に通じるとは思うなよ」
「声が震えてるわよ」
フィオナは覚悟を決めてさらにスカートをあげる。
その奥にあった、絶対に見えてはいけないものが見える。
フリルがついた純白のパンツであった。
「mmみわぁttぐびゃー(訳:なにやっとんじゃー)」
あかん。
パンツには勝てなかったよ……。
「すきありぃ」
フィオナがクラウソラスを振り下ろした。
「ぎゃあぁぁぁ」
俺の体が切り裂かれ、鮮血が舞う。
「私の勝ちね」
まあこんな傷はすぐ再生しますけどね。
人間だとクラウ・ソラスで切られたら即死してもおかしくはない。
十分なダメージを与えたという手ごたえを感じ、勝利を確信したのだろうか。
結界が消え、動きも鈍った状態なら負ける要素がないと考えているのかもしれない。
「skゃとどgjあげfくぁ、まrmヴぃすむむtおmgrs(訳:スカートたくし上げるとか破廉恥すぎると思います)」
「何言ってるかわからないけど、何が言いたいかは分かっているわ」
フィオナは勝ち誇った顔で再度スカートをたくし上げる。
「これはね。見せパンよ」
見せパン。
見せてもいいパンツ。
じゃあそれ以外は見せて悪いパンツなんですか? という疑問がわくが、それはおいておこう。
パンツの上にはくパンツのようなもの。
デザインも色々あり、パンツと区別がつかないものも多い。
じゃあもうそれパンツなんじゃないの? という意見もある。
パンツァーであれば見せパンでも大抵喜ぶであろう。
「ふふふ……。もはや動くことすらできないようね」
フィオナは右手の剣を俺の顔の前に突き出した。
「さて、どうしたものかしら」
頭に血が昇って決闘となったが、どうするつもりかは考えていなかったようだ。
「とりあえずオーレッタにかけた魔法? は解いてもらおうかしら。あとは我々に害を与えないという確約があれば、監視の上だけど今まで通りの生活を送らせてあげてもいいわよ」
フィオナは勝利を確信し、考え事をして油断している。
だがそれは間違いだ。
俺はニヤリと笑みを浮かべ、電光石火でクラウ・ソラスを叩き落とした。
「なにっ? 動けなかったはずじゃ」
フィオナが追撃を恐れて一歩下がる。
「お前は一つ重大なミスを犯した」
「なんですって」
「見せパンだと言ってはいけなかった。本物であれば俺はその力の前に屈したであろう」
実際最初は混乱し、結界が発動しなくなった。
さらに動きもすごい鈍ったのだから。
「だが見てもいいと言っているものを見て、男が喜ぶとでも思っているのか!」
それは絶対に言ってはいけない言葉である。
隠れているものを見るから興奮するのだ。
堂々と見ていいものだと言われたら、興味を失うであろう。
「し、しまった」
「痴女扱いされることが許せなかったんだろうが、これで形勢逆転だな」
俺は地面に落ちていたクラウ・ソラスを拾う。
この武器がなければ彼女の攻撃力は激減。
あとは魔法くらいだが、こんなところで使うとまた施設ごと破壊してしまう。
これで勝負ありだ。
さて、俺に敵対した報いはどう受けさせるかな。
「し、失礼します」
いきなり入り口の扉が開けられ、一人の男がこちらに向ってくる。
「勝手に入ってくるなといったはずよ」
フィオナが手厳しく告げる。
戦いになっていることに驚きつつも、その男は緊急の報告をする。
「申し訳ありません、緊急事態です。オーレッタ様が一瞬の隙を突かれ、連れ去られてしまいました」




