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23.王都篭城戦②

 昼下がりの時刻。10万の軍勢がやってきた。

 敵の多くは疲れを知らない魔法生物や死霊。

 休憩を取ることなくそのまま攻撃を開始した。

 

 4方の門付近で激しい戦闘が行われる。

 防衛側は門を壊そうとするゴーレムに弓と魔法を浴びせた。


 味方は防壁の上にいる。被害などほとんどない。

 だが、その戦況が一変する。

 

 空から敵が襲い掛かってきたのだ。

 魔族を中心とした部隊。


 魔族は空を自由に動き回りながら魔法で攻撃。

 弓隊や魔道士隊はそれほど広くない防壁の上からの応戦。


 どちらが有利かなど自明であった。

 しぶとく抵抗をしていたが、一人、また一人と倒れていった。


 空に浮かぶ魔族たちに攻撃する術がなくなると、魔族たちは街中を蹂躙(じゅうりん)し始める。


 すべての人を王城などに収容できたわけではない。

 入れなかった人は、少なからず魔族の餌食となった。


「くそ。数が多すぎる!」


 ジェミーが斧をふるい、魔族を倒していく。

 街中では乱戦になっていた。

 各地で争う音が聞こえてくる。


「私たちの担当は高位魔族。実質魔王と戦うつもりでいてください」


 ティライザが首を振って空を見ている。高位魔族を探しているのだ。


「ユーフィリアさんなしでですか……」


 アイリスが心細げにつぶやく。ユーフィリアは何か用があるのだろう。合流できなかった。


「うわああああああ。なんだこいつ強すぎる!」


 近くで叫び声が聞こえる。

 3人はそちらに向かっていった。


「あのときの小娘たちか。一人足りないようだが」


 悲鳴がした場所にいたのは高位魔族。

 

「あなたは私たちが倒す」


 ティライザは杖を構え、魔法を放った。

 その魔法は魔族にはたいしたダメージを与えていない。


「勇者なし。神剣なしでは無理だ。貴様らは俺が食ってやろう」


 醜悪な笑みを浮かべると、高位魔族は3人へと襲い掛かった。






 ユーフィリアは街中での乱戦の指揮を取っていた。

 時には自分が直接剣を交え、魔族を倒す。


 劣勢なのは明白であった。

 そこに騎士団長ゴードルフがやってきた。

 彼は血まみれではあったが、しっかりとした足取りでユーフィリアに近づく。

 返り血か、もしくは傷は回復魔法で治したのであろう。


「なぜあなたがここに? 防壁の指揮はどうしたの」


 ユーフィリアが眉をひそめる。


「到底もちません。王族以下、一部の方を逃す作戦に移行したいと思います」


 ゴードルフは顔を近づけて、小さな声で話す。

 ユーフィリアの顔色がさらに悪くなる。


 全員をワープさせれるわけではない。

 今のうちに城から逃げれるだけ逃がそうというのだ。


「そこまでひどいの?」

「高位魔族が門をあけようとしまして。それはわれわれが協力して討ち取ったのですが、こちらの損害は甚大です」


 戦闘開始から数時間。今は夕暮れ時。

 このペースでやられているようでは、門を開けられるのは時間の問題。

 明日までも持たないだろうということだ。

 

 そもそも敵の多くは魔法生物。体力切れとかそういったことがない。

 いつまでこの戦闘が続くのかすら不明であった。

 

「ユーフィリア殿下もウォーリックにお集まりください」


 そう告げると、ゴードルフは王城に向かっていった。

 





 篭城したブリトン軍は必死に耐えていた。

 しかし多勢に無勢であった。

 篭城した側にとって最悪の事態は門を破られること。

 そして――そのときが訪れる。


「そんな……」


 ユーフィリアは絶望的な目で、開いた門から押し寄せる大群を見つめていた。

 彼らを食い止めようと勇敢な――あるいは無謀な者が大通りに立ちふさがった。

 意思を持たず、ただ指示に従うのみの魔法生物はそれを踏み潰していく。


 自分の最善の行動は何か?

 勇敢な彼のように大軍に立ち向かっていくべきか。しかしそれは自殺に等しい。

 王城に逃げ戻り、民も友も見捨ててのうのうとワープで飛ぶか――ヴィンゼントのように。


 わからなかった。

 体調不良と戦闘の疲労で頭が朦朧としつつあった。

 

――だから、その方角を見たのはただの偶然。あるいは奇跡。

 

 そこには一人の少年が佇んでいた。

 思わず走り出して抱きついた。


「助けて……この国を」


 ユーフィリアがなぜ彼にそう頼んだのかはわからない。

 それは本能だったのかもしれない。

 そして彼女は意識を失った。




**** ****




 俺は倒れた彼女を抱える。

 

「爺よ。俺を止めるか?」

「いいえ。お好きなように。我々に与えられた役目はご存知の通り。それ以外は何をしようが自由なのです」


 爺やの顔はほころんでいた。


「彼女を頼む」


 ユーフィリアを爺やに渡す。そして指輪をはずした。

 俺の力を縛っている指輪を――


「はああああああああああああああ」


 俺の体に邪気がみなぎる。


――邪気。


 人類には未知なる気配。

 

 俺はその邪気を遠くまで飛ばす。

 自分の中心から外へ、強烈な邪なる風が巻き起こる。

 

 それは邪気の膨張。

 俺の邪気はブリトン王国首都ローダンを覆った。 


 気とは気配。相手に自分の情報を与えるもの。

 こいつはすごい気配だ、強そう。

 あるいは、こいつは戦士タイプだな、といったことまでわかることもある。


 それと同時に、こちらも情報を得る。

 自分の気の内側の情報がわかったりするのだ。


 邪気の内部――町中の戦況がすべて事細かに判明する。


 町の中に潜む敵の数。魔族が677体。魔法生物などが1819体。


 ある者はもっていた槍で魔族を貫いていた。

 ある者は魔族の鉤爪で腹部を貫かれていた。

 

 しかし彼はその腕をつかんで放さない。

 誰かが自分の命と引き換えに魔族を討ってくれるのを待っているのだ。


 すべての位置情報をつかんだ俺は空中に転移した。

 上空1000メートル。

 そこから俺は下を見下ろす。


「多重魔法陣起動」


 俺は無数の魔法陣を自分の周囲に作る。

 

 点を連ねていくと線になる。

 線を並べてていくと面になる。

 面を重ねていくと体になる。


 面である魔法陣を無数に重ねたもの――立体魔法陣。


 俺が高速で作り出していく魔法陣は一つの姿を形作る。

 魔法陣は確かに見える。しかし触れることはできない。

 それでできた立体魔法陣は、さながら3D映像であった。


 触れはしない。

 だが確かにそこにあるもの。

 この世に力を及ぼすもの。


 それは無数の発射口をもった巨大な兵器。

 王都ローダンで空を見上げていたものがいれば、その姿が見えたであろう。


「ミリオンダラー」


 発射口からおびただししい数の光の矢が降り注いだ。

 王都ローダンに向って。


 その邪なる光の矢は的確に、敵にのみ命中した。

 町中にいる敵に。そして城壁を囲んでいる敵にも。


 魔族の腕にしがみつき続けた男は満足げに息を引き取った。






 俺はそのまま地上に降りる。

 俺の落下地点を予測したかのように、そばにはジェコが(かしず)いていた。


「2体。回避された」


 おそらくは高位魔族。

 だが俺の邪眼(イビルアイ)に映るは、もはやフメレスのみ。


「後始末は任せる」

「――イエス、マイゴッド」


 ジェコは一礼すると、音もなく姿を消した。

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