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32.合同訓練①

 俺はカンタブリッジ学園の冒険者育成コースに通っている。

 俺の目的はそうではないが、他の者の目的は強くなることである。


 冒険者。

 冒険者ギルドで仕事を請け負うものたち。


 魔物退治、素材集め、護衛、ダンジョン探索など、様々である。

 戦争にも参加するし、ちょっとした依頼も引き受けたりする。

 何でも屋のようなものだ。


 人間の冒険者にはクラスというものがある。

 クラスによって、得意な武器、得意な魔法はちがう。

 ゆえに、鍛えるときは選択科目のようにバラバラに分かれる。


 各種武器を鍛える。魔法を鍛える。それ以外の研究をすることも可能だ。

 だから、皆が集まって一緒に鍛えたり、戦ったりする機会というのはあまりない。 


 今日はその珍しい日である。

 皆が一堂に会して、修行の成果を披露したり、模擬戦をする日。

 合同訓練。

 

 Aクラスだけではなく、他の冒険者クラスの者もいるようだ。

 集まった場所は昔の闘技場のようなつくりで、客席スタンドもついている。

 

「アシュタールは何をするの?」


 ユーフィリアがこちらに近づいてくる。


「何も予定はない。見てるだけでもいいのか?」

「んー。まあそういう人もいることはいるけどね。でもあなたの場合、編入してきて初でしょ。みんな実力を知りたがってるわ」

「この前の戦争のときも、どこで何してやがったんだか。全く見かけなかったな」


 ジェミーが斧を担ぎながらドスドスと歩く。


「いろんなところで大活躍してたさ」


 俺が雑な対応をすると、ティライザ目を細める。


「あ。そですか。一応戦力として考えていたのに、見つからないからこっちがえらい苦労しました」

「それはすまなかったな」


 そんな話をしていると、ヴィンゼントが優雅な足取りでやってくる。


「アシュタールくんちょっといいかな」

「なんだ?」

「模擬戦をしないかと思ってね」

「お前とか?」

「まさか。私の子分とだよ」


 ヴィンゼントは両手をあげて、たいそうなリアクションを取る。


「そうか。別にかまわないぞ」

「じゃあこれにサインしてくれ」


 ヴィンゼントが出した紙にサインをする。


「ちょ、ちょっと。条件見ないでサインしちゃだめよ。模擬戦と言っても色々あるんだから!」


 ユーフィリアが割り込んできて紙を奪う。


「やあ。ユーフィリア。今日もきれいだね」

「そういうお世辞はいらないわ。私たちは冒険者なのよ」


 ユーフィリアはにべもない。その紙を見てユーフィリアはわなわなと震える。


「1対20? これどういうことよ」

「彼は勇者パーティーの一員。このくらいでちょうどよいと思ったんだが」


 ヴィンゼントが肩をすくめる。


「Aクラスの人間もこんなにいて、ちょうどいいわけないでしょ!」

「殺し合いをするわけじゃない。危なくなったら審判が止めるさ」

「武器OKだと何が起こるかわからないじゃない」


 俺は熱くなっているユーフィリアの肩を掴んで制止する。


「ユーフィリア、大丈夫だよ。俺は素手だし、きちんと手加減するさ」


 俺の言葉でユーフィリアがきょとんとする。


「いや、今のはあなたが心配されてる側ですよ。20人になぶり殺しにされるんじゃないかと」


 ティライザが呆れて説明する。


「ああ、そっちか」


 俺は苦笑する。

 自分が心配されることなどこれまでなかった。

 ゆえにこういったケースには未だに慣れない。


「それなら心配いらない。大丈夫さ」

「フフフ……。なかなかいい度胸だ。ではまたあとで」


 ヴィンゼントが怪しい笑みを浮かべて去っていった。






 ユーフィリアが模擬戦の説明をする。

 いろんな条件があるらしいが、今回は武器あり魔法ありなんでもありのルール。

 

 もちろん殺すことは禁止だが、熱くなると何が起こるかわからない。

 教師が審判で、危ないと思ったら止めに入ることにはなっている。

 しかしそれが間に合う保証はない。


「本当に大丈夫?」


 ユーフィリアが何度も聞いてくる。


「そいつが無駄にタフなのはこの斧が知ってるさ。死ぬことはないだろ」


 ジェミーが斧に触りながら言う。


「その斧のほうはタフじゃなかったんですよねえ。修理するのに苦労しました」

「いや、あれは壁のほうが硬すぎたんだよ」


 先日その斧が壊れた。修理したティライザに小言を言われ、ジェミーはうろたえる。


 それをほほえましく見ながら、俺は昨晩のことを思い出していた。



 



 合同訓練前日の夜。

 暗黒神殿の一室。

 爺やに呼び出されて部屋に入った。


「なんだこの指輪は?」


 俺は新しく爺やに渡された指輪をまじまじと見る。


「邪気を抑える効果があるのは同じですが、今度は邪気を放出した際、多少なら人気(じんき)に偽装する効果があります」


 本気で戦闘をしようとすると、人なら人気(じんき)、魔族なら魔気、龍族なら龍気といったものがでる。

 その気によって、相手のすごさや、種族などがわかるようになっている。


 邪神族は当然邪気である。

 この邪気は人類にとっては未知の気配。

 

 邪気を出すと当然相手を必要以上に恐怖に陥れる。

 そしてお前は何者だよ、という疑問をもたれることになるわけだ。


 なので、俺は普段邪気を指輪のサポートによって0に抑えている。

 

 気が0なので、見た目だけで「まあこいつは人間だろ」と判断されている。

 さらに言えばこいつ弱そうだな、と思われているであろう。

 でも邪気が出せないので仕方がない。


「今まででも人には感じられないほどの短い時間。一瞬だけ邪気を出すといったことで色々対処していたとは思います。しかし、さすがに人間の世界で暮らすには不便でしょう。なのでひそかにこれを開発しておりました」


 こともなげに言う爺や。


「数秒、弱めの放出をするくらいなら指輪ももつはずです」

「弱めというと?」

「アシュタール様のフルパワーがどんなものかイマイチわかりませんからな。まあ3~5%程度でしょうか」

「そんな弱さをうまく調整できるかな」


 あまりに弱い力は調整しづらい。

 

「じゃあ1%でも。重要なのは人気(じんき)を出して、皆に人だと思わせることですから」

「それもそうか。早速明日使わせてもらおう」

「はい。合同訓練のギリギリ間に合ってホッとしました」


 俺はその指輪をはめて部屋を出たのだった。






 俺はその指輪を見つめている。

 これは多数の人に俺の人気(じんき)を見せるのにいい機会だ。

 

「アシュタールいるか?」


 合同訓練担当の教師に呼ばれる。

 どうやら俺の出番のようだ。


 闘技場の真ん中に行くと、周りがざわざわと騒ぎはじめる。


「なんだあれ? 20人を一人で相手にするつもりか?」

「だいじょうぶなの?」


 周りからそんな声が飛んだ。


「アシュタール。本当にこれでいいんだな?」

「ええ、問題ありません」

「武器は? 防具は?」

「不要です」

「そうか……そんなに自信があるならはじめるぞ」


 教師は俺に確認を取り、戦闘の合図をする。


「はじめ!」

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