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61.強くなるには

 強くなるにはどうすればいいか。

 一般的な訓練。

 筋トレ、素振り、模擬戦といった手法でも徐々に強くはなれる。


 ただし、強くなればなるほど伸びにくくなる。

 才能限界とでもいうものがあって、それに近づくほど成長しにくくなるというのが通説であった。


 そうなったらどうすればいいか。

 答えは簡単。

 強い敵を倒せばいい。

 

 実戦は訓練よりもはるかに成長する。

 もっとも、あまりにも弱い敵ではだめだがな。

 そういう場合は経験値が入らない。


 ユーフィリア、ティライザはまがりなりにも魔王討伐者。

 ジェミー、アイリスもそれにそん色ない腕前。

 そんな彼女らが成長できる敵というのはなかなかいない。 


 この世界で強い敵といわれて、人間がまず思いつくのは魔族であろう。

 魔族は人類に仇なす災害。

 不倶戴天(ふぐたいてん)の宿敵である。


 魔王が発生する周期はランダム。

 倒されてから半年から数十年と幅が広い。


 現在は魔王が倒されてから約1年。

 絶対に発生しないわけではないが、これから短期間のうちに発生する可能性は低い。


 ゆえに、魔族でレベル上げをするというわけにもいかない。

 もちろん魔族の生き残りはいるだろう。

 しかしそれを探すのも骨が折れるのだ。


 そのほかに強い相手で思い浮かぶのは竜族であろう。

 しかし竜族は生き残りが少ない。

 

 さらにいえば人間とは友好関係にある。

 勝手に狩ろうとしたら国際問題に発展する。


「ふむ。かなり厳しい修行をしているようですな」


 爺やとジェコが俺に近づいてくる。

 俺は校舎の屋上から、修行をしている人々を見下ろしていた。

 ユーフィリアたちも見える。


「ああ。だが人間は彼女らくらいの強さまで来てしまうと、伸び悩むものだ。今のままでは到底間に合わない」

「強い敵が必要ですね。しかしそんな敵もなかなか見つからないものです」


 爺やの言葉に、俺は笑みを浮かべる。


「そうだなー。そういえば今、偶然いくつかのダンジョンに強い敵がいるみたいだけどなー」


 俺がわざとらしく言うと、ジェコが目を見開く。


「おお! あのダンジョンは彼女らのちょうどいい訓練の場になるのですね。さすがはアシュタール様」


 ジェコが賞賛の声を上げる。

 我々邪神族は今、5つのダンジョンを管理、運営している。


 その5つのダンジョンは難易度がそれぞれ違うようにしている。

 魔物、ボスの強さも当然違う。


 そのうちの一番難易度が高いダンジョン。

 ケンジアンダンジョンは、今のユーフィリアたちでもてこずるくらいの高難易度にしておいたのだ。


「なりませんよ」


 しかし、爺やが即座に否定する。


「えっ?」


 俺は首をかしげる。


「今はちょうどいいかもしれませんが、もうちょっと強くなったらやはりイマイチな狩場になります。それを彼女らに合わせるには、彼女らの成長に合わせて放つ魔物をだんだん強くしていく必要がありますな」

「それも可能なのでは?」


 ジェコの問いに爺やは首を左右に振る。


「可能か不可能かといわれれば可能です。しかしあのダンジョンは彼女たちの修行のために存在するわけではありません」


 爺やは手厳しい。


「彼女達に合わせて魔物のレベルが変わる。そんな都合のいいダンジョンはおかしいですからね。まさか、そんなことをしようとしていたなんて言いませんよね?」


 爺やがズイッ俺に顔を近づける。


「ま、まままままさかそんなわけないだろ」


 俺が慌てて否定すると、爺やが満足げな表情をする。


「色々と手助けをしていたようですが、我々邪神族にとって重要なのはダンジョンに人がくるようになること。最終的には暗黒神殿に来てもらうことです」


 爺やはユーフィリアたちを見下ろす。


「この国が破綻するかどうかは彼女ら次第。あまり甘やかすのもどうかと思います」

「甘やかしているわけではないが」


 俺はムッとなって反論する。


「それならよいのですがね。過去人類に手を貸したことは幾度かありますが、あくまで滅びそうになったときのみです。最近はやりすぎですな」

「しかし、このままでは到底間に合わないぞ」


 俺が懸念を述べると、爺やは涼しい顔で頷く。


「彼女たちだってそれはわかっています。ですが彼女たちの表情を見てください。そんな絶望しているように見えますかね」


 爺やに言われ、俺は改めて4人を見る。

 

 ユーフィリアのエメラルドグリーンの双眸は、いつものように意志の強さが(うかが)える。

 絶望しているような表情ではない。


 ティライザのアンバーの目はやる気に満ちていた。


 ジェミーはその紫色のポニーテールを揺らしながら、ユーフィリアと模擬戦をしていた。

 むしろ笑っていて、追い詰められているようには見えない。


 アイリスは黙々と魔法を唱え続けている。

 その青い瞳からは普段のボーっとした様子は感じられず、気合が入っていた。

 

「むしろ希望に満ちているような?」


 俺は率直な感想を述べる。


「彼女らには強くなるあてがあるのです。強い敵がいる場所に心当たりがある」

「ほう。そんなところあったっけか」

「はい。そこに行ってみましょう」


 爺やはこともなげに言う。


「俺たちがか?」

「彼女らにその場所の使用許可を与える前に、問題がないかチェックする必要があるのです。今の管理者は当学園の理事長であるセリーナ嬢でね」


 俺たちがそんな会話をしていると、セリーナが手には納まらないほどの巨大な鍵を持って屋上に現れた。


「お待たせしました」


 セリーナが恭しく礼をする。


 彼女の手にある鍵には龍の意匠が施されている。

 俺はその鍵に見覚えがあった。


「では向いましょうか。古代帝国の遺産で唯一、現役で稼動している施設。クリスタルタワーにね」

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