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28.邪神会議

 邪神会議。


 邪神族が定期的に行っている会議である。

 邪神族の幹部が一堂に会する。


 場所は広めの円卓がある会議室。


 そこにいるのはまず邪神である俺、アシュタール。

 実質ナンバー2。お目付け役であるエウリアス。

 俺は爺やと呼んでいる。


 そして15の邪神軍軍団長であった。


「では今月の標語は『安全第一』ということでお願いします」


 爺やがそう締めくくった。


「我々の安全が脅かされることなんてあるのか……?」


 邪神軍第一軍団長アドリゴリが疑問を呈する。


「あるだろ。主にアシュタール様との特訓のとき」

「ああ、確かにあったな」


 第十一軍団長イスティムに指摘され、アドリゴリは苦笑する。


「だが今回の作業には関係なかろう」


 なぜ安全第一になったか?


 土木工事をするからだ。

 先日壊れた暗黒神殿の景観。

 

 それを直す工事をするので、じゃあ標語は『安全第一』だろってなった。

 いや、俺がそうした。


 土木工事は危ないんだ。人間ならな。

 邪神族にはわからないだろうが。

 安全第一は工事の鉄則である。


「暗黒神殿周辺の災害復旧工事の担当は第十一軍団長イスティム殿」

「はっ。お任せください」


 爺やの言葉に明朗な返事をして、イスティムは頭を下げる。


「誰が災害やねん」


 俺がつっこむと、15の軍団長が俺を指した。


「うっ」


 さすがに全員に無言で指されると俺も言葉がない。


「吹っ飛んだ地形を復旧するには大量の土が必要なんですよねえ」


 イスティムは今後の計画についての相談を行う。


「人間界からもってくるよりあるまい」


 アドリゴリが言う通りなんだが、これもなかなかめんどくさい。

 ワープの魔法は、自分だけのワープだとそこまで消耗しない。

 

 しかし、それ以外の人、物を運ぼうとすると一気に跳ね上がる。

 重さ、体積が大きければ大きいほど消耗する。


 そして土砂は当然重い。

 なかなかにめんどくさい仕事である。


「土はブリトリア大陸の東。山岳地帯から取ってくるしかあるまい」


 山奥で工事するので、人に見つかる危険性は小さい。

 しかし万が一見つかった場合の工作が必要であった。


 それらを話し合って会議を締めくくった。






「そういえば、アシュタール様はこれからどうなさるおつもりで?」


 落ち着いたところで爺やが聞いてくる。


「俺の予定は決まっている。修行だ」


 俺が宣言すると、15のティーカップがガチャリと音を立てる。

 コーヒーをこぼすものも出た。


「次の担当は誰だったか?」 

「わ、私です……」


 イスティムがカップをガタガタと震わせながら答える。


「ご安心召されよ。これは武者震いでありますれば」


 14の視線を受けてイスティムは答えたが、他の軍団長は全く信用しなかった。


「ああ、違う違う。とりあえず体を鍛えるのは後回しだ。俺には最優先課題がある」


 俺には弱点がある。

 女が苦手だ。

 1000年気付かなかったが、邪神になって初めて女に会ったときにひどい醜態を晒した。


 それを克服するために、ブリトン王国の王都ローダンにある学園に通っている。

 カンタブリッジ学園といい、冒険者の他、様々な人材を育成していた。



「そちらのほうは学園に通うことで、順調に改善していると聞き及んでおりますが」


 アドリゴリが控えめに述べる。


「それはそうなんだが、いくつか問題があってな。やはり想像を越えた事態に遭遇するとだめなんだ」

「ありとあらゆる場面に対処してこそ一流。それは問題ですな」


 アドリゴリがまじめ腐って答える。


「そもそもアシュタール様はなぜ女性が苦手なのですか?」

「難しい質問だな。知っての通り、俺には前世の記憶がある。前世のうちからこの言葉が喋れなくなる癖はあった」


 俺は女性と話そうとすると、噛んだり声が裏返ったりすることがある。

 その結果何を言ってるのかわからない謎言語になるのだ。


「きっかけはよく覚えてないな。とにかくこの特徴のせいで女性にも相手にされないし、ひどい目にもあった」


 その言葉を聞いて第十三軍団長のジェコが目を光らせる。


「そのクソ女どもには鉄槌を下すべきです」

「よし、お前は異世界に行ってきていいぞ。帰って来れないだろうけど」

「なんだと!」


 アドリゴリとジェコが口論を始めたが無視しよう。

 この二人は仲が悪いのでいつもこうだ。


「それで、現状の何に問題が? 順調に改善しているかと思われますが」


 爺やが聞く。


「それは知り合いだけなんじゃないかとおもってな。気心が知れればそれだけ話しやすくなる」

「確かに知らない女性と平然と話せて、やっと克服できたといえるかもしれませんな」


 爺やは頷く。


「では、人間の女を100人ほどさらってきましょうか?」

「止めろ」


 ジェコの発想はなんかおかしい。


「会話をするだけならこちらから行けばいいだろう。街中で声をかければよい」

「それってナン……」


 第五軍団長ガレスがなんかつぶやいたが、よく聞き取れなかった。


「一人でやるおつもりですか?」


 アドリゴリに問われ、ふと考える。


「一人はなんか心細いな……」


 なんだろうこの感覚。

 俺は邪神。

 

 魔王をラスボスとするならば、魔王のはるか向こう側にいる存在。

 通称裏ボス。


 この間も身の程をわきまえない魔元帥とかいう雑魚をぶち殺した。

 

 そんな俺には恐れるものなど何もなかったはずなのに。


「では私をお連れください」


 ジェコが立ち上がって胸に手を当てる。


「こいつを連れて行っても役に立つかどうか……」


 アドリゴリがジェコを睨みつける。


「しかし大都市で活動する邪神をむやみに増やすのもどうかな」

「では私めが」


 爺やが待ってましたとばかりに名乗り出る。

 しかし今回はダメだ。


「却下だ。爺やを連れて行っては何の特訓にもならん。仕方ないな。ジェコでいいか」


 俺とジェコは他人という設定だったが、すでに会って話をしたところを見られもした。

 その後意気投合したということでいいだろう。


 俺とジェコはローダンに飛んだ。

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