24.王都篭城戦③
「何……あれ……」
ティライザは口をあけて上空を見上げていた。
空に浮かぶは謎の巨大兵器。
そこから降り注ぐ光の矢を見てティライザは叫ぶ。
「伏せて!」
皆が伏せるがそれは不要な動作であった。
しかしそれは敵のみに向っていったのだから。
「今のは味方の攻撃なのか?」
ジェミーが起き上がる。
「こんな魔法見たことがない」
アイリスが見たことがないのは当然である。
4精霊属性――火でもない、水でもない。土でも風でもない。
光、闇属性でもない。
7つ目の属性。邪属性魔法。
人間には未知の属性。
そして、それは魔族にとっても同様。
「なんだ今のは? あぶねえ」
彼女らの目の前の高位魔族は、その矢をすんでのところで避けた。
空を見上げるが、立体魔法陣はすでに消えていた。
「まあいい。とりあえず貴様らは殺すまでだ」
魔族が3人と間合いをつめようとする。
3人はジリジリと後退。劣勢であった。
「ぐわはぁ!」
その高位魔族はジェコの体当たりよって吹き飛ぶ。
魔族はいくつもの建物を突き破って、やっと止まる。
その建物が次々と崩壊した。
3人はこれを好機とばかりに撤退していった。
「魔法で強化していると聞いていたが、思ったより柔な建物だったな。まあ仕方あるまい」
「てめえ、何もんだ?」
高位魔族は瓦礫の中から起き上あがる。
「その質問には答えられない。答える権利がない」
「何を言ってやがる!」
高位魔族は怒りに任せてジェコに突撃していく。
「死ねやあああああああ」
その言葉が魔族最後の言葉であった。
魔族が鎌を振り上げた瞬間。
ジェコは刀を抜く。
「それに、死に行く者に言っても意味がない」
その声は魔族の背後から聞こえた。
魔族は目に追えぬ速さで一刀両断されていた。
カチッ。
ジェコは刀を鞘にしまう。
「あと1体」
ジェコの姿はまたも闇へと消えていった。
「まさかこれほど手こずるなんて……」
フィオナは内心焦っていた。
勇者たる自分が、クラウ・ソラスを持つ自分が1体の高位魔族と決着を付けれずにいた。
すでに敗勢であると悟っていたが、その後いくつかよくわからない現象が起きる。
何がどうなったのか、形勢は?
そういった疑問を押さえ込み、目の前の高位魔族に専念する。
「それはこちらのセリフよ」
さすがに神剣は警戒せざるをえず、高位魔族もなかなか攻撃できずにいたのである。
「だがいい加減、決着を付け――ブフォアッ」
高位魔族はいきなり空高く舞い上がった。
目にも留まらぬ速さで魔族に接近した、ジェコの蹴りによって吹き飛ばされたのだ。
「イビルバースト」
邪属性の大爆発が首都ローダンの上空で発生する。
空中に飛ばされた高位魔族は消し飛んでいた。
「何今の……? あなた……だれ」
フィオナが警戒しながら問う。
「しまった。人がいたのか」
ジェコは困惑した。
「こういうときはどうすればいいのか、指示を受けていない」
ジェコは頭を悩ませる。
「なにこいつ……話が通じない」
「そうか。消せばいいのか」
ジェコの言葉にフィオナが思わず後ずさりする。
ジェコの気配は邪気。
人類には未知の気配。
未知は恐怖。
その恐怖に押され、フィオナは自分から仕掛けた。
「せやあああああ」
クラウ・ソラスでジェコに切りかかる。
ジェコはそれを素手で受け止めた。
そのまま剣を掴む。
「そんな! 素手で止められるなんて!」
フィオナは驚愕で目を見開く。
「いたたたたた。ずいぶん鋭い剣だなと思ったらクラウ・ソラスか。懐かしい」
ジェコの手はパックリと割れていた。
しかしそれはすぐさま再生していく。
「何が懐かしいというの? この剣は第四魔災以降、ずっと勇者が引き継いできたものよ」
