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57.担保

「で、ここまでしなければならない秘密とはなんじゃ?」


 リチャード二世に問われ、俺はことの顛末(てんまつ)を語る。

 あの日の演説のときのこと。

 そして実はそこまで金が無いということを。


「むう……。そうであったのか」


 リチャード二世はあっけに取られているようだ。


「なんか手品の種明かしをされた気分だわ」


 ユーフィリアも興ざめしているようだ。


「それで、なぜこの情報はここまで厳重に扱わないといけないのですかな」


 ゴードルフが問う。


「今説明したように、銀行の取り付け騒ぎは信用不安。つまり、政府と銀行が金を持っていないという不安から起きる。だから、莫大な金をあるように見せつけることで収束した。これが嘘だと広まったらどうなる?」


 俺の言葉で皆が理解する。


「またあの騒動が再開するというのね」


 ユーフィリアが眉をひそめる。


「もちろん国民は1度踊ったから、同じような流言にはつられないだろう」


 似たような扇動をしても、国民はまたスコットヤードの工作かと思うだろう。

 そう何度も同じように踊ったりはしないものだ。


「だが違う種類の流言を流されたら、引っかかってしまう可能性は十分にある」

「そのとき、この件が逆に利用される可能性もあるな」


 リチャード二世が考え込む。


「スコットヤードはまたそういう流言のネタを探している。あるいは人為的に作ろうとしているでしょう」


 相手が再度動き出す前に、この問題を終わらせるのが理想である。


「できれば、この件は他言無用でお願いしますよ」

「エルドレッドらにもか」

「この国は情報の管理が甘いようですので」


 俺の言葉にユーフィリアとリチャード二世がハッとする。

 何か心当たりでもあるのだろうか。


「残念ながら、一目見ただけで情報を漏らす人間を見極めるといった便利な目は持っていないので」


 俺は肩をすくめてみせた。

 誰に話すかはリチャード二世次第だ。

 状況によっては説明せざるをえなくなることもあるだろう。

 

 ただ、それで情報が漏れても俺はしらんぞ。

 その場合自分で何とかしろということだ。


 俺はゴードルフを見る。


「俺も信用できないと?」


 ゴードルフはそれを否定的な意味に取ったようだ。


「それは俺には判断できない」

「この者は大丈夫じゃ。口の硬さはわしが保障する。昔わしの浮気を……いやなんでもない」


 リチャード二世から不穏なキーワードが出かけたが、聞かなかったことにしよう。

 小さな声だったのでユーフィリアには聞こえなかったようだ。


「そういうわけで、こちらが融資できる金額はそちらが思っているほどの大金ではありません。実際いくらだったか」


 俺はベンを見る。


「約4200万スコットヤードポンドですな」

「それでも融資していただけるならありがたい。それで1~2ヶ月分の返済の目処が立つ」


 借金をどういう間隔で返すかは契約次第。

 個人であれば月単位が多いであろう。


 ただこの政府はいろんなところから借りている。

 今週は銀行に返済して、来週はスコットヤード政府に返して、といった感じで常に返済している。


 以前はそのあと再度借りることが出来た。

 それができなくなっているため、徐々に資金が削られている状態なのだ。


 そういう状態であれば、とにかくどこからでも資金を調達したいと思うようになる。


 融資に関しては俺は門外漢。判断は頭取次第である。

 なので俺は二人のやり取りを見守る。


「現状の政府に無条件で貸すのは銀行としても危ういですな」


 ベンが頭取としての常識論を述べる。


 バンクオブブリトンが貸した金がスコットヤードへの借金返済に使われる。

 その後政府は金を返せず破綻。

 こうなったら銀行はただのマヌケである。


「そこを何とかたのむ」

「まじめな話をするなら、財務状況とか、返済計画とか、見通しの話をすることになりますが……」

「それだとエルドレッドたちを入れないと無理だな。国王とはいえそこまで細かいことはわからない」

「そうすると先ほどの話をどうするかという問題がありますな」


 なかなかややこしい状況である。

 あーでもないこうでもないと話をしていると、不意にユーフィリアが話に割り込んできた。


「よし、じゃあ担保をつけましょう」

「担保? 政府にそのような土地は無いぞ。さすがに王城など重要施設は担保にはできない」


 リチャード二世が否定的な意見を述べる。

 第一この金額に見合う担保なんてそうそうあるわけがない。


「違うわよ。担保は私」

「「「「ファッ!?」」」」


 ユーフィリアの提案に残りの4人が盛大に驚く。


「な、何をいっておるんじゃ!」


 父親であるリチャード二世が激怒する。


「お父さん、ちょっと考えてみてよ。このままだと私はどうなるの?」

「スコットヤードに返済できなければ、ヴィンゼントと婚約するしかあるまい」

「そうなったらあたしは実質嫁入り。こんな強引な手でくる以上、もうお構いなしよね。すぐにでも屋敷に呼ばれるわ」


 ユーフィリアは目に怒りをともらせる。


「そしてそれは死んでもイヤ。だったら時間稼ぎの担保になるほうがマシよ」

「いやしかしだな……」


 リチャード二世は難しい顔をする。


「いくら姫様とはいえ、担保としていただいても銀行としてもどう扱えばいいのか困りますな。失礼な話ですが実際いくらで売れるのか」

「貴様! 人の娘を金勘定で査定するのか!」

「すいません。すいません」


 ベンも困惑して、余計な一言が出た。

 リチャード二世がそれで顔を赤くして怒鳴る。


「いや、いけるな」


 俺がそう言うと、皆がこちらを見る。


「姫を担保として受け取った。バンクオブブリトンに金を返せなければ、ユーフィリアは奴隷として売られる。スコットヤードにはこう広めよう」

「なんじゃと!」


 激怒した親バカの王様を手でなだめつつ、俺は話を続ける。


「そして実際に返済できなければ、スコットヤードにはこう提案することになる。姫奴隷を5000万ポンドで買えと。買わないようなら、あちらは真の目的を達成できない。金額はもっと釣り上げてもいけるかもな」


 これならバンクオブブリトンは損をすることは無い。


「つまり、ユーフィリアは銀行の担保として成立する」

「じゃあそれでいいわよね?」

「逆にこっちが聞きたいくらいだ。こんなんでいいのかと」


 正直わけわかんねーことになってんなと、自分でも思う。


「いいわよ。とりあえず私には時間が必要なの」


 ユーフィリアの覚悟は本物であった。


「いいでしょう。どうせこのお金はアシュタール様からの預金。投資者の指示とあらば融資いたします」


 ベンはさじを投げたようで、好きにしろという風に両手をあげながら答えた。


「ぐぬぬぬぬ。こんな話があっていいのか」


 納得がいっていない者が1名。

 それをゴードルフがなだめていた。


不束者(ふつつかもの)ですがよろしくお願いします」


 ユーフィリアは正座をして丁寧に頭を下げた。

 いや。そういう契約じゃないんですけどね。

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