66.とある勇者のクリスタルタワー攻略
ユーフィリア、ティライザ、ジェミー、アイリスの4人はクリスタルタワーに来ていた。
修行のためである。
「私とユフィは5層までクリアしたことがあるので、6層からはじめることもできます」
ティライザがクリスタルタワー未経験のジェミー、アイリスに説明をする。
「私達の目的はレベル上げだからね。初めての人もいるし、1層からでいいでしょう」
ユーフィリアの考えにティライザも異論はない。
「古代ウルグ帝国の防御機構。面白そうじゃん」
ジェミーがパンッと手のひらに拳をあわせる。
「相手は殺す気でかかってくるのですから、そんな気分にはなれませんね……」
アイリスは落ち着かないという風に、周りをキョロキョロと見る。
「アイリスの言うとおりです。油断してると死にますよ」
ティライザはコツコツと杖で地面を叩く。
多少なりとも緊張しているときの癖である。
「では開けますよ」
カンタブリッジ学園の理事長であるセリーナが、扉の鍵を開ける。
「おおお~」
ジェミーが我先にと中に入る。
「1層の敵は奥にしかいませんが、あんまり先行しないでくださいよ」
ティライザが呆れながら忠告する。
「わかってるよ――ぎょへえああああっ!」
ジェミーは通路の横にあった巨大な像のチョップによって、ぺしゃんこになった。
「あああああああ。はやく回復しないと」
ユーフィリアらは慌てて駆け寄る。
「ヒール。ヒール。ヒール」
アイリスが必死に回復魔法を唱え、ジェミーは意識を取り戻した。
「だから言ったのに……」
意識を回復したジェミーにティライザは苦言を呈する。
「罠があるなら最初に言っておいてくれよ!」
ジェミーの抗議にユーフィリアは軽く謝る。
「ごめんね。罠のことは忘れてて直前に思い出したわ」
「まさかこんな広々とした通路に、罠があるとは思わなかった」
ジェミーが頬を叩いて気合を入れなおす。
「まあこういった罠はここだけです。これに耐えれないようなら来る資格はないという、挨拶代わりでしょう」
ティライザは淡々と述べる。
そんな話をしながら先へと進む。
そして1層のボスの間にたどり着いた。
数十体の機甲種である。
「じゃああれはぶっ飛ばしていいんだな」
この敵には罠やギミックはない。
それを聞いて、ジェミーは自分の得物であるラグナロクを構え、突撃していった。
機甲種は全属性の魔弾を次々と撃つ。
「うおりゃああああああ」
それを見たジェミーは飛んで回避する。
そのままラグナロクを振り下ろすと、機甲種はあっさりと破壊されていく。
やや遅れて突入したユーフィリアが驚く。
「えっ? あんなあっさり壊れるっけ?」
「リディルでもああはいきませんよね」
ティライザも小首をかしげる。
ラグナロクには無生物特効がついている。
機甲種も当然無生物であり、ダメージが倍増するのだ。
「ヘヴィスウィング!」
ジェミーが斧を振り回すと、機甲種は次々と破壊されていく。
ジェミーの活躍で1層をあっさりとクリアした。
「その斧すごくないですか?」
アイリスがジェミーを治療しながら問う。
「確かに。オリハルコンってすごいんだな」
ジェミーはラグナロクを見ながら答えた。
「それだけではありませんな」
エウリアスが口を挟む。
エウリアスとジェコも監督役としてついてきていたのだ。
ユーフィリアらにしてみれば、なぜこの二人なのかという疑問はあるだろう。
しかし、それは問うほどのことでもなかった。
「武器防具は魔法によって強化が可能。その付与魔術には特殊効果がつくこともあるのです」
「伝説の武器は魔族特効が多いそうですね。このリディルもそうです」
ユーフィリアは腰に携えているリディルを掴む。
「その斧には機甲種のようなものに対して、威力が増す特殊効果があるのでしょう。無生物特効とでもいうべきものが」
エウリアスはアシュタールがその付与魔術をする場面を見ている。
