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29.特別訓練①

 あの戦争から数日が経ち、町の多くの店は営業を再開している。

 俺は繁華街にあるオープンカフェで食事を取りつつ、ジェコと戦略を練っていた。


「まだまだ復興で忙しい中、のほほんと歩いている女の多いことよ。さあ、どれにいきますか?」


 ジェコの言葉にはなんかトゲがあるな。

 こいつも俺の影響を受けて歪んでしまったのだろう。


 適当に大人しそうな人に行ってみよう。


「あの、すいません、ちょっと時間よろしいですか?」

「ごめんなさい急いでるので」


 だめだった。

 早足で歩いてる人に行ってもだめに決まってるわ。


「忙しい人に話しかけてもだめということですな。ならあの人はどうです? 店を色々見ながらゆっくり歩いています」


 十代後半で、楽しそうにショッピングをしている女性。

 どう見ても暇そうだ。行ってみよう。


「あのーすいません」

「あ、はい。なんでしょう」


 あちらは立ち止まって話を聞く体制に入る。

 よし、この子はいける!


 ……。

 はい?

 ここからどうすればいいんだ?


 いやわかってるよ。

 会話するんだよ。

 でも何話せばいいのかわからない。


 思い出せ。

 俺は1000年以上生きた経験があるんだ。


 でもほとんどの期間引きこもりでしたわ。

 

 おちつけ。

 こういうときのためにヘルプカードを用意していたんだ。


 俺はジェコを見る。

 ジェコは頷き、小さなメモ用紙をこちらに向けた。

 この距離では人間には見えないだろう。


 だが俺には邪眼(イビルアイ)がある。

 このためにある。

 

 こういうときは3択にするに限る。

 選択肢があるほうがわかりやすい。




 1.今日はいい天気ですね


 2.最近暑いですね


 3.明日も暑くなるらしいですよ




 なんで全部天気の話題なんだよ!

 特に話すことないけど、場つなぎのために出す当たり障りのない話題ナンバー1じゃねえか。


「gl、くぁfおへbmpでみょm(きょ、今日はいい天気ですね……」

「? す、すいません失礼します」


 その女性は変な奴を見るような目で去っていった。

 このような状況で平静でいられるわけがなく、俺の言葉は通じなかった。

 俺はとぼとぼとオープンカフェに戻って椅子に座った。






「だめでしたか……」


 ジェコが残念がる。


「おい、なんなんだそのカードは!」

「どんな相手と話すかわからない以上、どんな状況にでも対応できる選択肢を用意したのですが……」


 どんな状況でも対応はできるだろうが、何も生み出さなかったら意味ないだろ。

 いきなり知らない人に話しかけられて、天気の話題なんてされても困る。


「クビだな」

「ちょ、ちょっと早くないですか!?」

「お前のサポートから可能性を感じない」


 ジェコはうなだれたが、そのあと気を取り直してこちらを見る。


「では私にやらせてみてください」

「ほう、じゃあやってみろ」


 俺は大して期待していないが、とりあえずやらせてみることにした。






「おい」

「あ、はいなんですか?」


 ジェコは暇そうにしている少女に話しかけた。

 「おい」はだめだろう。この段階でイエローカードだ。


「暇か」

「ええ、今はそうですけど……」

「じゃあ俺について来い」


 ジェコは少女の手を掴む。


「え、いきなりなんですか。放してください!」


 当然少女は抵抗する。


「チッ。騒ぐんじゃねえよ」

「ちょっと、誰か、誰かぁ!」

「ギャーギャーうるせえ女だな。歯ぁ食いしばれ!」


 ジェコが手を振り上げた。


「お前が食いしばれぇ!」

「ブホォ!」


 俺のアッパーカットにより、ジェコは空に放物線を描き、頭から地面に突っ込んだ。


「お嬢さん失礼しました」


 そう言ってそそくさとジェコをつれて逃げ出した。






 俺たちはとりあえず、冒険者ギルドの食事処に避難した。

 現場から近かったのだ。

 そこで事情聴取を開始する。


「なんだあの態度は」

「私なり解決策です」

「なんの?」

「女性が苦手ということのです」


 解決しているようには見えないが。

 俺が首をかしげると、ジェコが自信満々に言い放つ。


「女なんてクソだ。女なんて嫌いだ。女なんて殴っていうことを聞かせてしまえばいい。そう考えると自然と克服できました」

「アカン」


 この危険思想のキチガイを野に放っていたことに愕然とする。


「それを実行したことは?」

「ありません。一度やろうとしたのですが、エウリアス様に止められてしまいました」


 よくやった爺や。優秀すぎる。


「とりあえず女の子には暴力禁止ね。これ絶対命令だからね」

「そ、そんな……。それじゃあどうやって言うことを聞かせればいいのかわかりません」

「頼むとか、対価を払うとか、説得するとかだ」

「わ、わかりました」


 ジェコはなんかシュンとしてる。


「何かすごい危ない話をしていませんか?」


 俺を見つけたオーレッタが、いそいそと近づいてくる。


「こ、この方は?」


 ジェコは目がキョロキョロと動いて挙動不審である。

 仮面を剥がされてしまうと、もろかったということだな。

 でもあの危険思想を放置しておくわけにもいかない。

 

 元の世界でもDVする男性は依存症だったり、精神的に問題がある人が多いんだったか。


 ジェコとオーレッタのことをお互い紹介しておく。


「な、なるほど人間の協力者ですか。よろしくお願いします」


 ジェコが頭を下げた。


「女性に慣れるための話でしたら私がいつでもしますのに」

「知らない女性と話す修行だ。慣れてる女性とはだいたい大丈夫になったんでな」

「それって人見知りなんじゃ……」


 オーレッタに言われてふと気付く。


「そういう要素もあるのかもしれないな」


 オーレッタとしばらく話をして、俺は暗黒神殿に戻った。







 暗黒神殿に戻ると、アドリゴリが待ちかねていたようにそばによってくる。


「いかかでしたか?」

「だめだな。ジェコはクビだ」

「やはり……。次は私めをご指名ください」


 俺は自信満々のアドリゴリをちらりと見る。


 こいつも女が苦手なのは間違いない。

 何で自信満々なのか?

 

 これも逆に怪しい。

 確認する必要があるかもな。


「……考えておこう」


 そう答えて俺は休むことにした。

 肉体は一切疲れていないが、精神的に疲れていた。

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