26.邪神VS魔元帥②
約3万の黒き翼に囲まれた魔族たちは、動揺を隠せない。
「ちい。卑劣なり。罠か」
フメレスのその言葉が俺の癪に障る。
「何が罠なんだ? お前たちを殺すのにこんな軍勢などいらない。あくまで見せただけだ」
こいつらも出番がないとかわいそうだからな。
「何なら1対1で相手をしてやってもいいぞ。おいゲンテロル」
俺は一人の家臣を指名した。名を呼ばれたその邪神族は俺のそばに降りてきて跪く。
「相手をしてやれ」
「かしこまりました」
ゲンテロルの声は無駄に高かった。
「こいつに勝てたら元の世界に帰してやろう。ナンバー2を出すがいい」
「では俺がいこう」
俺の言葉に応じたのはおそらく高位魔族の最後の1体。
二人の戦いはあっけなく終わった。魔族はゲンテロルに切り刻まれて動かなくなる。
「馬鹿な……。我が軍ナンバー2が……」
「こんなのがナンバー2ですか」
ゲンテロルがあざ笑う。
「貴様だってナンバー2なんだろうが。そうなんだろう?」
「いいえ。私は下っ端ですが」
「そんなまさか……。こやつは魔王並に強いのだぞ」
俺は愕然としているフメレスに話しかける。
「邪神軍は皆魔王並に強い」
「そんな軍隊ありえるわけがない!」
「目の前にある事実を認めるんだな」
フメレスはプルプルと震えていた。
そのあと狂ったように俺を切りつけてくる。
「なぜだなぜだなぜだなぜだ。かつて我らの足元にも及ばなかった人間が、この武器を使うだけで我らを倒したのだ。なぜお前は倒れない!」
装備にはアイテムレベルという概念がある。
どのレベルの者が持つのがふさわしいか、というのをあらわしているそうだ。
100なら100レベルのものが持つのがふさわしいということ。
リディルやクラウ・ソラスといった伝説の武器は、人間はおろか、魔王よりもはるかに上の者が持つ武器だった。
それを人間が使うことでなんとか勝利したということだ。
しかしそんな武器でも、俺を切るにはレベルが足りない。圧倒的に。
俺はおもむろに動き、その剣を弾き飛ばした。
フメレスは一瞬それを目で追った。
俺はフメレスを殴り飛ばす。
「吹っ飛んだ武器に意識がいくのは未熟なんじゃなかったのか?」
俺は笑う。
「なぜお前は我を襲う。お前は我らの上に立つものじゃないのか!」
もしかすると、それは遠まわしの命乞いなのかもしれない。
好戦的で凶暴で残忍。自分の命に対する執着が薄く、本来なら命乞いなどしない種族。
だが、あまりの力の差に、抵抗する無意味さを悟ったのだろう。
「俺たちはお前らの上になどいない。俺はお前の主ではない。いっただろう。はるか向こう側にいるのだと」
上下関係などない。家来でもなんでもない。
「なぜかといわれれば俺が居た町に攻撃してきたからだよ。ついてなかったな。1000年で初めてのことだ」
「そんな。そんな理由で!」
「ああ、あともう一つあった。貴様は絶対にしてはいけないことをした。我々の役目を奪ったのだ」
邪神族が本来やるはずだった、神に命じられたシチュエーション。
人々を恐怖のどん底に陥れること。
それをきっちりやったフメルス。
それを絶対に許すことはできない!
「だから、消え去れ!」
俺は全身全霊を込めて邪気を放つ。
「はああああああああああああああああ」
その俺を見て、邪神族の家来たちがざわめく。
「あれは多重魔方陣!」
「避難しろ。巻き込まれるぞーー」
邪神族は一目散に逃げていく。
――多重魔法陣。
魔法陣とは平面である。
威力を、効果を大きくしたければ、大きい魔法陣を描けばいい。
他に方法はないのか?
あった。
X軸とY軸にとらわれない世界。
Z軸の世界。
それはインテグラルな世界。
魔法陣を無数に重ねて立体の魔法陣を作る。
聞けば誰もが答えるだろう。画期的だと。
見れば誰もが感じるだろう。桁違いだと。
知れば誰もが思うだろう――次元が違うと。
立体となった魔法陣は一つの形を成す。
魔法陣は触れない。だが間違いなく力を及ぼすものであった。
それは一つの巨大な銃。
数十メートルもある巨大な立体魔法陣であった。
「まずい。あれは!」
「邪属性最上位魔法」
「射線上から逃げろ! あたったら死ぬぞ」
「ガレス殿はこっちに来ないでください。攻撃がきそう」
魔王より強いとされる邪神族が逃げ惑う。
「なんだこれは、何がどうなっている!」
もはや魔族たちは呆然と立ち尽くしていた。
まるで死刑執行を待っているかのように。
そんな中、俺の後ろに控えていたアドリゴリがポツリとつぶやく。
「第二魔災にて、オールド・トランフォード山を大粉砕せし極大破滅光線」
アドリゴリに応じるかのように、俺はその魔法を口にする。
「アポカリプス!」
俺がその言葉を発すると同時に、銃からは邪なるレーザーが発射された。
その巨大なレーザーは地面をえぐり、山々を砕いた。
はるか彼方まで続くは地面がえぐれた跡。
フメレスもその家来も、すべてが消滅していた。




