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62.クリスタルタワー

 古代帝国。

 数千年前に存在したといわれる国。


 神話時代――いわゆる神が実在したといわれる時代。

 

 神は複数おり、神同士の争いによって皆滅びたとされている。

 神に従った古代帝国の人間もほとんどが滅びた。


 数少ない生き残りが、長い歳月をかけて少しずつ再興した。


 ただし、その過程で古代帝国の技術はすべてが失われた。

 歴史も、文化も。

 当時何が起きたのか。

 どういう人物がいたのか。


 そういった資料はほとんど残っていない。


 俺は1000年生きているが、それよりはるか昔の話だ。

 当然俺も詳しいことはわからない。


 爺やなら多少なりとも知っているのかもしれないが、たいしたことは聞けずにいた。


 それらを知らなくても使うことはできる。

 古代帝国の遺産といわれているものは色々ある。


 この世界の地上に建造物として残っているものはない。

 すべてが吹き飛んだのだ。

 それだけ戦争が激しかったという証拠である。


 残っているのは地下部分。

 それがダンジョンと称されるものとなっている。


 もうひとつが亜空間にある建造物である。

 俺たちはとある亜空間にきていた。


 ここにあるは天空まで(そび)え立つ巨大な塔。

 クリスタルタワーである。


「そういえばここがあったな」


 俺は巨大な塔を見上げる。

 建物の材質は相変わらず不明。

 古代文明の技術は今を生きる人々はもちろんのこと、邪神族にも解明はできない。


 建物全体が淡く光っており、何らかの力を及ぼしていることは明白であった。


「古代帝国は別にここを修行のために作ったわけではないでしょう。ただ、ここは奥に進もうとするものを阻む防御機能が働いています。しかも強い。修行にはもってこいというわけです」


 爺やが解説する。


「魔王に挑むものはここで修行するのが慣わし。私も50年前に10層までクリアしております」


 セリーナが恭しく語る。

 

 弱い魔王なら5層程度。

 並~強めで10層クリアが目安である。


 400年前の7英雄、セブンスターズは15層までクリアしたとか。


「何層まであるんだ?」

「わかりません。現在の記録が15層ということですが、15層がどのくらいの位置かも謎です」


 爺やがお手上げといったポーズをとる。

 この巨大な塔は1階も大きい。

 エレベーターのような装置もあり、どのくらい上ったのかわからなくなるそうだ。


 ユーフィリアたちは10層クリアを目指すだろう。

 そこまで変化がないかをチェックするのが目的である。


 俺は後ろを振り返る。

 爺や、ジェコ、セリーナ。

 ここまではまあいい。


「なぜお前がついてきている」


 俺はアドリゴリに問う。


「クリスタルタワーに向うと聞きましたので。私も15層までは知ってますれば、案内役をしようかと」


 俺自身は1000年外に出ることはできなかった。

 しかし部下たちは別。

 たまに外に出ることもあった。


 そういうときにこの塔に来る機会があったのだ。


「案内などいらん。どうせなら楽しみながらやるさ」

「そうそう。大体400年前に来たきりだ。中のことなんてさっぱり覚えていないぞ」

「それはお前がバカだからだ」


 ジェコの言葉にアドリゴリがツッコム。

 二人は無言でにらみ合っているが、俺は当然スルー。


「400年前……15層?」


 セリーナが眉をひそめて疑問を口にする。


「そしてジェコ……。いや、これ自体はありふれた名前ですけど」

「現代の人間でジェコと名前をつけるものは少なくないらしいですな」


 爺やが頷く。


「失礼ですがそちらの方のお名前は」

「アドリゴリと申します」


 アドリゴリは生真面目に一礼する。


「え……嘘!?」


 セリーナが唖然としている。


「まさかとは思いますが、400年前にここを7人で訪れたことがありますか?」

「ふむ。さすがにこれだけ情報を出してしまうと気付かれるようですね」


 爺やは苦笑する。


「や、やはりセブンスターズ!」


 500年前に起きた第四魔災。

 人類は魔族の支配を受けた。


 その状態が続くこと100年。

 魔族の支配に抗い、立ち上がった者たちがいた。

 彼らはのちに7英雄――セブンスターズと称された。


 最北の地で最初に立ち上がった北の勇者や竜族の姫が有名だ。

 その中に謎多き二人の人物がいる。


 光の戦士と称された二人。

 アドリゴリとジェコ。


 はい、こいつらです。

 当時も同じことを言った。

 だがもう一回言いたい。

 どうしてこうなった。


「そ、それとは知らず失礼いたしました」


 セリーナは慌てて頭を下げた。


「今はただの人として活動しているのです。お気になさらず」


 爺やが涼しい顔で言う。


「私が50年前の第六魔災であなたに手を差し伸べたように、アドリゴリとジェコも第四魔災で人に手を貸した。それだけのことです」


 邪神としては人類の滅亡は望まない。

 第四魔災の魔王は人を滅ぼそうとはしていなかった。


 なので最初はただ見守っていた。

 しかし100年近くも変化のない世界はつまらない。


 少し人間に手を貸そうということになった。

 伝説の神器と呼ばれるものを人間に与えた。


 有望な者たちを集め、鍛えた。

 そういった工作を担ったのがアドリゴリとジェコである。


 事が終わったら正体を隠したまま、謎の人物として去ればよい。

 しかしあいつらは何を考えていたのか、色々と目立ってしまった。

 結果、7英雄の仲間入りをしてしまったのだ。


「そ、それはジェコの馬鹿がですね……」


 アドリゴリが懸命に言い訳をしようとする。


「はぁ!? 貴様だってノリノリで魔族の集団を一人で壊滅させただろうが!」

「さすがに目の前で助けてくれと言われたら助けるしかなかろう!」

「400年ぶりの言い訳はもういい」


 俺が呆れてそう言うと、二人の口論はぴしゃりと止まる。


「400年も経てば、このように相当の情報を得た人にしか気付かれません。だからたいした問題ではありません」


 爺やは平然と答えた。 

 

 正体不明の人物とはいえ、何百年も生きるとは思われない。


 第四魔災以降、アドリゴリ、ジェコといった名前はよく付けられるようになった。

 子供に英雄の名前をつけることはよくある。

 だから今そう名乗っても誰も気付かない。


 セリーナも今やっと気付いたくらいである。

 時間がたてば忘れられるだろう。

 当時そう判断し、実際にその通りになったのだ。

 

 さすがに暴れすぎるんじゃねーぞと釘は刺した。

 最高幹部以上は絶対に倒すなと。


 ああ、あとすべてが終わってからオシオキしました。


「は、はぁ……」


 セリーナは呆気に取られてそう答えるしかないようだ。


「気にせず進むとしましょう」


 爺やはそう言うと、巨大な鍵で全長数十メートルある巨大な扉を開けたのであった。

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