77.ダンジョン運営④
「ところで」
俺は一段落したところで、話を変える。
「俺たちが手がけたダンジョンの件はどうなった。まだ人間の世界では広まっていないようだが」
俺の問いに、皆があからさまに動揺し始めた。
「また問題が起きたのか」
「問題というほどのことではございません。ケンジアン、イプスター、スウォンズ、レヴァプール、チェスロー。すべてのダンジョンに調査団が来ました」
何人かが目線で押し付けあった結果、やはりアドリゴリが一歩前に出て語る。
「そしてすべてで冒険者が全滅しました」
「はいぃ?」
我々はダンジョン運営をしているが、そのダンジョンの魔物は適当にさらってきたりしたもの。
それらをそのまま放っただけで、やってきた冒険者を殺すなという命令はしていない。
そもそも知能が低い魔獣ならそんな指示も出せないし。
「いやいや。冒険者共無能すぎない?」
「やってきたのは下っ端冒険者。奴らにダンジョンで生き抜く力などなかったのです」
「初心者向けダンジョンもあったろ」
「チェスローがそれにあたります。途中で引き返せばいいのに、ズンズンと奥に進んで全滅しました」
アホかよ。
作戦はいのちだいじににしとけ。
「全滅してしまったので、生きて帰ってダンジョンのことを広めてもらうということはできていません」
死人にくちなしである。
「帰ってこないため行方不明者として処理。改めてダンジョン調査隊が出発。オーレッタ女史にも色々と動いてもらいました」
「なるほど」
依頼を受けた冒険者がどうなったかなど他の者にはわかるわけもない。
しばらく帰ってこなければ何かあって死んだんだろうなと判断する。
再調査が行われるのはその後。
それで時間がかかっているということだ。
もちろんジャスティン伯爵も調査の催促にいったらしい。
誰なんだよジャスティン伯爵。
「その第二調査隊が先日ダンジョンを訪れ、見事に逃げ出しております。各地の冒険者ギルドにはすでに報告されているはず。近日中にも本格的な討伐隊が編成されるでしょう」
一応進展はしているらしい。
その報告を受け、俺は満足して休むのであった。
その情報は数日後には新聞に載り、一部の人を騒がせることとなった。
いくつかのダンジョンに不自然な魔物が住み着いたと。
それだけであれば冒険者さん討伐がんばって、で終わる話。
しかしブリトン王国だけはそれではすまなかった。
ケンジアンダンジョンは一度大騒動のきっかけになったこともある。
それゆえ大急ぎで討伐隊が組まれることになった。
隊長は勇者フィオナ・スペンサー。
「で、その姐さんにアタシたちも誘われているわけ」
座学終了後、実験室でジェミーがやれやれと肩を叩く。
「仕方ないですね。国民も前回の件で不安になってますし。大急ぎでやらないといけない案件です」
ティライザが補足説明をする。
「もし暇なら来てほしいんだけど」
ユーフィリアが俺を誘ってくる。
しかし、そこは俺たち邪神族が管理しているダンジョン。
当然そこについていく気などないわけで。
「ああ、何か用事があるならいいのよ。今回は他の人たちも来るし、人手不足ってわけでもないから」
さて、どうやって断るかと考えていると、ユーフィリアのほうからあっさり引き下がった。
一応声を掛けただけ、ということだろう。
仲間なのだから、何も言わず置いていくのは失礼になる。
「じゃあ、あなたは何する気なんです?」
ティライザが興味津々に聞いてくる。
そういわれても予定なんてないんだがな。
まあそれを言うと討伐隊について来てと言われることになるので、当然黙ってるけど。
「そういえば二人で出かける約束があったな」
俺がポツリとつぶやくと、ティライザがびっくりする。
「えっ。だ、誰となんです?」
「ああいや、お前との約束があったなってことだけど」
「あ、その話ですか」
俺の言葉にあからさまに安堵する。
そしてユーフィリアたちから離れて俺のそばまでやってくる。
「じゃあ皆さんがんばってきてください」
ティライザが笑顔で手を振ると、3人は額に青筋を立てて怒ったような表情になる。
ジェミーがそのままティライザを羽交い絞めにして俺から引き離す。
「ちょ、ちょっとー。私は用事ができたんです! 放してください」
「その用事はまた今度にしてくれ。いや、キャンセルでもいいぞ」
「キャンセルなんて絶対にしません」
「ドンだけ楽しみにしてんだよ!」
「はぁ~? ち、違いますしっ」
ティライザはばたばたと暴れているが、戦士の馬鹿力に賢者がかなうはずもなし。
「大体私がダンジョンについていくのを断るのは、まれによくあることでしょうに」
「そうだな。でも今回は許せなかったんだ。絶対にな」
ジェミーが断固たる意思を持って答えた。
「くぬっ。くぬっ」
「ティルの力では振りほどけないでしょう。諦めて調査に行くわよ」
ユーフィリアが冷たく言い放つと、ティライザを転移で連れて行くのであった。
「仲いいな~」
俺はそう感想を述べて無人の実験室をあとにした。
**** ****
「もー。放してください」
ケンジアンダンジョンの前に転移すると、ティライザが再度暴れた。
もういいだろうとジェミーが手を放す。
「はぁはぁ。ひどくないですか?」
「あの状況で私はデートにいきまーす、とか神でも許しませんよ」
アイリスが頬を膨らませて怒る。
「神はそんな狭量だったんですね……」
ティライザが小声でツッコむ。
「何やっているのあなたたち」
フィオナが怪訝そうな顔でユーフィリアたちに近寄る。
「ああ。いやこっちの話です」
ユーフィリアが慌てて答える。
「ふーん……。男ね!」
フィオナはビシィ! とユーフィリアたちを指差す。
4人が慌てたり赤くなったりしたことで、フィオナは自分の感が当たったことを悟る。
「わ、わかるんですか?」
「勇者として、冒険者として、そして女としてもセンパイだからね」
フィオナが楽しそうに笑った。
「そりゃ一緒に冒険をして死線を潜り抜ければ、そういう関係になってもおかしくはないよね」
「それじゃ姐さんのとこもやっぱり?」
ジェミーがフィオナを見つめる。
「私のパーティーは男3人女1人だったのよ」
「そういえばそうでしたね」
ユーフィリアが相槌を打った。
「4年前の魔王ラメレプトとの戦争。その戦いの直前、『この戦争が終わったら……』みたいな話はされたわ」
「おおおおお」
「でもそれって……」
ティライザが恐る恐るつっこもうとした。
「ええ、言った二人は戦争で亡くなった」
「ですよね」
絶対に言ってはいけないセリフナンバー1であった。
死亡フラグというものだ。
「残った1人も終戦後告白してきてね。ふったので気まずくなってパーティーは完全に解散したわ」
「やっぱり気まずくなるんですか」
「そりゃあねえ」
フィオナの言葉に、4人はお互い顔を見合わせた。
そしてお互い頷きあった。
そんな話をしていると、ブリトン王国騎士団長ゴードルフがやってくる。
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが。突入の用意ができました」
20人を越える人員でキャンプを張り、突入メンバーは精鋭部隊。
突入部隊が戻らなければ、即座に国に報告し、軍隊でもって制圧することになる。
前回の事件のことがあったせいで、かなりの大事になってしまった。
しかし、そのダンジョンに大軍が潜んでいるとか、そういうことはない。
5つのダンジョンの中では最高難易度ではある。
しかし勇者たちがいれば、問題なくクリアできる程度であった。
そのダンジョンのモンスターはその日のうちに掃討された。
しかし、数日後にはまた同じ敵と宝箱が発生し、人々を困惑させるのであった。




