33.合同訓練②
開始の合図とともに、相手は俺を取り囲む。
「先日警告したはずだ。身の程をわきまえろと」
「これはそれを破った罰だ」
男たちはゲラゲラと笑う。
自分たちが優位だと疑っていない。
「ほう。身の程をわきまえていないと、どうなるというんだ?」
「こうなるんだよ!」
俺の言葉に応じ、一人が正面から剣で切りつけてくる。
背後からは槍で突こうとするものがいる。
だが俺が槍が当たる直前にさっと避けると、槍はそのまま正面の男の腹部を突いた。
「ぐええ」
仲間を突いてしまったことで、呆然としていた男を殴り飛ばす。
そして槍で突かれた男を掴んで遠くに投げ飛ばした。
救護班がいるところに。
彼らは慌てて治療を開始した。
「あいつ後ろに目でもついてるのか? 完璧なタイミングの回避だったぞ」
ギャラリーからそんな声が聞こえる。
イビルアイビジョン。まあどこでも見れるカメラを動かしているようなもの。
それで後ろを見ていた。
「Cクラスを倒した程度でいい気になるなよ! いけっ」
皆がわらわらと向ってくる。
さて、ここからが本番。
「はあああ」
俺は邪気を解放する。
といっても指輪の力で人気と感じれるそうだが、果たして。
「なに!? なんだこの気配は!」
「バケモンだ!」
む? やりすぎたか?
もしかして指輪の効果がなくて、邪気を感じてるとかじゃないだろうな。
それだと大失敗だぞ。
「ぐわああああああ」
「ぐはぁ」
「げぼぉ」
何しろ時間制限がある。
そんなことを考えている間にも、次々と掃除を済まさねばならない。
俺は雑魚の一人をでこピンで吹っ飛ばす。
殴って蹴って、次々と戦闘不能にしていく。
「ちいいいい」
彼らは距離を取り、魔法を唱える。
「ファイアーボール」
「サンダー」
「ウィンドカッター」
様々な魔法が飛んでくるが、俺はそれを避けない。
結界も発動させない。
魔法は俺の邪気に当たると、あっさりと消失。
「硬い。硬すぎる!」
「あの気の防御力を突破できない」
俺に手も足も出ず、唖然としている奴らを次々とKOしていった。
残り3人となったところで邪気を収める。
指輪の限界時間だ。
「すごい……!」
ユーフィリアが感嘆の声を上げる。
「実力を隠しているのはわかってましたが、ここまでとは……」
ティライザも驚きの表情を隠せない。
「何で隠す必要があったんだ?」
「それは個人の事情でしょうねえ……能力を他人に知らせたがらない人もいますし」
ジェミーの疑問にアイリスが答える。
残った3人はすでに戦意喪失。
これ以上続ける必要もないと思ったのだが、離れたところから声がかかる。
「無様な姿は見せるな! かかれ」
ヴィンゼントが歯ぎしりをしながら叫ぶ。
俺に痛い目にあう恐怖よりも、ヴィンゼントの怖さのほうが上回ったのだろう。
3人は覚悟を決めて俺に向ってくる。
だが――
俺より奴が怖いだと?
そう判断した3人を許せなかった。
だから殴った。かなり強く。
メキメキメキ、といった音を立て、体がおかしな方向に曲がる。
遠方のフェンスまで吹っ飛んでいき、激突。動かなくなる。
Aクラスの人間だから、死にはしないだろう。
なかなかに硬い。
それを見た残りの二人は顔を青ざめている。
何かを慌てて言おうとしていた。
だがそれが言葉になる前に、俺は動いていた。
残り二人を蹴り上げる。
数十メートルは舞い上がったであろう。
そして俺はその放物線の頂点で、動きが止まったところに魔法を――
「ストップ! ストップだアシュタール」
そこで教師が止めに入った。
俺はレビテーションの魔法を使い、落下してきた二人が地面に激突するのを抑えた。
その3人は重症だろう。
救護班の人が慌てて担架で運んでいった。
「すごい……なんだあいつ」
闘技場は歓声に包まれた。
「さすが勇者パーティーに入れただけのことはある」
「なるほど、セリーナ様が直々に推薦しただけのことはあったか」
などと、賞賛の声が漏れ聞こえてきた。
俺はそんな推薦で入ったことになってたのか。
「ふざけるな……こんな結果認めるもんか!」
ヴィンゼントがプルプルと震えている。
20人も家来を使って、公衆の面前でなぶる予定が全く逆の結果となった。
本人が戦ったわけではない。
しかしヴィンゼント自身もそんなに強いわけではなく、他人に戦わせるタイプだ。
その子分が完敗したということは、ヴィンゼントのプライドが許さないのだろう。
「じゃあお前が代わりにやるのか?」
俺がそういうと、ヴィンゼントは屈辱で顔を歪ませながら去っていった。
俺のところにいつもの4人が近寄ってくる。
「何でみんなこんなに盛り上がっているんだ?」
「ヴィンゼントの人柄のおかげですかね」
ティライザが淡々と述べる。
学園内でも多数の子分を従えて威張り散らしている。
教師ですら黙認状態のわがままやりたい放題。
そんな奴にほえ面をかかせたのだから、皆ざまあみろと思っている、ということらしい。
「この学園はいろんな国の人がいますが、まあスコットヤードが好きって人はあまりいませんしね」
俺は頷く。
大国で偉そうにしている奴は大体嫌われているもんだ。
もっとも、それを正面から言える奴はそうそういない。
ゆえに陰にこもるというわけだな。
「ところで俺の戦いなんだが……」
予想以上に大騒ぎされた。
これで邪気を感じられてたとかだったら、なんかもういろいろヤバイ。
「ああ、あの人気はすげーな」
ジェミーが素直に賞賛する。
人気と言い切った。
どうやら指輪はきちんと作動したらしい。
俺はホッと胸をなでおろす。
「もしかして姐さんクラスか?」
姐さんとは、4年前に魔王ラメレプトを倒した勇者、フィオナ・スペンサーのこと。
「その勇者の先輩はそんなに強いのか?」
「んー4人でかかって何とかってところかしらね。ああ、もちろんお互い神剣は無しでね。あれは威力が強すぎて模擬戦では使えないから」
ユーフィリアは少し考えて答えた。
神剣は人間はおろか、魔王よりはるかに上の者が本来持つべき武器。
人間なんかに向けたら全力防御していてもスパスパ切れてしまう。
「でもなんというか、つかみどころがない気配だったわね。人とはちょっと違うような……」
ユーフィリアが小首をかしげる。
うーん。完璧には偽装できてなかったのかな。
「だから姐さんとどっちが強いかは、やってみないとわからないかな」
「なかなか面白そうじゃない」
いきなり会話に割り込み、通路から出てきたのは鮮やかなピンクの髪をした人物。
ちょうど話題にでていたフィオナ・スペンサーその人であった。
面白そう、という割にはその顔に笑みは一切なく、その目は俺を警戒していた。




