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55.謁見

 王城の城門から少し離れたところに転移し、俺とベン頭取は城門に向って歩いていく。


「こ、これはアシュタール殿。ようこそおいでくださいました」


 門番は俺を見つけると、あちらから声をかけてくる。

 門番はあっさりと通してくれた。


 中に入ってまっすぐ進めば謁見の間である。

 その通路には赤い絨毯(じゅうたん)がしかれていた。


 俺たちはその絨毯(じゅうたん)を踏みしめながら進む。

 左右には巨大な柱があり、調度品も整えられていた。


「いやはやさすがは王城ですな。何度見てもすばらしい」


 ベンが感嘆の声を上げる。


 だが俺は知っている。

 こんな豪華絢爛(ごうかけんらん)なのは一部分だけだと。


 人がよく通るこの通路や、謁見の間などはかなり着飾っている。

 しかし客が来ることがないエリアは質素なものだ。

 

 城のすべてを豪華にするほどの金は無い。

 でも大国だからさすがに何もかも質素にするわけにもいかない。

 

 その結果こうなった。

 見栄という奴だ。


 レッドカーペットに従って進んでいくと、立派な大扉が見えてきた。

 門番もいて、ボディチェックを受ける。


 程なく扉が開き、俺たちは中に入る。

 左右には多数の人。

 貴族らしき豪奢(ごうしゃ)な服装の者も多い。

 

 常にこの人数で謁見してたらまさに時間の無駄。

 今日は特別多いのだろう。

 野次馬気分で来ているものも少なくあるまい。


 玉座より数メートル手前で止まり、片膝をついて頭を下げる。


「おもてを上げよ」


 目の前の人物より声が発せられる。

 俺が頭を上げると、金でできた王冠をかぶった壮年の男性が見えた。

 その奥には家紋をあしらった巨大な垂れ幕も見える。


 顔つきは優男風で、威厳が足りない。

 そのため髭をたっぷりと蓄えていた。


 リチャード・アーサー・プランタジネット。

 ブリトン王国の現国王である。

 建国王がリチャード一世であり、リチャード二世と称している。


「此度のそなたたちの働きのおかげで、わが国は窮地を脱することが出来た。感謝する」


 リチャード二世は(おごそ)かに話し出す。


「褒美は何なりとしよう。何か希望の品はあるか」

「我らは臣下としての勤めを果たしたまで。無用にございます」


 ベンが緊張で声を震わせながら返事をする。


「何もしないというのでは王国の沽券に関わるのでな」

「では感状を一つ、いただきとうございます。我が祖父ビル・スプリングフィールドは、リチャード一世より感状をいただき、それを宝としました」

「よかろう」


 リチャード二世は頷くと、お付きの者から1枚の紙を受け取る

 そしてそれをベンに手渡した。

 受け取るときベンの手は震えていた。


 そもそも金がないから危機に陥っている国と、金で救った銀行の関係。

 金品をもらうのもおかしい。


 ならば名誉に関わること。誇れる物を報酬としてもらうのは自然である。

 金がなくて感状を配りまくるというのはよくあること。

 建国王リチャード一世もそっち方面では苦労したのだ。

 

 ベンは感涙にむせんでいた。

 偉大なる祖父と同じように感状をもらったことは、それほどうれしいのであろう。


 ここまでのやり取りは打ち合わせしてあるらしい。

 俺の出る幕はない。


「さて、アシュタールと申したか」

「はっ」


 こちらに話を振られたので俺は返事をする。


「町でもこの城でも、おぬしの話題で持ちきりらしいな。素性も不明。それが噂を呼ぶ。やれ過去の英雄のご落胤(らくいん)だとな」


 あの人が実は、過去の英雄の子孫だった。

 民衆はそんな噂話が大好き。

 そういう噂は広まりやすいのである。

 

「私はそのような者ではございません。東方の小国の田舎者でして、この国のカンタブリッジ学園に通う機会をいただき感謝しております」


 俺は苦笑して否定する。

 

 俺の正体は言えない。

 言う権利がない。


「おぬしにも何か褒美をやろうと思うのだが、何がいいかな」

「いえ、先ほども申しましたとおり。私のようなものがカンタブリッジ学園に通えていることが何よりの褒美でございます。今回はその恩返しのようなもの」

「ふむ。無欲なことよ」


 リチャード二世は顎に手をあてて考え始める。


「陛下。本人が辞退しているのですからよいではありませんか」


 右手側の最前列にいた若者が意見を述べた。

 きている服の豪華さ、リチャード二世に近い位置にいることから考えて、かなりの身分なのだろう。


「悩むようなことでもございますまい。感状も乱発しては価値が落ちるというもの。平民風情が陛下に会えただけでも十分の褒美です」


 コールドウェル公爵家の長男、セオドリックというらしい。


「そもそもどこの馬の骨ともわからぬ輩をここに呼ぶ必要がありましたかな」

「この方が今回の騒動を収めたのだぞ」


 ベンがムッとして答えた。

 セオドリックは前に出てきて、こちらを糾弾し始める。


「第一、今回の騒動は銀行の不始末ではないか」

「なんですと?」

「預金を下ろそうとした者を締め出し、引き下ろせないようにした。それで暴動寸前にまでなったのだ。これは銀行が悪い」


 ベンは自分の考えと真逆のことをいわれ、目を丸くした。

 しかし気を取り直して反論をする。


「町の治安を守るのが政府の仕事。それに、そもそもの原因は政府の信用不安ですぞ」

「もちろんそれは政府が解決する。だが、銀行の失敗で起きた騒動を自分たちで解決したら英雄扱い。自作自演ではないか」


 ベンは顔を真っ赤にして押し黙った。

 

 この手の馬鹿は相手にするだけ無駄。

 俺はベンの肩をたたいて止めるように促す。


 しかしベンはその手を振り払う。


「ではあなたは何をしたというのですかな?」

「なんだと?」

「あなたは今回の件で、なにかしたのですかと聞いているのです。醜い嫉妬ですな。同世代のアシュタール殿が英雄扱いされるのが気に食わないのでしょう!」


 どうやらそれは正鵠(せいこく)を射ていたようで、セオドリックが激怒した。


「平民風情が偉そうな口を叩くな!」


 セオドリックは腕を振り上げ、ベンを殴り飛ばした。


 それを見てさすがに周りの者が間に入って止める。


「見苦しいところを見せてしまったな」


 リチャード二世が謝罪の言葉を口にした。

 謁見の間はまだざわついていた。

 セオドリックに同調した若い貴族が興奮して騒ぎ始めたのだ。


 これ以上騒ぎが大きくならないよう、俺たちはリチャード二世に一礼をして下がった。


「ああ、何か相談があるようでして。あの場でするような話ではないのであとで別室に来てほしい、とのことです」


 俺たちが謁見の間を出ると、扉の前で直立不動でいた兵士にそう告げられる。

 

 用件はおそらく融資に関することだろう。

 確かにあの場ですることではない。

 俺たちは与えられた部屋で待つこととなった。

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