75.追及
ユーフィリアは翌日教室でボーっとしていた。
時折思い出し笑いをしたり、やや赤くなったりしている。
「うわぁ……」
ティライザたちはそれを見て若干引いていた。
「何があったら、ああなるんでしょうね」
ティライザはユーフィリアを不思議そうに見つめるが、ユーフィリアは上の空で反応がない。
「普段一緒にいるんだから大差ないという説もありましたが、二人っきりというのはすごいんでしょうか」
「えっ? 二人っきりですごいことをした?」
「すけべっ。何を想像しているんですか」
アイリスがジェミーを叱る。
「やはり問い詰めるしかないですね。ユフィ?」
ただ話しかけただけではユーフィリアは反応しない。
ティライザは肩をゆさゆさと揺する。
さすがにそこまですると、ユーフィリアは我に返る。
「なに?」
「昨日何があったんですか?」
「な、なにって。わかってるくせに。二人でダブラム行ってきただけよ」
「ほうほう。それでなにをしたんです?」
ティライザが根掘り葉掘り聞こうとする。
「べ、別にー。食事してー。ショッピングしてー。最後に海を見ただけよ」
「でも彼の修行ですからね。何かえっちぃことをしたんでしょう?」
アシュタールの特訓に付き合うという名目で、ダブラムに出かけたのである。
それで何もしないというのは逆におかしい。
問われたユーフィリアは少し顔を赤らめ、顔をそらした。
「そ、そんなことはしてないわっ。はい、あーんってしただけよ」
「いきなり高度なプレイをしてますね……」
アイリスが顔を引きつらせる。
「それだけ? まさかそれだけじゃないですよね」
ティライザに強い口調で問われ、ユーフィリアは言葉につまる。
頬とはいえキスしましたとは言いづらい。
「それだけに決まってるでしょ!」
ユーフィリアが断言する。
しかし3人は信じない。
「それだけだとボーっとするのがおかしいですもんね」
「間違いなく何かありましたね」
「あったな」
「うっ」
3人に完全に嘘を見抜かれ、風でスカートがめくれてしまったことをつい話してしまった。
「ほー。風を利用する見事な計画ですね」
そんな感想を述べつつも、ティライザはむしろ安堵していた。
この感じだと本当に大したことはなかったんだろう。
そう感じられたからである。
「何の計画よっ」
「でも今更パンツ見られた程度、そんな隠そうとすることですかね……」
しかし、そこでティライザがはっとする。
恐る恐るといった体で尋ねる。
「まさか――勝負パンツはいていった!?」
「ギクッ」
ユーフィリアの顔が引くついた。
「うえええええ」
ジェミーが驚いて後ずさりする。
「初デートでそんなのはいて行くなんてふしだらですっ」
アイリスにすら苦言を呈された。
「違うのよっ。アデラがはいていけって言うから……」
「それは協定違反ではないでしょうか」
ティライザの言う協定とは、デート直前に結ばれたもの。
順番制となったので、一人が抜け駆けすることは禁止されたのである。
そうは言っても、そもそもデートがアシュタールの特訓のためにするもの。
そうである以上、多少はアシュタールを惑わせることをしなければならない。
その微妙なラインでの駆け引きが行われていたのであった。
「それに、そのパンツの出番は常識的に考えてないでしょう。ガチの誘惑は禁止ですよ」
「でもでも。だってあっちから迫られたとき、そういう用意がないとまずいでしょう?」
「断れお姫様」
ジェミーが呆れてツッコむ。
「そんなことができる人物なら、そもそも修行いらない説」
アイリスが確信をついた。
その後、3人から小言をクドクドと言われるのであった。
その話が終わって落ち着くと、ユーフィリアが次の話題をふる。
「で、次は誰がいく?」
ユーフィリアは他人事のようである。
本人はすでに1回目を終えて満足しているのだ。
「じゃあ私が」
ジェミーとアイリスが逡巡しているうちに、ティライザさっと手を上げる。
「へー。ティル乗り気じゃん。男に興味なんてないんじゃなかったの?」
ジェミーはニシシシと口に手をあてて笑う。
「きょ、興味なんてないですよ。特訓に付き合うだけですしっ」
ティライザはタジタジになりながらもそう答えた。
そのとき、4人の話題の中心だった人物が教室にやって来たのであった。
**** ****
俺は教室に入り、席に座る。
一目散にティライザが俺のところにやってくる。
「今日の予定なんですが」
「ん?」
「昨日ユーフィリアと出かけましたよね。今日は私ということで、よろしくお願いします」
ティライザが丁寧にお辞儀をする。
「あー。ちょっとまってくれ」
「えっ?」
俺が制止すると、ティライザは不安そうな顔をする。
「さすがに連日だとちょっとな」
「そ、そうですよね。私なんかじゃだめですよね。すいませんでした」
ティライザは断られたと思ったのか、いきなり動揺した。
「え、いやそういうことじゃなくて」
「やっぱりおっぱいとお尻は大きくないとだめなんですよね。知ってました」
俺はティライザの頭にチョップする。
「あいたっ」
「話を聞けや」
「なんですかおっぱい星人さん」
「誰がおっぱい星人だっ」
どうやらティライザはその辺りにコンプレックスがあるみたいだな。
「毎日そんな試練を受けるんじゃちょっときついからな。後日にしてくれ」
「えっ? そんなに大変ですか」
「まあ、体がもたないかな」
むしろ精神がもたない。
精神的な疲労はかなりのものだった。
苦手なものを克服するというのは大変なのだ。
毎日とかは無理。
「体がもたない……そこまで激しいプレイをしたんですかっ?」
「何のプレイだっ」
俺は全力でツッコんだ。
「まさか一晩中?」
「夕方には解散してるぞ」
目を細めて問うジェミーに答える。
「ユフィはなぜ何も言わないんでしょうね」
なぜか頬に手をあてているユーフィリア。
アイリスがそれを見てつぶやいた。
「はっ。いや、ほんとに何もなかったわよ」
皆の不審の目を受けて、慌てて手をパタパタと振る。
皆に疑われながらも、チャイムがなったことでそれ以上の追及を免れたのであった。




