45.金融国家の謀略②
町は喧騒に包まれてた。
特に繁華街は、もはや人で身動きが取れないほどだ。
俺たちは全体を見渡そうと学園の屋上に上る。
俺はその間にイビルアイビジョンで探っているが。
「何が起きているの!?」
ユーフィリアが身を乗り出して叫ぶ。
「この国の治安はいい。いきなりこんなことが普通起こるはずがない」
ティライザが町を見渡し、原因を探る。
「確かに、不自然です」
アイリスの表情も険しくなる。
「しかし、この国は今普通の状態ではない」
皆が俺に振り返った。
この国には今信用不安が起きている。
国が借金を払えないという不安である。
実際に払えないと、財政破綻という扱いとなる。
国が破綻すると何が起きるのか?
国が消滅する?
するわけがない。
破綻した瞬間に誰かが死ぬわけでもない。
「ジェミー。お前お金持ってる?」
「何だよいきなり。普段はそんなに持ち歩かないぞ」
ジェミーは財布を取り出すが、そういうことじゃない。
「持ち歩かない金はどこに預けてる?」
「冒険者ギルド。あそこはお金の保管もしてくれるんだ」
「じゃあその金がなくなったら?」
「ふざけんな」
「そう、今起きているのはそれだ」
よく見てみると、騒ぎの中心は銀行である。
俺はそれを指差す。
冒険者ギルドにも多少人が集まっているが、それほど多くはない。
「銀行というのはお金を預かってくれるところだ。それに必要なのは信用」
「まあ信用できないところにお金を預けるわけがないですからね」
ティライザが頷く。
「でも今回問題にされているのは王政府では」
「そうだ。だが政府が揺らぐときは他も巻き込まれるのさ」
お金というのは循環している。
個人がお金を銀行に預け、銀行はそのお金を誰かに貸している。
その貸出先には政府も含まれる。
政府が金を返せなければ、銀行は預金者に返す金がなくなるのだ。
「それはそうだけど、まだ返せないと決まったわけではないわ。なぜこの段階でこんな騒ぎに」
「決まってからでは遅いからだよ。こういう騒動になる前は金を下ろせた。今騒いでる奴らはむしろ遅い奴ら」
俺はユーフィリアの疑問に答える。
そもそも銀行はこうなったとき、全員に返す資金を手元に置いていない。
100人が銀行に100ずつ預けたとしよう。
銀行は10000の資金を得る。
このお金を銀行は誰かに貸している。
そのその利ざやで利益を出しているのだ。
仮に7割の7000を貸しているとする。
銀行には3000の金しか残っていない。
このとき、50人が金を下ろさせろと言ってきたらどうなるか。
実は銀行は払えないのだ。
銀行業というのは元からこういう問題を抱えている。
「だから銀行はこういう時は店を閉める。それは群衆の更なる不安を煽ることになる」
「それで暴動になるというの……」
「金を下ろしたい奴らに好きなだけ下ろさせれば、暴動にはならない。それだけの資金が手元にあるならな」
まあないから、下ろせなくなってこんな騒ぎになっている。
経済とは生き物。
安定していないといきなり崩れ去ることもあるのだ。
「それ以外には?」
「武力で鎮圧でもするんだな」
「そんなことはしない。そんなことをしたら国の威信にも傷がつくわ」
ユーフィリアはそう言って、険しい表情で走り出した。
「説得しようとしても無駄だ。興奮した群衆はそんなことでは静まらない。って聞いてないな」
「追いかけますよ」
ティライザが後に続く。
「心配しなくても群衆にユーフィリアを傷つけれるやつはまずいない」
「そういう問題ではないです」
アイリスがほほを膨らませて怒っている。
俺はやれやれと思いながらも追いかけた。
「みなさん。落ち着いてください!」
ユーフィリアは銀行の近くまで着くなり、高い台の上に乗って大声で叫んだ。
「ユーフィリア殿下!」
王族の登場に、さすがの群衆も静まり返る。
「この国は今危機にあります。しかしそれは魔族によるものでもなく、命が脅かされるわけではありません。必ず解決できます」
ユーフィリアの言葉には力があり、それによって冷静になる人もでてきた。
しかし、不満を口にする者がいなくなるわけではない。
「騙されるな! 俺たちが汗水たらして稼いだ金が消えてなくなるんだぞ。金がなくなったら生きていけねえんだよ」
「そうだそうだ。これは政府の失態だ」
興奮した人はそのままユーフィリアに石を投げる。
もちろんそんなことでユーフィリアが傷つくことはない。
「王侯貴族はこんな状況でも問題なく、優雅な暮らしができるんだな」
「うらやましい限りだぜ」
それに乗せられて次々と暴言が飛んでくる。
そんな暴言を浴びせられ、呆然とするユーフィリア。
そういう声が強くなると、また騒ぎは大きくなる。
むしろさっきより大きくなったかもしれない。
俺たちはユーフィリアを下がらせ、場所を変えた。
ユーフィリアは涙を流していた。
国民の期待にこたえられなかったこと。
国民の信頼を得られなかったことに。
肉体は傷ついていない。
しかし、心に傷がついていた。
「どうします?」
ティライザが俺を見る。
俺は床に落ちてあるチラシを拾う。
そこにはこう書かれてあった。
政府が財政危機だけど私には関係がない。
そう考えている人多くないですか。
そうじゃないんです。
実は政府が金を返せなくなると、あなたたちが銀行に預けたお金がなくなります。
そしてなぜそうなるかの仕組みを、図解で丁寧にわかりやすく説明していた。
そうなる前に預金を下ろしたほうがよいと書かれている。
このチラシが大量に配られたのだろう。
「それは……」
ティライザが紙を受け取り読むと、手をプルプルと震えさせた。
「許せない……」
ティライザは怒りで顔が紅潮する。
「許せないならどうする? あの群衆に魔法をぶち込むか」
「そんなことはしません」
「このチラシを作ったと思われる国に殴り込みでもかけるか? 証拠もなしに」
「じゃあどうしろ――っ!」
俺のほうに向き直ったティライザは俺を見てビクッと後ずさりする。
「ちょっと顔が怖いですよ」
アイリスも俺から離れていく。
「この騒動はしばらく続く。限界を越えたとき、暴動に変わる」
「その前に何とかしないと」
「お前たちはお前たちでやることがあるだろ。俺は俺のやりたいようにやらせてもらうぜ」
俺はそう言って、暗黒神殿に転移した。




