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4.そして学園へ

 勇者一行が玉座の間から去ると、俺はムクリと起き上がる。


「なにやってんですか」


 同時に爺やが転移して現れた。


「そういえば俺は前世で女の子が苦手だった。戦うことはおろか、話をすることすら困難だ」

「まさか完全無欠、最強無敵の邪神様にそのような弱点があったとは……」


 爺やも呆気(あっけ)に取られている。


「今日の所は引き分けで許してやろう」

「え!? 引き分けでしたか?」


 爺やが怪訝そうな顔をする。


「お互い実質ノーダメージ。時間切れで相手が引いていった。むしろ判定勝ちといっていいかもな」

「そ、そうですか……」


 爺やは反論する気も起きないようだ。完璧な理論だからな。


「ところでなんであいつらがこの玉座の間まで来れたんだ? 強さ的には絶対たどり着けないレベルだったぞ」


 あいつらでは家臣たちには到底勝てない。

 俺の疑問に呼応するかのように、15人の軍団長が転移して現れ、そして皆が平伏した。


「申し訳ございません」


 アドリゴリが謝罪する。15ある軍団のうち、第一軍団と第十三軍団が2強。リーダー格といえる。

 その二人が目線を合わせあって、「お前が言えよ」「いやお前が」と押し付けあっていた。


「せ、1000年で初めての来訪者ですので、我々が追い返してしまっては、アシュタール様が残念がるのではないかと愚考いたしまして」

「ほう」


 俺がジト目で見ると、第十三軍団長ジェコは目をそらす。


「という設定で何とかいこうとした次第でございます」


 おれの邪眼(イビルアイ)の圧力に負けたのか、アドリゴリがあっさり内幕をばらす。


「貴様! 裏切ったな!」


 ジェコが怒鳴るが、アドリゴリは平然としていた。


「つまりどういうことかな?」


 爺やが怒気を含んだ声で問うと、アドリゴリがさらに頭を低くして答えた。


「あ、あの者らを見ると、心の臓がバクバクと鳴り、体震えてしまったのです。相手の前に立ち、相対するようなことはとてもとても……。ゆえに完全に気配を立ち、後ろから見守るのが精一杯でした」

「それは止めとけ。変態扱いされるぞ」


 完全にストーカーである。前世ではやってはいけない行為の一つであった。

 女に慣れてない奴がやることが多いらしいが、間違いないな。


「ハハッ!以後気をつけます」


 俺が忠告するとアドリゴリはまじめ腐って答えた。


「ふむ……」


 爺やはアドリゴリの答えを聞いて、何やら考え込んだ。その後うんうんと頷く。推察が終わったのだ。


「私以外の邪神族は皆、アシュタール様誕生後に生まれたもの。アシュタール様によって生み出されたといってもよいのです」

「俺が何かした覚えはないが」


 俺が邪神になったときにいたのは、爺やただ一人だった。

 その後勝手にどんどん生まれてきたのだ。

 生まれたと言っても俺の体からでてきたとか、俺が卵を産んだとかそういうのではない。


 暗黒神殿のどこかで、気がつくと発生したのである。

 ゲーム風に言うとPOPしたということになる。

 ただ、ここ数百年は新たに発生していない。

 上限に達したのだろうか。


「邪神がいないと眷族も新たに発生しません。仕組みはよくわかってませんが、やはり繋がりはあるのでしょう。心の奥底、深層心理の部分で『女性が苦手』という意識を共有しているのかと」


 それが正しいとすると、爺や以外の邪神族約15000人全員が同じ弱点をもつことになる。

 それってやばくね?


 「由々しき事態ですな」「我らが女性に慣れればいいのか?」などといった感想が漏れ出る。

 しかし邪神族約15000人がいきなり地上に出て、女の子と会話をしようとがんばる世界など見たくはない。


「もう女性だけ皆殺しにするというのはどうか」


 割とぶっ飛んだ意見を出すのは第十三軍団長のジェコ。こいつ頭おかしいからね。


「馬鹿は黙ってろ。どうやって殺す気だ? 女性と話もできないやつが」

「誰が馬鹿だ!」


 アドリゴリに論破されると激怒する。この二人はライバル関係なのだ。


 そもそも女性全部殺したら人類は滅びるわけで。色々と論外である。

 色々な意見が出たが、結局俺が克服するしかない問題である。自分で何とかするしかないのだ。


「とりあえず神にいわれた条件は、初めての訪問者が来るまでは絶対に外出するな。つまり、一応勇者とは対峙したのですから、これからはもう少し自由に動くことが出来ますな」