「だから懐かしいと言ったのだよ。長々と語っても仕方がない。死んでもらお――」
そのジェコがフィオナの目の前から消えた。
錐揉み状に回転していきながら吹っ飛んでいた。
そして頭から地面に激突し、ピクピクと震えている。
「失礼。お嬢さん、怪我はないかな?」
一人の紳士的な若い男性が声をかける。
「は、はい。今の奴は?」
「おや、なんのことかな?」
「そこで倒れて震えている奴――ってあれ? いない」
ジェコは音もなく消え去っていた。
「幻影でも見たのじゃないかな。それより先ほど勇者様が倒れて城に担ぎこまれたそうだよ」
「えっ。ユフィが? ありがとうございます」
フィオナは礼をして、あわてて城に向かっていった。
「申し訳ございません」
フィオナがいなくなったのを確認後、ジェコが現れ謝罪する。
「彼女は勇者の一人。むやみに殺すなどという考えはやめなさい」
「私の戦う姿を見られてしまいましたので……」
「人間が邪気を解放した我々と、普段の我々を同一人物だを判断するのは困難」
「服装が……」
「ええ、そうですね。よくある作業着ですが、カンタブリッジ学園の刺繍がついています」
エウリアスはため息をつく。
「なぜその服を着てきたのか……」
「すいません、何も考えずにいつもの服を選びました」
ジェコは謝罪しつつも、ふと気付いたことがあり、反論する。
「アシュタール様も制服でしたよ!」
「あの方が戦ってる動きは人間には捉えることができません。それにバレないように戦うこともできます。今回ははるか上空で立体魔法陣を使っただけ。あとは街の外での決闘。問題ありません」
最初の邪気開放時も周りに人がいないのは確認済みである。
「エウリアス様は珍しくタキシードでもスーツでもない、ラフな格好をしていらっしゃいますものね」
「慣れていないので、実は恥ずかしいのですがね」
エウリアスは自分の姿を見る。
若者らしい派手な柄のシャツを。
こんな服を着るのは初めてのことだ。
エウリアスはそのまま歩き出す。
「いずこへ?」
ジェコが問う。
「後始末です。我々のやったことを隠すのです」
「え、こんな暴れて隠せるんですか?」
ジェコには理解できない。
「逆に聞きますが、今日の事を人間たちはどう判断するのですか?」
「えっと、我々邪神族が……」
「人間は邪神のことなど知りません」
だから、これは邪神族の仕業だと、いきなり考えることはない。
「しかし、間違いなく見たはずですよ。あの圧倒的な力を。そして邪気を」
「誰も何も言わなければ、もうすごい議論が巻き起こるでしょうね。一体誰が、どうやったと」
「は、はあ……」
ジェコは話についていけなくなっていた。
「じゃあ、我々が先に結論を提示しましょう。とある方がやったと」
「え、アシュタール様のことをみなに教えるのですか?」
「それでは本末転倒。この方がやったといえば、皆が納得する。そういう人物がいるでしょう。我々の近くに」
「いましたっけ?」
ジェコの鈍さにエウリアスは苦笑する。
アシュタールであればそろそろ切れているであろう。
「50年前にそれ以上のことをやった方がいます。その人がやったと言えば、ほとんどの人は疑わないでしょう」
ジェコは首をかしげながらうなずいた。
わかってないけど、めんどくさくなって分かったふりをしているのだ。
アシュタールが見ればぶん殴ってていただろうが、エウリアスはそんなことはしなかった。
ただため息をついたのみである。
「そのうちそれが完全なる事実になります。我々にはそれで十分」
彼女はまた人間として暮らしにくくなる。
迷惑をかけることを申し訳ないとは思いつつも、エウリアスは学園へと向ったのだった。