41.邪神が武器を作るようです①
スコットヤードがブリトン王国への融資を停止すると通達した件は公にはされていない。
しかし、学園ではその話題でもちきりであった。
おそらくは国中に広まっているのだろう。
広めたのはスコットヤード側だと推測される。
「ヴィンゼントのやろー。こんな卑怯な手段に出やがって。目の前にいたらぶん殴ってやるのによぉ」
ジェミーがドンッと机を叩く。強化された机にヒビが入っている。
ジェミーの怒りが見て取れた。
「しかしヴィンゼントは学園に来てませんからね」
ティライザは空席となっている机を見る。
いつもなら無駄に子分を侍らせて、ふんぞり返っている人物がいない。
さすがにこのような行動に出ておいて、ノコノコと学園には来れないようだ。
普段から護衛はいるが、キレたブリトン人の中にいては守りきれるとは限らない。
今頃は本国に戻っているのであろう。
「どうすればいいですかね」
アイリスが困った表情で俺を見る。
「俺に言われてもな……。国と国の駆け引きなんだぞ」
「私も国のほうは別に気にしていません。でもユフィが関わってることですよ?」
ティライザは俺をじっと見る。
そんな話をしていると、ユーフィリアがやってきた。
「もう噂になっているのね」
ユーフィリアが渋い顔をする。
皆がユーフィリアの次の言葉を待っている。
しかし、これは国の問題。
さすがに仲間といえど、話せないのだろう。
「今言えることは結局金が必要ってことね。しかもとんでもない額」
「金かあ……。うちらが持ってる金渡しても無駄だよね」
「そういうのはユフィも受け取りづらいでしょう。そして焼け石に水です」
ティライザがジェミーに冷静に指摘する。
国家予算級の金を持っているわけがない。
「金ですか……商売でも始めますか」
アイリスがわりとまじめな様子で語る。
「今から商売やって国家予算規模の利益を出すとか、天才というレベルを超えてます」
「必要な金は莫大。やっぱ一攫千金かな。冒険者らしく」
ジェミーの発言に、ティライザが何かを思い出したようにはっとする。
「そういえば一つありましたね」
「なにが?」
「莫大な財宝がありそうなダンジョン。暗黒神殿です」
「え゛?」
俺は驚きの声を上げる。
「ああ、そういえばアシュタールさんは知らないんでしたね」
ティライザは暗黒神殿について語る。
魔王城をはるかに超える超最高難易度ダンジョンがあると。
魔王をはるかに超えた邪神。魔王軍を余裕で蹴散らせる邪神軍がいるという、伝説のダンジョンが。
しかし、なぜかそこはもぬけの殻であった。
変な奴が一人いただけだった。
宝物庫を見つけたのだが、そこにはガーディアンがいて突破できずに撤収。
うん知ってる。
誰が変な奴だ。
「そこの財宝なら期待できるんじゃないでしょうか」
うーん。
暗黒神殿にある財宝は莫大。
ただ、分散して保管してある。
そして財宝の大半は進入不可エリアにあるので、彼女らには見つけられない。
彼女らが見つけた宝物庫の財宝だけではまだ足りないだろう。
「よし、行きましょう!」
ユーフィリアが勢いよく立ち上がる。
「え? 今!?」
「善は急げと言いますしね」
アイリスも乗り気である。
「ちょっと落ち着けよ。前回は手も足も出ずに負けたんだろ?」
「正確に言えばやばそうだったので、さっさと撤退しただけです。戦いというのはやってみないとわかりません。気合、覚悟といったものは自分の戦闘能力にも大きく影響を与えます」
人類には宿敵がいる。
魔族という存在が。
ダンジョン探索はオマケ。
そこで命を懸けて戦うというのは避けるべき。
しかし、状況が変わった。
「つまり、命を懸けて挑むということか」
「そう、できれば協力してほしい」
ユーフィリアが頷く。
もちろんやっぱり無理だと判断すれば撤収も考えるだろう。
しかしこれまでとは危険度が段違い。
だから、いつものように気軽に誘っているのとは違う。
しかしなあ。
そこ俺の住処なんですよ。
自分のダンジョン攻略に協力するってのもどうかな。
俺が返事をせずに黙っていると、悩んでいると思ったのだろう。
「お願い」
ユーフィリアは俺の手を掴み、そして俺の眼を見て頼んだ。
「gふぉ、べpsろ(訳:おう、任せろ)」
俺はどきりとして、とっさにそう答えていた。
いや、答えれていないんだが。
「この人意外とチョロイですよね」
ティライザが小さくつぶやいたのを、俺の邪耳は聞き逃さなかった。
協力するといっても、俺がゴーレムを倒すとかそんなことはしない。
装備に関して手を貸そうと思っている。
これは元々考えていたこと。
最近の人類は、数が増えた分弱くなっていると思われる。
なぜそうなったかという考察はさておき、それを補う力が必要。
それを用意するので少し待ってもらうことになった。
座学が終わったあと、ジェミーに話しかける。
「アタシの新しい武器?」
ジェミーが自分の武器である斧を見る。
銘もない、変哲のない斧である。
バトルアックスという商品名はあるが。
「ああ。勇者パーティーの戦士が持つ武器にしては、ちょっと不足かなとおもってな」
「まあ、神剣リディルなんかには遠く及ばないですよね」
その斧はティライザが魔法で強化を担当している。
それを貶されて怒るかとも思ったが、そうでもないようだ。
伝説の武器に斧がないからな。
古代の神々は斧が嫌いだったのだ。
「そういうわけで斧を作ろうと思う」
「作るって、魔法で強化するんじゃないんですか?」
「それもするけど、元の斧から作る」
「鍛冶屋の心得があったんですか」
ティライザが胡散臭そうにしている。
「とりあえず用意してくるから待っててくれ」
そう言って俺は転移した。




