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56.会談

 俺たちはあてがわれた部屋に入る。


「大丈夫か?」


 俺はハンカチを差し出す。

 ベンがコールドウェル公爵家の息子セオドリックに殴られたところは、赤くなって腫れていた。


「いてててて。大丈夫です」


 ベンが血をぬぐう。


「悪かったな」

「あなたが謝ることではありません」

「あいつは俺に突っかかってきたのだから、あなたがでる必要はなかったのだが」

「はははは……。カッとなってしまいまして」


 以前もそうだったな。

 こういう性格なんだろう。


 そのとき、部屋がノックされる。

 「どうぞ」と促すと、一人の少女が入ってきた。


「あれ? ユーフィリア」


 いつもの制服でもなく、戦闘衣装でもない。

 白いドレスをきているユーフィリアであった。


「どうしたんだ」

「城に戻ったらあなたがきてると聞いたので。ってそちらの方怪我しているじゃない」


 ユーフィリアが慌ててベンに駆け寄る。

 そしてヒールをかけて傷を癒した。


「ありがとうございます。殿下のお手を煩わせて申し訳ない」


 ベンが恐縮している。


「何があったの?」


 ユーフィリアが問うので、俺は一部始終を説明した。


「彼ね……若い貴族にはありがちな性格なのよ」


 ユーフィリアは苦々しげに語る。

 ブリトンは第六魔災で焼け野原になった土地を復興して出来た国。

 建国四十有余年。


 この国で貴族になったのは第六魔災で手柄を立て、運よく生き残った者。

 その後、血のにじむような努力をして国土を復興させた。


 その世代、その息子の世代くらいは、貴族とはいえまだ貧しかった頃を知っている。

 しかし、3世代目となると苦労知らずのボンボンになってきてるというわけだ。


 息子は厳しく育てるが、孫は甘やかして育てるという典型的なパターンになればさらに完璧。

 あんな性格のドラ息子が完成する。いや、ドラ孫か。


「10年、20年先のブリトンの政治はさぞかし楽しいことになりそうだな」

「嫌な未来予測止めてよね。その頃に対応するのが誰だと思ってるの」


 ユーフィリアが頭を抱える。


 第二王女にして魔王を討った勇者。

 常識的に考えれば、将来政治に関わる様になるだろう。


 そして同世代の貴族に頭を悩ます日々を過ごすことになる。


「で、どうしてここに?」

「あなたが謁見するって聞いたからこっちも用意したんだけど、間に合わなかったの」


 ユーフィリアはそこでクルリと1回転する。

 きれいな花柄の模様がついたドレス。


「ふふっ。どうかな?」


 ユーフィリアに問われ、俺は首をかしげる。


「どう、とは?」


 俺の返事にユーフィリアは落胆する。


「衣装のことですぞ。ここはほめるとこです」


 ベンが俺に耳打ちする。


「あ、ああ。きれいなドレスだと思うよ」

「よ、よく似合ってるとのことです」


 ベンがあわててフォローを入れる。


「はぁ……。聞いた私が馬鹿だったわ」


 ユーフィリアが不機嫌になってつぶやく。


「まあいいわ。それで、今回の件なんだけど……」


 それは先日俺がやったこと。

 説明は後日するよと言ったことだろう。


「それに関しては陛下にも説明することになるから、一緒に来るといいよ」


 まとめて説明したほうがいい。

 俺の言葉にユーフィリアが頷く。


「他の謁見が終わるまでしばらく時間がかかりそうなのよね。よかったら城の案内しようか?」


 ユーフィリアはそんな提案をしたが、それには及ばなかった。

 少し雑談をしていると、近衛兵と思しき者が現れたのだ。

 思ったよりはやく、別室へと呼ばれることとなった。


「おお、よくぞ参られた。ささ、どうぞこちらへ」


 警備の兵にかなり丁寧に部屋の中に迎え入れられる。

 少人数で会談するための場所であろう。

 

 立派な椅子とテーブル。

 壁には絵画も飾ってあった。 


「む、ユーフィリア。なぜこの者らと一緒におるのじゃ?」


 父親であるリチャード二世が疑問に思って尋ねる。


「前に話したと思うけど、同じパーティーメンバーなのよ。新しく加わったのがこのアシュタール」


 そのユーフィリアの言葉に、リチャード二世は盛大に驚く。


「なん……だと……?」


 リチャード二世は慌てて人を呼びにやった。

 やってきたのは騎士団長のゴードルフという人物。


「ゴードルフさんまで呼ぶほどのこと? まあ確かにその辺の兵士では太刀打ちできないんだけどさ」


 ユーフィリアの言葉で俺は理解する。

 ようは俺を警戒しているということだ。


 初めて会った人物を完全に信用しろというのは無理な話。

 この手のは考えてもキリがない。

 しかし俺がそれなりに腕が立つとわかった以上、警護のレベルを上げる必要があったということだ。


 まあ完全に無駄なんだけどな。

 そもそも俺はそんなことをする気はないし、やろうと思ったらこんな警護は無意味だ。


 中にいるのはリチャード二世、エルドレッド財務長官と財務省の役人。警護の近衛兵が数名といったところであった。


 少し数が多いな。


「話しはすでに伝えてあると思うが……」


 リチャード二世が話を切り出そうとする。


「その件ですが、その前に一つお願いが」


 俺はそれを(さえぎ)ってある提案をしようとする。


「なんじゃ?」

「いくつか極秘の話がございます。人払いをお願いします」

「この者らは皆国の中枢にいる者たち。無論秘密は守る」


 その言葉が正しいかどうかは俺にはわからない。

 なので不要なリスクは避ける。


「念のためではありますが、出来れば陛下のみに話そうと思います」

「私たちを排除すると申すか」


 エルドレッド財務長官が不機嫌になる。


「この国の財務、予算に関しては私たちが一番詳しい。交渉にも差し支えるぞ」


 エルドレッドの言葉に、役人も頷く。


「俺が話すことはそれらとは関わることはない。もし関わるとすれば、陛下が話すでしょう」


 彼らは巨額の融資に関する交渉をすると思っている。

 それを成立させるための財務状況の説明。きちんと返済できるかの見通しとか、そういった話だと。


 でもそうじゃない。


「仕方あるまい。おぬしら席をはずせ」


 リチャード二世がそう命ずる。

 そうなれば彼らは従う他ない。


 結局部屋に残ったのは俺、ベン、ユーフィリア、リチャード二世、ゴードルフの5名であった。

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