59.邪神会議②
俺は暗黒神殿に戻ると脱力する。
なんかよくわからないことになったな。
ユーフィリアの態度もおかしかった。
まあそれは後日確かめればいいか。
俺は頭を振って切り替える。
さて、現状をちょっと整理してみよう。
――金がない。
一言で言ってしまえば、これがブリトン王国の現状。
返す金がないなら、超美人で勇者の第二王女差し出せコラァ! と息巻いてるのがスコットヤード王国。
そんなの絶対にいや! と断固拒否したいのが当人のユーフィリアである。
なのでお金を稼ぐ必要がある。
もちろん、国家財政クラスの金なんかそうそう稼げるわけがない。
しかし彼女らには一つ心当たりがあった。
「それがこちらになります」
俺の目の前には、部屋一面山のように積み重ねられた金銀財宝。
暗黒神殿の宝物庫まで歩いてきていた。
「誰に言ってるんですかね」
俺の後ろをついてきていた爺やが真顔でツッコム。
「しいて言えばこのゴーレムかな」
俺はこの部屋を守っているゴーレムを見る。
宝物庫のガーディアンであるゴーレムは、俺たちが部屋に入っても身動き一つしない。
俺たち邪神族には反応しないのだ。
「それで今後の計画ですが、ここは勇者達に攻略させてよろしいので?」
「そもそもこのゴーレムを倒した者に、この財宝を与えるつもりだったろ」
「まあそうですね。我々は財宝などそんなに使いませんし、1000年以上放置されているわけですから」
彼女らがこのゴーレムを倒すことができるのか。
この銀色に輝くゴーレムは、並の魔王よりはるかに強い。
まあ今の強さでは無理だろう。
先日ユーフィリア達はこの宝物庫を見つけ、ゴーレムに戦いを挑んだ。
手に負えないとわかるとあっさりと逃げていったらしい。
ゴーレムに必死に追いかけるような指示を出していないからな。
逃げることは難しくない。
彼女たちはこれから死に物狂いで鍛えるだろう。
タイムリミットはブリトン王国が破綻する日。
その前にまたこのゴーレムに戦いを挑む。
「では彼女らがやってきたときは、ここはまた無人にしておくということでよろしいのですな?」
1000年で初めて暗黒神殿に来た者。
それがユーフィリアたち。
そのときは色々あって神殿を守るものがいなかった。
「邪神族を配備したらそもそもここにたどり着けまい」
「はい。そうなります」
邪神族にはこのゴーレムより強い者が多々いる。
そんな奴らが徘徊していたら奥に進むどころではない。
「しかし、あいつらの女性恐怖症は治ったのか?」
「各自努力しております」
邪神族は爺や以外は皆、女性が苦手。
どれだけ成長したかをテストするいい機会でもあるな。
「少し考えさせてくれ。彼女らがやってくるまでまだ時間があるからな」
「かしこまりました」
俺と爺やはそのまま歩き、正面の扉をバーンと開ける。
会議室では軍団長が直立不動で俺たちを待っていた。
邪神会議である。
「このままではダンジョンに人が来ない」
俺は深刻な表情で口火を切る。
邪神族はダンジョン運営に手を出した。
現在の人類はダンジョンへの興味を失っている。
その人類のダンジョンへの興味をよみがえらせるために。
ダンジョンに宝を置いた。
一定期間ごとに復活する仕組みだ。
その宝には、さっきの宝物庫の中にあった財宝を充てている。
なのであそこの財宝は目減りしていた。
また、魔物を放った。最深部にはボスモンスターも配置している。
「残念ながらあれ以降、誰もダンジョンに来ておりません」
ガレスが申し訳なそうに答えた。
「はい、それで対策を考えました」
爺やが用意したのは1枚の紙。
依頼
ケンジアンダンジョンに魔物が住み着いたようです。
また何かあるといけないので、調査をお願いします。
依頼主
ジャスティン伯爵
報酬
銀貨50枚
「これを我々が今管理している5つのダンジョン。ケンジアン、イプスター、スウォンズ、レヴァプール、チェスローすべてで依頼しようと思います」
爺やの説明を聞きつつ、俺は依頼書を読む。
「銀貨50枚……。少なすぎないか」
最近桁違いの金額の話ばかりしていたせいだろうか。
あまりに少ない報酬に、俺は不安になった。
「あくまでダンジョンの異変を気付かせるのが目的。最初はたいしたことがない冒険者が来るでしょう。弱い魔物を退治するのだと」
彼らはダンジョンでひどい目にあって帰る。
その後、一流の冒険者がやってきてダンジョンを攻略。
「こうすることで、きちんとダンジョンのことを広めることができます。目撃者が複数チームあるわけですからね」
依頼には冒険者ギルドも絡んでいる。
さすがにここまでやれば、隠し通すことはできまい。
爺やの説明を聞いて、俺は納得する。
「それはそれでいいとして、ジャスティン伯爵ってだれだよ」
「そんな人物はこの世に存在しません。しかし報酬を前金でギルドに払ってますので、依頼はきちんと処理するでしょう。オーレッタ女史にも協力を頼んでますので大丈夫です」
正体不明の人物からの依頼でも、金を受け取った以上ギルドはきちんとこなす。
やらなければ信用に関わるわけで。
「なぜ偽名がジャスティン?」
俺が疑問に思って尋ねると、ガレスがしたり顔で答える。
「何度も言ってみてください。早口で」
「ジャスティジャスティンジャスティンジャスティン……」
俺は言われたとおり、何度も繰り返す。
それで満足げに頷くガレス。
「邪神と言っているように聞こえます」
「ぐほぁっ」
俺はガレスを殴る。
壁まで吹っ飛んでピクピクと震えている。
「なぜに……」
アドリゴリがうろたえた。
「くだらなすぎてイラッときた。責任者は?」
「ガレス殿です」
アドリゴリは部屋の隅で倒れているガレスを指差す。
「これがルール違反と判定されたら呪いが降りかかるかもしれないけど、まあ耐えろ」
ガレスならいいか、ということでそのままにした。
これでやっとダンジョンのことが広まるのだろうか。
それがわかるのはもうしばらく先の話であった。