当然それを言うわけにはいかないので、推測のように語った。
「そ、そんな効果があるんだ」
ユーフィリアがまじまじとラグナロクを見る。
「その効果だと、暗黒神殿のゴーレムにも効くんじゃないです?」
ティライザの質問に、エウリアスは頷いた。
「そ、そこまで考えて用意してくれたのか……」
ジェミーが感激して斧を眺めている。
「え、もしかして惚れちゃいました?」
ティライザが茶化す。
「ばばばば、バカなこと言ってんじゃねえよ。大体こんなガサツな大女、相手にされるわけないだろ」
「それはどうでしょうね。あの人はなんかチョロそうなんでいけるかもしれませんよ?」
「はいはい。馬鹿なこと言ってないで。先に行くわよ」
ユーフィリアがそんな会話を打ち切ろうとする。
ユーフィリアの声がいつもより強めだったことにティライザは気付いた。
しかし何も言わずにエレベーターへと歩いていった。
その会話を聞いていたセリーナがニコニコとしている。
彼女らと距離が離れたあと、こっそりと話す。
「おやおや、アシュタール様はずいぶんおモテになるようですね」
「残念ながらそれを全く生かせてないようですが……」
エウリアスは苦笑している。
アシュタールは女性が苦手。
さらに邪神族は性欲に乏しいという問題もある。
いまやアシュタールは有名人であり、女性の人気も高い。
そういった問題がなければ、選り取り見取りの状況なのだが。
「体質改善したらハーレムでも作るのでしょうか」
セリーナがふと疑問を口にする。
「世界中の女子はすべてアシュタール様のものになるべきかと」
それに対して、ジェコがさも当然という風に述べる。
「それはさすがに物理的に無理でしょうね」
エウリアスはまじめ腐って否定する。
「ええ、それに私はエウリアス様のものですから」
セリーナはエウリアスの腕をつかんで体を寄せる。
「むう」
「アシュタール様公認の関係ですわよ」
「それならば問題ないですね」
セリーナにそういわれれば、ジェコは認めるほかなかった。
1層ではノリノリだったジェミーは、2層では困惑していた。
「ちょ、なにこれ」
「説明したでしょう。パネルが光ったあとランダムで床から攻撃を受けると。よっと」
ティライザは器用に床から移動して、魔法を唱える。
「ライトニング」
雷が直撃すると、機甲種は床に墜落した。
魔法を唱えている最中に床が光ったら、魔法をキャンセルして移動する。
「ゲホッゲホッ。あちちちっ。あばばばばばば」
ジェミーが見事に床のダメージを食らい続けている。
「キュアー。ヒール。ヒール。キュアー」
アイリスも光る床を避けながら、ひたすらジェミーの回復をしていた。
ユーフィリアは黙々と敵を倒している。
「ちょっと。戦士なら守ってくれないですかね。みんなこっちに来るんですが」
「あばばばばばばば。よしあたしの後ろに来れば守るぞ」
「それ電撃をくらうんですが」
ティライザはため息をつくと、敵を巧みに避けつつそのフィールドを走り回った。
ユーフィリアがその間に始末していく。
監督の3人はその様子を遠くから見守っていた。
「なるほど。ここの床はこうやって攻略するのですね」
ジェコが感心していた。
「いや、これはだめな例でしょうね」
セリーナが呆れていた。
その呆れは、目の前で醜態を晒しているパーティーに対するものか。
それとも人外すぎて感性がずれているジェコに対するものか。
「ええ。盾が機能していないので後衛、アタッカーが攻撃を受けている。まあ彼女らはレベル的に余裕があるので何とかなってますけど」
エウリアスが同意する。
「ほう。で、ほっといていいのですかな?」
ジェコが刀に手をかける。
「助けても何にもなりませんし、死にはしないでしょうから放置でいいですよ」
彼女らが2層をクリアしたのは、しばらく経ってからのことであった。