 爺がなにやら思案顔である。俺は鷹揚(おうよう)と頷いた。


「女性への苦手意識を克服するにはやはり経験しかあるまい」

「はい、私に一つ妙案がございます」

「ほう、では任せる。そういえばあの者らは帰ったのか?」


 とりあえず爺やに考えがあるようなので、そこは任せることにした。

 俺の後半の問いにはジェコが答える。


「先ほどまでは城をうろついていたようです。そして宝物庫に向ったと」

「なに? そこもスルーパスなのか?」

「いえ、さすがに重要施設の警護はそのままです。ゴ-レムが守っているので、奴らには突破できぬかと」


 程なくゴーレムが勇者一行をボコボコにして追い返したという報告が入る。


「まあ正直1000年仕舞いっぱなしの宝なんて、盗られてもどうでもいいような気もするな」


 俺の正直な感想に爺やが首を振る。


「確かに我らにとっては大して重要なものではありません。しかしあれを手にすることができるのは、世界最高難易度ダンジョンである暗黒神殿を突き進み、ガーディアンを打ち倒した者のみです」

「突き進むだけなら簡単のようだが?」


 俺のツッコミを爺やは聞こえないふりをしたが、顔がひくついたのを俺は見逃さなかった。


「奴らもあのゴーレムによってこの神殿の恐ろしさを知ったでしょう」


 ジェコがそう励ますが、それはむしろ邪神族のふがいなさが際立っただけかもしれない。

 やはり精進するしかあるまい。

 俺は心に誓ったのだった。



*** ***



「何なんだよあの神殿はよ! あのゴーレム強すぎだろ」


 数日後のカンタブリッジ学園。朝、学園にやってくると教室でジェミーが毒づく。


「まだ言ってるんですか。実はあれが邪神なんですよ」


 ティライザがこの愚痴を聞くのは何度目だろうと指を数える。


「テキトーなこと言うなよ。それでも賢者か!」


 ジェミーに指摘されると、ティライザは少しむっとした。しかしその後目を細めながら話す。


「ほう。ではこの数日賢者が全力で考察した経緯を語ってもよいのですか?」

「いや、ちょっと待って、それは……」


 いけない。この話絶対長くなる。ジェミーはそう思ったが手遅れであった。自業自得である。


「いいえ、待ちません。いいですか……あれはおそらく、1000年の間に弱体しきっていたのです。1000年も生きる生物なんてそうそういません。家来たちはすでに死に絶えていたのでしょう。だから神殿はもぬけの殻であり、不死の魔法人形であるゴーレムのみが生き残った。それが宝物庫など、重要施設を守っていたのかと」


 あれ、思ったより短い。ジェミーは安堵したが、それは間違いであった。


「それとアイリスの故郷の村の伝承と照らし合わせてみたのですが……」


 だんだん違う話がずれていって、もはやジェミーには興味がない流れになっていった。


「なかなか面白そうな話をしているわね」


 ユーフィリアとアイリスが登校して来て、会話に加わる。


「ふーむ。弱っていたねえ……。そう考えるのが自然なのかしら」


 ユーフィリアはティライザに消極的ながらも賛同の意を示す。


「それはもうどうでもいいんじゃないか。それよりもあのゴーレムだよ」


 ジェミーがゴーレムの話題に触れると、ユーフィリアもいささか真剣な表情に戻る。


「あれは正直魔王より強かったですわね。しかも桁外れに」

「ゴーレムの強さは、素材と作ったものの魔力によります。素材も謎でしたが、作り手が桁違いの強さなのでしょう」


 ティライザは賢者として、魔法とその魔法を利用した手法に詳しい。


「今回の魔王は弱かった。そういう声は一部にありましたね」


 ユーフィリアの言葉にジェミーが頷く。


「正直(ひが)みやっかみで言われてると思ってたんだがなあ」


 ジェミーは魔王討伐には参加していない。この中ではユーフィリアとティライザの二人が参加者であった。

 しかし、あそこまで強い敵が実在するとなると、やはりそうなのかなと思ってしまう。

 それくらい衝撃的な強さのゴーレムであった。


「どうせ次の魔王がいつか現れます。それまで鍛えて、それも倒してしまえばよいのです」


 ユーフィリアが力強く宣言する。そのとき、チャイムが鳴った。ホームルームの時間である。


「お前ら席につけー」


 担任の教師が部屋に入ってくるなりそう命令する。


「今日からクラスの仲間が一人増える。転校生だ。おい、入って来い」


 担任に呼ばれて一人の少年が入ってきた。当然カンタブリッジ学園の制服を着て。


「はじめまして。アシュタールといいます」


 それは1000年の呪縛から解き放たれたもの――邪神アシュタールであった。

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