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78.妖精さん

 人々はようやくダンジョンに起きている異変に気付いた。

 それは常識的に考えればおかしな現象である。 

 

 なぜ魔物が次々とダンジョンにいるようになったのか?

 なぜいきなりこんなことが起こるようになったのか?


 疑問は尽きない。

 それゆえ、様々な議論が巻き起こった。


 有力な説として支持されたのは、魔族と同じシステムであるという説。


 魔族がなぜ発生するのかはわかっていない。

 しかし、忽然と何もないところから現れるのは間違いない。

 誰かが召喚したわけでもないのに、突然湧いて出てくる。

 それと同じだと。


 これは実は何も解明していないのと同じである。

 しかし、現実に起こっている現象と同じだというのは説得力があった。


 議論する者がいる一方、深く考えもせず受け入れる者もいる。

 理由などわからなくても実利があればそれで十分なのだ。

 

 ダンジョンには宝箱が定期的に出現する。

 これもまあおかしな話ではあるが、議論は割愛するとしよう。

 もちろんはずれもあるが、財宝が入っていたり、マジックアイテムが入っていたりする。


 財宝もなかなかの実入りではあるが、マジックアイテムのほうは別格であった。

 人類には作れない高性能であったからだ。


 手に入れた冒険者もまずは自分用にするので、なかなか売りに出されることはない。

 日が経てば値下がりすることもあろうが、現状は高値で取引されていた。


 一攫千金を夢見て、皆がダンジョンに殺到した。

 世はまさに大ダンジョン時代である。






 そうなると思っていた時代が僕にもありました。

 実際はそこまで流行ってないです。


「まあそこそこ流行ってるほうじゃないですか」


 ジェコはかけらも興味を持っていない口ぶりである。

 暗黒神殿の一室で雑談をしていた。


「そもそも大盛況でも困りますしね。多人数でダンジョンに張り付かれたらどうしようもありません」


 爺やは新聞記事を読んでいる。


 いくら一攫千金とはいえ、命懸けの冒険となる。

 そんな命知らずが多数いるはずもなかった。


 ゲームのように何度失敗しても大丈夫というわけではないからな。

 実際に命を落とすわけだし。


「とりあえずダンジョンに目を向けさせることには成功。人類の装備も強化されます」

「それでよしとするべきでしょうね」


 アドリゴリが同意する。


「ところで問題が一つあります」


 爺やは話を変えた。


「ダンジョンに人がよく来るようになったせいで、裏方の部下たちが活動しにくくなったのです」

「万が一見られたら大問題ですな」

「ですので、ちょっと策を(ろう)します」


 爺やは俺に1枚の紙を手渡した。




 なぜダンジョンに宝箱が出現するようになったのか。

 私はそれを突き止めることに成功しました。

 

 それは妖精さんのおかげです。

 妖精さんは人が見ていない裏方で一生懸命働いているのです。


 宝箱が開けられたら補充してくれます。

 モンスターがいなくなったらがんばって捕まえて連れてきてくれます。

 ダンジョン最奥のボスは妖精さんが一生懸命召喚したものです。


 妖精さんは人に見られることを嫌がっています。

 ですので、一日中張り付くのは止めて下さい。

 その場合何も補充されません。


 また、適正レベルをはるかに超えた方がダンジョンを荒らすと妖精さんが怒ります。

 何らかの被害を覚悟しておいてください。


 ジャスティン伯爵




 俺はその新聞記事のゲラを死んだような目をして見つめていた。


「この論文が全世界の新聞に掲載されます」

「だから誰なんだよジャスティン伯爵」


 俺のツッコミに爺やが微笑する。


「そんな人物はこの世に存在しません。最初は信じられないかもしれませんが、そのうちわかります。この通りであると」


 そうなれば、彼らはルールに従うしかない。


「しかし、ここまでやってしまったのですから、誰かしらその役割を担ってもらう必要があるかもしれませんね」

「いや、いないならいないで、別にそれでいいんだが……」

「私はジェコはもちろんのこと、最近外で活動した経験のあるアドリゴリやガレスも除外」

「それ以外の誰かにやってもらうとしましょう」


 俺のつぶやきには応えず、アドリゴリらは和気藹々(あいあい)と話を続けた。


「ところでガレスはどうした?」

「ローダンの町にいるはずです」

「ふむ」


 まあ暇なときに外出するのは自由だ。

 邪神族は大抵暇を持て余しているという説もあるがな。


「何でも、知り合いに会うと言ってました」

「そんな仲良くなった女性がいるのか」

「たぶん女性ではないと思われますが……」


 アドリゴリは困惑している。


「なん……だと?」


 俺は驚愕で目を見開く。

 確かに、邪神族がわざわざ女性に会いに行くというのも不自然である。

 まさかあいつ……。


「男は禁止したはずだぞ!」

「その件なのですが……。禁止といわれても何がだめなのかイマイチ伝わってません」


 なるほど。こいつらにはそういった知識がないからな。

 禁止なのはアレに決まってるだろ。

 言わせんな恥ずかしい。


「会うこと自体が禁止といわれても無理ですな。ローダンで活動していればどうやっても男性との接触はあります」


 爺やがまじめ腐って述べる。


「口に出すのも(はばか)られるようなあの行為に決まってるだろ」

「はて……。我ら邪神族が口に出すことすら(はばか)れるような行為が、この世にありましたか」

「あるんだよ。そのうち説明する」


 俺はグッタリとして説明を放棄したのであった。

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