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43.邪神が武器を作るようです③

「じゅ、10万℃だと?」


 スコットは驚きで口が半開きになる。


「馬鹿な事を言うな。それが本当ならここで作業はできん。工場そのものが蒸発するわ」

「もちろん工場全体を魔法で防護しますよ」

「今でもやっている。ここは世界最高の工房の一つだ。最高クラスの耐火の付与魔術(エンチャント)がなされている」


 じゃあその防護魔法では弱いということだ。

 俺はこの大きな工房全体を覆うような、巨大な魔法陣をつくる。

 

「ファイアープロテクション」


 耐火処置を施す魔法。ただし、時間制限あり。


「なにこの不気味な紋様……」


 ユーフィリアが眉をひそめる。

 工場全体に髑髏(どくろ)(かたど)った、怪しいまじない風の紋様が浮かび上がる。


「まあ防護魔法に、こういう紋様がでるようにちょっと手を加えることは可能ですね。意味はないですが」


 ティライザが解説をする。

 壁にスプレーで落書きをする芸術家みたいなものだ。


「趣味が悪いですね。光の神ダグザ様が見たら怒るかもしれません」


 アイリスは少し機嫌が悪くなっているようだ。

 邪神族と光の神が相容れるわけがないからな。


「これで大丈夫です。この魔法効果は1日ももたないですけどね」

「ちょっと待て、不純物を取り除く方法は? というかオリハルコンの加工法を知っているのか」

「10万℃近くまで上げる過程で、他の物質はすべて蒸発します」


 なのでインゴットを生成する過程で自然と除去される。


「どうやって10万℃にあげるんだ?」

「当然魔法です」


 スコットの疑問すべてに答え終わると、溶鉱炉の前に立つ。

 武器1個分の素材なんてたいした量ではない。

 小さな炉で十分。


「危ないので離れててくださいね」


 俺は10万度の温度程度、余裕で耐えれる。

 しかし火の耐性を鍛えたとはいえ、並の人間がそばにいたら危ないだろう。 


 なので俺は警告を発した。


「ファイアー」


 初歩的な火の魔法だ。

 魔法の威力は術者によって違う。


 しかしいくら俺でも、この魔法だけでは10万℃には到底届かない。

 だから、俺はひたすらファイアーを重ねる。


「ファイアーファイアーファイアーファイアーファイアー」


 一つの魔法効果が切れる前に、次々と重ねていけば、温度は上がり続ける。

 やってることは多重魔法陣の起動と同じである。


 ただあっちはその多数の魔法陣に有機的な意味をもたせ、立体として1つの大きな効果を得るようにしているのだ。

 今回はそこまでのことはする必要はない。


 これで10万℃まで高めることができる。


「すごい熱……。一体何の魔法かしら?」


 ユーフィリアは少し距離を取ったところで顔を手で守っている。


「あの人の魔法は発動が速すぎて魔法陣が読みにくいんですよね。ただ、おそらくいくつもの魔法を高速で発動させ、相乗効果で温度を上げているのかと」


 ティライザは平然としている。

 結界を張ったからだ。 


「そんなこと可能なの?」

「魔法は同時に2つ以上使う事だって可能ですからね。連続魔といわれる技術です」


 溶けたオリハルコンインゴットを容器に入れる。

 

 これを長いダークスチールの棒にあてる。

 さすがに取っ手の棒までオリハルコンにはしない。


 あとはこのオリハルコンインゴットを冷まさないように、適宜加熱しながらひたすらハンマーで叩くだけである。


 これらは俺が持ってきた耐熱加工済みの道具。

 10万℃に耐えうる道具である。


「あれ? 思ったより地味」


 ジェミーが腕を組んで余裕そうにしている。

 彼女は自分の属性が火。なので熱に強いのだろう。


「あちいいいいいい」

「仕事になんねえよこれ」


 火に強いと豪語していた職人の皆さんはかなり遠くまで逃げていった。

 アイリスも遠くに離れている。

 彼女は水属性なのだろう。


「鍛冶の作業は地味なんだよ。このままずっと叩いて引き伸ばして、武器の形状にするだけ。見ててもつまらないから帰ってていいぞ」

「いや、一人だけおいていくのもどうかなと思って」


 ジェミーは自分の武器だし、見守る責務があるとでも思っているのだろう。


「見てたってやることはないし、むしろ気が散るんで」 


 このまま見続けられても邪魔なので強引に帰らせた。

 

 自分の工房を他人だけ残して帰るとかできない。見守る義務があると、親方であるスコットは頑固だったので、外で待たせることにした。


 まあ俺のやることは決まっている。

 ひたすらトンカンと叩き続けるのだ。


 オリハルコンインゴットを少しずつ引き伸ばし、斧の形状にしていく。

 先端は尖らせて、鋭い刃物に。


 ここまではいい。

 そこまで苦労していない。


 問題はあのデザインだな。

 これ一体何時間かかるんだよ。


 そう思いながら作業を続ける。

 そして気がつくと朝になっていた。






 チュンチュンとスズメが鳴く音が聞こえる。


「まだいたのか」


 スコットが工房のドアを開ける。

 どうやら事務所で仮眠を取っていたらしい。


「10万℃の熱に耐えながら作業をするだけでも普通じゃねえ。それを一晩ずっと続けるたあ、一体何もんだよ」


 短時間であれば人間でも耐えれるやつはいるだろう。

 ただ、ずっと耐えるなど不可能。


 しかし俺はその質問には答えられない。

 答える権利がない。


「まあ楽な仕事ではなかったですね」


 だから無視してそう答えるのみ。


 とりあえず加工は終了している。

 今は冷めるのを待っているのだが、もう十分冷えただろう。


「どれどれ……。ずいぶん軽いんだな」

「オリハルコンは硬くて軽いんですよ」


 スコットはできあがった武器を触ったりしている。


「ちょっと試し切りしていいか?」

「ええ、どうぞ」

 

 目の前にあるダークスチール製の棒に斧を振り下ろす。


 その棒はスパッと切れていた。


「ゲゲッ! こんなあっさり切れるのか」

「オリハルコンですからね」

「なるほど……。これは信じるしかないみたいだな」


 この威力を見れば一目瞭然。

 スコットも頷くしかない。


「まあこれから付与魔術(エンチャント)で武器強化するんで」

「そうか……これからさらに強化魔法がつくのか」


 スコットはもはやお手上げという風に肩をすくめた。


「ありがとうございました」

「おう。なかなかいいもん見させてもらったぜ。またオリハルコンが手に入ったらきてくれよ」


 俺はスコットと握手をして、暗黒神殿に転移した。

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