46.反撃①
暗黒神殿に戻ると、アドリゴリがやってきた。
「どうなさいました?」
「ちょっと予定を変更する。マジックアイテムは持っていくぞ」
「それはかまいませんが、何かありましたか?」
アドリゴリは俺が不機嫌であることを察する。
「……たいしたことではない。俺が何かされたわけではない。ただ、気に入らない。それだけだ」
「なれば……」
何か言いたげなアドリゴリを遮って俺は答える。
「だから、相手に合わせてやり返す」
俺は今朝作ったアクセサリーを鞄に入れて、スコットヤード王国首都グラーゴに来ていた。
そして大きな商会の一つに入る。
「いらっしゃいませ。どんなご用件で?」
「アクセサリーを買い取ってほしい。マジックアイテムだ」
要件を告げると、詳しい商談をするために別室に通される。
マジックアイテムに詳しい店長が応対するようだ。
ヴァレフと名乗った。
「どのようなマジックアイテムなのですか?」
「すべてのステータスが12%上がる」
「ご冗談を。最高級品でも10%です。しかも全ステータスアップなど聞いたことがない」
冗談だと判断し、ヴァレフは軽く笑う。
しかし目は一切笑っていない。
俺を品定めしているのだ。
俺は無言で鞄から腕輪を取り出す。
ヴァレフは胡散臭そうにしながらも腕輪をはめる。
「なっ。本当に12%増えているだと!」
ヴァレフが雷を打たれたかのように驚き、こちらを見る。
「いくらで買い取ってくれる?」
「一体どこで入手しました?」
俺の質問に答えず、そんな質問をしたことにおれは失笑する。
「入手経路を話すわけがない。だがそうだな、実はダンジョンで手に入ったのだ。運よく宝を見つけることができた」
「そんな嘘に引っかかるとでも思っているのですか。太古の人類はこのようなアイテムを作らなかった。ダンジョンから発掘されることはありえません」
さすがにスコットヤードの商人が、こんな話を信じるわけがないか。
「信じる信じないはそちらの自由だ」
「本当の情報を教えていただけるのであれば、もちろん情報料をお支払いしますよ。それはもうたっぷりと」
ヴァレフの問いに俺は答えない。無駄だと察したのか、質問を変える。
「これは量産可能ですかな? それとも何かの偶然でたまたまできた品ですか?」
これまで作られた最高のアクセサリーというのは、ステータス10%アップ。
それは最高クラスの付与術師が年単位の時間をかけて作るもの。
ゆえに流通量は少ない。
「そう簡単に量産できるわけがないだろ」
偶然できた軌跡の一品で、再度作れるかわからない。
そう言えばこいつは引っかかるだろうか。
だがすぐにばれる嘘をつくのもどうかな。
そう思って言うのをやめた。
「もしこれが世界に一つしかないというのであれば、500万スコットヤードポンドで買い取ります」
世界で1個しかない、というものの価値は別次元である。
青天井で値上がりするだろう。
逆に毎日100個作れます、といわれたらその価値は暴落する。
値段とは需要と供給によって変わるのだ。
「しかし今後も生産されるというのであれば、そうですね20万といったところでしょうか」
「安いな」
俺は即座に首を振る。
「これまでの最高級品と2%しか変わらないのです。これ以上は出せませんよ」
「最高の品というのはそれだけで価値が上がるのだ。たとえ1%の差だったとしてもな。その差が生死を分けることもある。このアイテムを買うような人物は、将来魔王と戦うだろう。その微妙な差で泣くことがないといいな」
「わかりました。50万で買い取りましょう。これが限界です」
俺が期待した値段よりはまだまだ安い。
「このアイテムを買い取れる大きな店はまだ何十店とある。そちらと交渉してから考えさせてもらおうか」
俺は席を立ち上がるふりをふる。
「わかりました。70でどうでしょう」
ヴァレフが慌てて値段を再提示してくる。
このように慌てているということは、まだまだ高く買っても大丈夫だと思っていたということだ。
「わかった。それでいい」
もっと釣り上げることもできたであろう。
しかし時間が惜しい。
ここは折れることにした。
「これだけの大金を用意するには少し時間がかかります。しばしお待ちください」
ヴァレフはそう言って部屋を出て行った。
この世界は銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある。
銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚となる。
銀貨1枚で10ポンド。金貨1枚で1000ポンドである。
ポンドの下の単位にペニーがあり、100ペニーで1ポンドとなる。
70万ポンドは金貨700枚。
金貨だけではかさばるので、白金貨を混ぜるか、手形で済ませるのかもしれない。
「お待たせしました」
金貨が300枚、白金貨が4枚であった。
俺はそれを受け取ってその店をあとにした。
というふうに、俺は数十件の店に全ステータスが12%アップするマジックアイテムを売り込んだ。
もちろんアドリゴリら、何人かに手伝ってもらったのだが。
途中から合流した爺やは一つ500万で売ってきた。
ジェコは10万に値切られたので即クビ。
スコットヤードの商人は、高値で掴むことはなかなかしない。
彼らは最悪のケースでも損をしないつもりでいる。
彼らの考える最悪のケース。
それはこのアイテムが実はすでにたくさんとあります、といった程度であろう。
つまり俺が今回やったことだ。
だから彼らの判断は間違いではない。
彼ら商人に損をさせるのが目的ではないのだ。
俺はスコットヤードの王城を見つめ、転移した。




