44.邪神が武器を作るようです④
暗黒神殿に戻ると、爺やが待っていた。
俺は小さめの部屋に移動して話をする。
「思ったより時間がかかったようですね。鍛冶をやるのが久々で手間取りましたか」
「そんなわけあるか。依頼主のデザインが凝っててな」
俺はその斧をエウリアスに近づける。
「これはこれは。ここまでやることに意味があるのですかね」
爺やが苦笑する。
「まあせっかくオリハルコンを使って作るんだし、デザインに気合をいれてもいいだろう」
「あとは特殊能力ですか」
爺やの言葉に俺は頷く。
付与魔術。武器、防具、アクセサリーなどの装備品に魔法効果を付与する行為。
もちろんそれだけでなく、衣類、建物の強化もできる。
攻撃力、防御力アップ。
STR、DEXといったステータスアップ効果。
各種属性防御アップなど、様々な効果をつけることができる。
その他特殊能力をつけることもできる。
俺たちが今考えているのはここ。
永続効果をつけるというのは簡単ではない。
もちろん付与専用の魔法を使うのだが、1回ではい永続効果がつきました、とはならない。
その魔法を何十回、何百回と使うことで、気がつくと永続効果になっている。
自分の限界を越えた魔法を使い、数日休む。
そしてまた使って休むを繰り返すことで、その人にとって最高の作品が出来上がる。
つまり最高の作品というのは年単位の時間をかけて作ったりするのだ。
今回はそんな手間をかけたりはしないが。
「せっかく人間に渡すのですから、魔族特効が無難ではありますね」
「それはそうだが、魔族特効の武器はすでに色々あるからな」
「では……」
爺やには答えず、俺は魔法を唱える。
同じ魔法を永続効果がつくまで。
「む、それは」
爺やが意外そうな顔をする。
「そもそもの目的がゴーレム退治。ならつけるのはこれだろう」
無生物特効。
魔法で作られたもの。機械的なもの。建物などに対して効果が高くなる特殊能力だ。
もちろんゴーレムにも適用される。
「いや、別に悪い特殊能力ではないですけど……。人類にはそれほどありがたくない能力なのでは」
人間の宿敵は魔族。人類の存続を脅かすのは魔族。
「あるかもしれないだろ。たくさんのゴーレムとかと戦う機会が」
むしろすでにあった。ある意味遅い。
ジェミーは戦士である。
戦士というのは相手の攻撃を引き受ける役目も行う。
よって防御系の付与効果をつけておいた。
防御力アップ。
全属性耐性アップといったものだ。
頃合を見計らったようにアドリゴリがやってくる。
「用意はできたか」
「はっ。ここに」
テーブルに置かれたのは指輪、腕輪、イヤリング、ネックレスといったアクセサリー類。
「人間はアクセサリーに付与魔術を施し、ステータスアップを図るそうですな」
アドリゴリが指輪を一つ手に取る。
「残念ながらサポートできるステータスに限界がある。俺たち邪神族には効果がない。それどころかアイテムが耐え切れず壊れるだろう」
俺はそれらのアクセサリーに付与を行っていく。
「どの程度強化するので? 2倍ですか? 10倍ですか?」
「あほなこと言うな。せいぜい15%だ」
以前、人間の世界に出回っているのは最高級品で10%と聞いた。
それの1.5倍にしておく。
これも人類強化の一環。
それが終わった頃に、部屋がノックされた。
「お連れしました」
ジェコが一礼をする。
連れてきたのはオーレッタ。
「ええと、ここは……」
オーレッタがうろたえている。
「場所は気にしないでくれ」
転移で連れてこられたので、ここがどこかはわからないだろうが。
オーレッタを呼んだのは他でもない。
アクセサリーの性能テストだ。
俺が装備を作ると一定確率で余計な効果がつく。
それを除外するためでもある。
「なるほど、わかりました」
「朝早くからすまないな」
「あの、一つ重大なお話が……」
オーレッタは歯切れが悪い。
「どうした」
「身辺を探られたりはしていないでしょうか」
「ああ、多少はある。だが気にする必要はない」
「ですが……」
オーレッタは何か言いたげではあった。
だが俺はそれを遮る。
「その話はまた後日にしてくれ。今はこっちを急ぎたい」
俺の言葉に従い、オーレッタは次々とアクセサリーをつけていく。
だめな奴は体が反応する。
「ああっ。これだめです」
オーレッタは艶かしい声で喘ぐ。
しかしここにいるのは皆邪神族。
完全スルーで作業に専念する。
「ここはもしかしてホモのたまり場ですか」
オーレッタは細長く鋭い目つきの美人である。
茶が混じった長い黒髪を後ろで束ねている。
体つきもよく、ぴっちりとしたスーツはそれを隠すことはない。
男好きのする体であった。
それなりに自信があったのだろう。
全く反応しない邪神族を不審に思ったのか。
もしくはそういうのが好きな人か。
「まさか。死ぬことがほぼなく、寿命もないので子供を作る必要がない。あと増えるときは勝手に増える種族なので、性欲がほとんどないだけだ」
ホモのたまり場だったら俺がまず逃げ出すわ。
そういった作業が終わる頃には、学校や仕事がはじまる時間になっていた。
俺はオーレッタをギルドまで送り、学校に向った。
俺が教室に着くと、皆が待ち構えていた。
「どどどど、どうなった」
ジェミーが気が気でない様子で聞いてくる。
朝工場に寄ったら仕上げをするから帰ったと言われたとのこと。
「ああ、完成している。しかし座学が終わるまで待て」
もう時間がないので、あとで渡すことにした。
授業中そわそわしながら時折こちらを見てくるジェミー。
まあどうせいつも授業なんて聞いてないからどうでもいいんだろうけど。
座学が終わり、人が来る可能性のないいつもの部室に移動。
俺は暗黒神殿に転移し、大きな箱をもって戻る。
その大きな箱を空けた。
リクエストされたとおりの形状。
白を基調とした、神々しい両手斧がそこにはあった。
「おおおおおお」
ジェミーがうれしそうに斧を持って仁王立ちする。
「すごい立派ですけど、切れ味を見ないことにはなんともいえませんね」
ティライザが斧をジーッと見ている。
「といってもこの部屋には切れ味を試すようなものはないだろ。っておい、俺を指すんじゃねえよ」
ティライザが俺を指したので全力でツッコム。
「じゃああとは斧の名前ね」
ユーフィリアがそんなやり取りをスルーする。
「ああ……悪いがそれはもう決まっている」
俺は一瞬ためる。
「その斧の名前はラグナロク」
その名前を聞いて各自目を輝かせた。
「いいんじゃない」とはユーフィリアの言葉。
アイリスとジェミーもほほーと好意的である。
「悪くはないですけど、斧っぽくないですね。変えますか?」
「ちょっとまてや」
俺はティライザを制止する。
「残念ながら変更は不可能。その斧にもうすでに刻印が刻まれている」
俺が指摘すると、ジェミーが斧を見ていく。
「うわぁ……ほんとだ。ラグナロクとアシュタールのサインがある」
そういうわけで斧の名前はラグナロクで確定した。
俺が加工した段階で決まっていたんだけどな。
斧を受け取り、彼女らは訓練に向おうとした。
そのとき街が騒がしいことに気付く。
「なにが起きたの?」
ユーフィリアが町のほうを見る。
事情を見てきたらしい生徒が、校舎に走りつつ叫んだ。
「街がすごい騒ぎになっている。暴動が起きるぞ!」