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30.特別訓練②

 翌日。

 結局俺はアドリゴリを連れてブリトン王国首都ローダンに来ていた。

 どんよりとした曇り空の中、例によってオープンカフェで作戦会議である。


「いいですか。狙うのは暇な女性です。忙しい人に話しかけても無駄です。ウザがられます」


 俺はアドリゴリに頷く。

 それは昨日体験済みだ。

 

 だが、それを事前に理解しているとは思ったよりやるな。

 俺は少し期待し始めていた。


「それともう一つ、ターゲットの女性ですが、あの人を見てください」


 指差すとばれるので、アドリゴリは目線だけを向ける。


「かなりの美人だな」

「はい。あれはだめです」

「何がだめなんだ?」

「美人は男に声をかけられることに慣れています。しかも百戦錬磨の男に、です。初心者など軽くあしらわれてしまうでしょう」


 言ってることはわからないでもない。

 

「じゃあ――」

「だからといってブスもだめです。ブスは捻くれています。声をかけても『どうせ罰ゲームか何かでやってるんでしょ』といった感じで頑なです。もちろん懇切丁寧に解きほぐせばいけますが、ブスに必死になる邪神様など誰も見たくはありません」

「お、おう……」


 俺の発言を先読みしたかのように語るアドリゴリ。

 こやつできる。


「ゆえに、ねらい目はあのあたりとなります」


 アドリゴリの視線の先には、イマイチな女性が暇そうにしていた。


「うーん?」

「はい、まあ有体(ありてい)に言って中の下です。アシュタール様みたいなもんです」

「だれがチョイブサだ。俺は十人並だ」

「そう。あの子もそう思っています。自分はブサイクではない。並だと。確かに3段階評価だとギリギリ真ん中ですが、もう少し細かく分けていくと中の下。周りはみんなそう判断しています」


 こいつ結構ひどい事を言っているな。


「この認識の差を彼女は不思議に思っています。なかなか男は声をかけない。なんでだろうな~。男は見る目ないな~と思っています。だから、そんなのに声をかけると、あっさりいけます。ヤレます」


 何をやるのかはよくわからない。

 俺は会話ができれば十分なんだが。


「そういうわけでいってみましょう」


 背中を押され、俺はその女性に声をかけた。


「やあ。今暇?」


 フランクにいったのはアドリゴリのアドバイスによるもの。「あの~」とか「すいません」といくのはあまりよくないそうだ。


「あー。うん、ちょっと友達がこれなくなって時間が空いちゃってさあ」


 少女は笑顔で応じた。おお、すごい反応がいい。

 アドリゴリすげえ。


 ……

 で、こっからですよ。

 だから何を話せというのか。


 まあこういうときはお助けカードに頼るしかない。

 お願いしますアドリゴリさん!




 1.今日はまだそこまで暑くないですね


 2.曇っていますね


 3.夕方から雨が降るかもしれませんね




 だから何で天気の話題なんだよ! 

 そんなんで女性の興味を引けるわけないだろ。


 俺は両手の指をくるくると回す。選択肢をチェンジしろという合図だ。


 慌ててアドリゴリが次のメモ用紙を出す。




 1.爪がきれいですね


 2.きれいなバッグですね




 褒めるとこがないときに、とりあえず褒める2大ポイントじゃねーか!


「tぎ、ぽgmふぇえdぉm(つ、爪がきれいですね)」

「あっ。ちょっと用事思い出したのでまたね……」


 先ほどの笑顔が吹き飛び、引きつった顔で答えて少女は去っていった。






 これでもジェコよりはマシ、ということで即クビにはしない。

 再度作戦会議である。


「なるほど、ああいう場面で頭が真っ白になってフリーズしてしまうのですね」

「まあそうだな」


 まあ真っ白にならなくても、何を言えばいいの今でもわかってないけど。


「ではいっそ、言う言葉を決め打ちしたほうがいいかもしれませんね」

「でもそれだと何の訓練にもなってないな」

「確かにそうですね。では……私が手本を見せるというのはいかがでしょうか」

「うーん」


 手本なんて見ても仕方がない気がする。

 それに発想がジェコと同じなことに俺は苦笑する。


「まあやってみろ」

「かしこまりました」


 むしろアドリゴリをチェックする意味でやらせてみることにした。



 アドリゴリもジェコと同じく20代前半の若者の姿。

 金髪で、彼の基準で言うなら中の上くらいの顔つき。

 生真面目さが顔にも出ている。

 

 まあ顔で門前払いをくらうことはないだろう。

 アドリゴリは女性に声をかけ、うまいこと二人でショッピングに行くことに成功した。

 その後ドレスを買い、アクセサリーを買い、お金を払って別れた。


「どうですか?」


 自信満々に帰ってきたアドリゴリ。


「カモられただけじゃねーか!」

「ハッ!?」


 アドリゴリは冷静になって自分のしたことを振り返る。


「ハウツー本をいくつも読み、女性の心理に関する本も読み漁ったこの俺が貢がされただと!」


 本読んだだけでできるようになったと思うタイプ。

 意識高い系だったか。

 現実はそんなに甘くはなかった。


「しかも連絡先すら聞き出せなかった。こ、こんなこと許されるわけがない。やはり女は殴って言うことを聞かせるべきだ」

「こいつもアカン」


 結論がジェコと同じになった。

 当然のことながら禁止にした。






 俺の中ではいい経験をした、で終わってもよかったんだが、アドリゴリはまだ続けたいようだ。


「ではこれはどうでしょう。二人に声をかけて、2対2で話をするというのは」

「確かに1対1よりは気楽だな」

「では早速二人組みに声をかけてきます。お待ちください」


「フー」


 俺は精神統一して心を落ち着ける。

 目を瞑っている俺にアドリゴリの声が入ってきた。

 二人の女性の声も聞こえる。


「よかったらちょっとお茶でもしない。ちょうどこっちも二人なんだ」

「あー。ごめんそういうの間にあってるんで」

「まあまあ、そんなこといわないで、すぐそこだから。ほらあそこに連れが席確保して待ってるからさ」

「あっ」


 ん? なんかこの声聞き覚えないか?


 俺は目を開いてそちらを見る。

 Tシャツにホットパンツの大柄の女性。もう一人の小さな娘はワンピースを着ていた。

 その二人には見覚えがあった。


「何やってんですか」


 半眼になりながらティライザがつぶやいた。当然大柄の女性はジェミーである。

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